call from
「ただいま。」
代理家庭教師を済ませて家に帰った。
誰もいないのは分かっていたけど、声が出ていた。
さっきまで家族の団欒の中にいたからこの静かな家の空気は辛かった。
だから、返事が無いと分かっていてもさっきより少し声を大きくして同じ言葉を口にする。
「ただいま。」
私の声は家の中に飲み込まれて、消えた。
この家は、独りで生活するには広すぎる。
2人が海外に行ってからいつもそう思っていたけど、今日はそれを痛感した。
視界がぼやけてきた。
「...弱いな、私。」
本当に嫌になる。
異国の地で一郎は頑張っているのに、私は、何をやっているんだろう。
突然電話が鳴った。
何となく、誰からのものかが分かった。
靴を脱ぐ時間も惜しくて私はそのまま家に上がった。どうせ掃除をするのは私だ。
「はい、宮田です。」
国際電話だった。
「もしもし?」
『俺、だけど。』
久し振りの一郎の声に嬉しくなる。
だから私は、
「どちらの俺様ですか?」
と、とぼけてみた。
『一郎だよ!』
「うん、分かってたよ。
...ねぇ、一郎。ただいま。」
『...おかえり。』
私が聞きたかった言葉が返ってきた。
『どうかしたのか?』
「いや、何でもないよ。一郎こそ、どうしたのよ。もう帰国って事は無いでしょ?」
帰ってくる時に連絡を入れるように言っていたから一郎から連絡があるときは帰国するときと思っていた。
だって、他の用事もないのに電話してくるような気配りできそうにないでしょ?
『違うよ。俺、勝ったんだ。ジミー・シスファーって奴との試合に。』
「それって、タイの英雄って言われている人じゃないの?別の人?」
『いや、それ。辛勝だったけど、何とか勝てて新しいカウンターも手に入れたよ。まだまだだけどな。』
『新しいカウンター』?気になるなぁ。
でも、それよりも、
「辛勝?」
『...ああ。今入院中。ちょっと足が、な。』
「足!?また同じところ痛めたの?」
『いや、大丈夫だから。それより、の方は何か変わったことあったか?』
私は悩んだ末、今日の出来事を話した。
『そうか、母さん元気だったか。それよりも、大変だったな。一度にたくさんのことがあって。』
「うん、今日何度驚いて動揺したことか。
...そろそろ電話切ったほうがいいでしょ?結構長く話したから。」
『そうだな。それじゃあ、な。ちゃんと食事摂れよ。』
「一郎も、適度に栄養摂りなよ?じゃあね。」
『ああ、おやすみ。』
そう言って一郎が通話を切った。
私も受話器を置いた。
なんというタイミングだろう。
私が辛くて泣きたいときに欲しい言葉をくれた。
『おかえり。』
この一言で私は元気が出た。
さて、とりあえず、靴を脱いで廊下の掃除でも始めますか。
電話の前で靴を脱ぎながら気合を入れた。
今、気が付いたこと。
せっかく宮田が出てきたのに名前変換が一箇所...
次回は宮田視点です。
桜風
04.11.20
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