王子VS王様





たまたま鴨川ジムで練習をしていたところに飯村さんがやってきた。

「あら、ちゃん。今日はあなたも来ているのね?」

「ええ、久しぶりに汗を流したいって思ったので。飯村さんは..鷹村さんですか?」

声を掛けながらキョロキョロと誰かを探している様子の飯村さんに聞くと

「ええ、後で川原ジムにも行こうと思っていたんだけど、ちゃんが居るってコトは...ああ、やっぱりね」

飯村さんの視線の先には、一郎。

2人が休憩に入ったのを見計らって

「鷹村さん、宮田君ちょっと良いかしら?」

飯村さんが2人を呼ぶ。

「おう、どうした?」

「何ですか?」

「実はね、企画を考えているの。2人に協力してもらいたいって思ってるんだけど...」

「ほう、どんな企画だ?」

「題して『世界王者VS東洋太平洋王者 ガチンコ勝負』!」

「ベタですね」

冷ややかに言うのは一郎。

「何の捻りもないわ...」

思わず私も突っ込んでしまう。

飯村さんはコホンと咳払いをし、

「ま、まあ。これは原案だから。後でいくらでも推敲できるし。それよりも、内容よ」

言われてみれば、そのタイトルでは内容が全くわからない。

「オレ様と宮田がボクシングの勝負か?左だけで勝てるな!」

自信満々の鷹村さんに

「階級が違うじゃないですか!それだったら、メチャクチャな企画ですよ!!」

と、ムキになる一郎。

「まあ、そう逸らないで。内容は、肝試し」

「「「は?!」」」

ヤバイ!これは非常にマズイ!!

一郎はこの手のものに非常に弱い。

この先の人生絶対に接点を持ちたくないものの一つのはずだ。

一郎の表情を盗み見ると..目が逝ってます。

どうしよう、父さん!!

「それで、日にちなんだけどスケジュールの方はどうなってる?」

「あの〜、受けるとは言ってませんよ?」

一応助け舟のつもりで声を掛けてみたけど

「あら?もしかして宮田君、こういうのが苦手??スクープだわ!!」

などと言われてしまい、

「ふん!そうか、宮田はお化けが苦手か!!それなら仕方ないな。オイ、この企画は無しだ。オレ様の不戦勝!!」

とか妙にハイテンションで鷹村さんが締めくくろうとする。

...鷹村さんも様子がオカシイ。

「ちょ「ちょっと待ってください!!」

なにやら一郎の声が聞こえた気がするけど、それは気にしない。

「誰が、そう言いました?むしろ鷹村さんのほうが苦手なんじゃないですか?」

私の指摘に鷹村さんが一瞬怯むが、

「そんな筈ねぇだろ!オレ様に怖いものは無い!!」

と言っちゃったもんだから、

「じゃあ、この企画はOKってことね?じゃあ、今度詳しく説明するから」

と飯村さんは上機嫌で帰っていった。


帰りに、私はレンタルビデオショップへ行く。

目ぼしい物を借りて、家に向かった。

「一郎、これを見るように!!」

「ビデオ...?ちょ、。これって...」

「見るように!!」

「いや、無理...」

「ちょっと、そんなことで世界チャンピオンになれると思ってるの?!」

「落ち着けよ、...これと世界チャンピオンってどう関係が有るんだよ」

「いい?今の一郎には、ピンクのトランクスを穿いていてもキャーキャー言ってくれるファンがいるのよ?」

「ピンクは俺が選んだんじゃ...」

「聞きなさい!一郎がお化けとかが怖いってその子達が知ったらどう思うの?きっと『あーあ』って落胆するよ。それでも『いやん、ステキ!』って思うのはきっとごく少数だわ。いい?ファンの子を悲しませて何がチャンピオンよ!!」

一郎は呆気に取られて、「あ、ああ...」と返事をした。

「というわけで、私が夕飯を作ってる間、見ておくように!」

そういい残して私はキッチンに向かった。


...これは一体どうしたことだ?」

今日は珍しく一番最後に帰ってきた父さんが食卓を見てそう呟いた。

「結構リアルでしょ?苦労したんだよ〜」

「見たくねぇ...」

食卓には結構エグイ盛り付けのおかずが乗っていた。

父さんに飯村さんの話をすると、深い溜息をつき、

「なあ、。誰にだってひとつやふたつ、苦手なものがあっても良いんじゃないか?」

「そうだぜ。いいコト言うな、父さん」

「甘い!甘いよ父さん!!」

父さんは怯みつつ、「どういう事だ?」と聞いてきた。

「イメージってのは大切よ。これから先、どんな挑戦者が現れるかもしれない。その挑戦者がホラーな顔をしている人だったらどう?一郎、負けちゃうでしょ?克服するなら今よ!!」

自分で言ってて「なんだそりゃ?」て理屈だが、引くに引けないところに来てしまっている。

結局、一郎も父さんも折れた。


毎日ホラー映画を1本、夕飯はエグイ盛り付けで、という日が過ぎていった。

そして、飯村さんがやって来た。

今度も鴨川ジムに居る時だ。

「あ、鷹村さん、宮田君」

「お、おう!どうした?」

「この間の話ですか?」

投げやりな一郎の言葉に飯村さんは本当に済まなさそうに

「ごめんなさい。あの企画だけど、デスクに止められちゃったの。紙面の無駄だって」

まあ、マニアしか楽しめそうも無い企画だよね...

「だから、せっかくだけど今回は無しというコトで、いつもどおりのインタビューを対談って形でお願いできるかしら?」

飯村さんの言葉に

「仕方ねぇなー」

と妙にほっとした感じの鷹村さん。

「分かりました」

と言いながら

(俺のあの地獄のような日々を返してくれ...)

と言いたそうな一郎。

それを見て心底気の毒そうにしているのは父さん。

ま、まあ。

飯村さんが最初に掲げた企画の『世界王者VS東洋太平洋王者』ってところは合ってるし、一郎も苦手を克服する努力が出来たって事で、OKに..ならないかなぁ??

思いっきり睨まれてる気がするわ...


今日は一郎の好きなご飯を作って機嫌を直してもらおう。




ホラー苦手王者のVSもの。
...勝手に設定作っちゃいました(笑)
一郎さんはきっと泣きそうになりながらも妹の期待に応えるべくホラ-ビデオを見たに違いない。
そして、『いやん、ステキ』と思うごく少数のファンに私は当て嵌まります。
ええ、間違いなく!!


桜風
06.2.18


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