ぬかった...
というか、気が緩んでいたとしか言いようが無い。
何でこんなときに限って...
「。どうだ、調子は?何か食うか?」
心配そうに顔を覗き込まれるものの、正直食欲が無い。
「いい...寝る」
「いや、でも、食わないと体力戻らないだろう?大丈夫だ、俺が何か作ってやるよ」
やめて!!
と叫ぼうにも今の私にはとてもじゃないがそんなことは出来ない。
何故なら、風邪を引いてしまったのだ。それも、何年かぶりの重度の。
しかし、時期が悪かった。
一郎は試合の予定が当分ない。
つまり、元気だ。
さらに、父さんは他の選手のトレーナーも兼任しているから、その選手が地方で試合ならついていくのは当たり前。
というわけで、父さんは不在。
本来なら、私が家事ができないときは父さんが代わりにそれらをやってくれる。
でも、本当、運が無いというか、何と言うかな私である。
そうこうしているうちに、階下からは色々不吉な音が聞こえる...
このままだと風邪が治っても精神的に参ったままだ。
かくなる上は。
枕元に置いている携帯を手に震える手でダイアルを押す。
番号を登録をしていても検索に手間取ってしまう。
の携帯番号を検索して通話を押そうとしたとき、これまた運がない。
そういえば、あの子。今旅行中...
泣きたくなったけど、泣いてられないのが今の現実。
早急に代わりの手を打たねば!!
という訳で、私が電話をしたのは。
『どうしたの?俺に電話くれるって珍しいね。いつもメールとかなのに』
「た、..すけて...」
やっとの思いで私はそれだけを口にすると体力と気力の限界からか、意識が落ちていった。
「ちゃん?おい。ちゃん?!」
一言、途切れながら『助けて』と言ったちゃんはそのまま返事をしなくなった。
元々ボクシングジムに通っていて、昔は俺をのしたあのちゃんが弱々しく『助けて』と言う。
どういうことだか分からないけど、でも、居ても立ってもいられない。
「お袋、俺ちょっと出かけてくる」
店番を無理矢理お袋に任せて上着を引っつかんで走る。
何だかんだ言ってもちゃんは女の子だ。
ちょっと(?)強くても不安を抱いたりする事だって有るだろうし、怖い事だって有るだろう。
...でも、宮田って今は元気なはずだよな??
少し、疑問もあるけど、これも全部宮田家につけばすべて分かるはずだ。
宮田家の前まで来て俺は重要なことを見落としていた。
よーく考えたら、携帯からかかってきた電話なんだから、家に居るとも限らないじゃないか...
まあ、居なかった場合、宮田を探し出して...
などと考えていると家の中が騒がしい。
もしかして、ビンゴか?!
静かに庭を通って音がする部屋を覗ける位置を探す。
音は台所の方からだ。
そして、覗いてみると。
クラッシャーと化した宮田が台所で何やら作業をしている。
台所の状態はあんまり『大丈夫』ではない。
一応、玄関から入るべきだろうと思い、またしても玄関に回りインターホンを押す。
『はい?』
作業が邪魔されたのが癪なのか、宮田は不機嫌にインターホンで対応をしてくる。
「宮田?木村だけど。ちゃんは家に居るのか?」
聞いてみると
『なら、今部屋で寝込んでますよ。何で木村さん、ウチに来たんです?』
「話すと長いから、家の中に入れてくれ」
『...どうぞ。鍵は開いてますよ』
不本意そうにそう応える宮田だけど、俺は無視して宮田家に足を踏み入れる。
そして、改めて台所の様子を見て、ちゃんの言葉を思い出した。
『助けて』ってこのコトだったんだな。
「で、お前何しようとしてたんだよ?」
「玉子粥でも作ろうかと思ったんですよ」
「素人がそんな難しいもん作るなよ。お前、普段料理してないんだろう?」
台所の惨状を見ればそんなことは一目瞭然だ。
しかし、宮田はムッとしたように
「木村さんに言われたくないですよ」
と膨れた。
「てことは、ちゃん、風邪か...玉子粥なら俺が作れるから。薬の用意しておいてやれよ」
そういうと宮田は渋々従い台所から離れた。
取り敢えず、片付けれるものは片付けつつ料理をしてみる。
すると、またしても宮田が戻ってきて
「あの、ウチの薬箱ってどこにあるんでしょうか?」
と言ってきた。
「あのなぁ。俺が知るわけ無いだろう?お前、心当たりはないのかよ」
聞くとこくりと宮田は頷く。
「じゃあ、買ってくるしかないな。宮田、風邪薬買ってきてくれ」
「そうですね」と納得して宮田は出て行った。
一言、置き土産。
『に何かしたら...分かってますよね?』と言うのも忘れずに。
分かってる。
分かってるから、そんな冷たい目で睨むな...
宮田が戻ってくる前に玉子粥が出来てしまった。
冷めたら美味しくないし、仕方がないから二階のちゃんの部屋へ向かう。
ノックをして声を掛けてみると
「助かった〜...」
と少し掠れた声がした。
「あのさ、玉子粥が出来たんだけど。入ってもいいかな?」
「どうぞ〜」
許可されたから部屋に入ると布団の中で憔悴しきったちゃんの姿があった。
起き上がるのを手伝って玉子粥を渡す。
「美味しいです。変な電話してすみません。来てくださってありがとうございます。で、台所の被害状況は...?」
「まあ、先に全部食べなよ。冷めちゃうよ」
取り敢えず食事を摂って体力を回復させて聞いたほうがいいような気がする。
ちゃんもそれを察したのか一生懸命食べ始めた。
木村さんの玉子粥を完食した私も色々心の準備が出来た。
「さあ、木村さん。覚悟は出来てます。台所の被害状況はどんな感じですか?」
「うん。えーと鍋が...」
木村さんの報告を聞いてまたしても寝込みたくなる。
何をどうやたらそこまでの被害を出せるんだ、一郎!!
「ホント、もう。木村さんには何とお礼を言っていいやら...」
「いやいや。俺で片付けれるものがあったら片付けておくよ。宮田は、今風邪薬を買いに行ってるから。薬箱に位置が分からなかったんだ」
あー。そうか。一郎に教えてなかったしね。今回は仕方ないか...
「何、勝手にの部屋に上がってるんですか?!」
ドアを見ると走ってきたのか、軽く息が上がっている一郎が近所のドラッグストアの袋を提げて立っている。
「ありがとう、一郎。木村さんは玉子粥が冷めないうちにと思って持ってきてくれたんだから、そんなに睨まないでよ」
私が一郎を宥めているうちに木村さんはコップを持って部屋から出て行った。そして、すぐにコップに水を入れて戻って来てくれた。
何から何まで申し訳ない。一郎はそこまで気が回らないしね。
薬を飲んで少し寝ると起き上がれる程度には回復した。
いやはや、体育会系だね。
やはり、助けを求めた相手は木村さんで正解だった、と思う。
『兄』ってのはああいう人のことを言うんだよ、一郎クン。
このシリーズで、
『お兄ちゃん的なキム兄さんに一郎さんが対抗する』
ってのがやってみたかったんですよねー。
やっとここでそういうのが出せた♪
桜風
05.11.19
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