オトメの事情 ―中編―





バイトが終わる時間になると浜辺で走っている姿が見えた。

「あれって、お兄ちゃんたち?」

「そうだね。砂浜で走るのって足腰を鍛えれるから。そっかー。私も明日の朝のダッシュには仲間に入れてもらおう」

中々充実した朝を迎えられそうだ。

「スポーツ馬鹿め」

は?一緒にどう?」

「私はまだ死にたくない。第一、私はここの海から昇る朝日をカメラに収めるのよ!」

そういえば、今日は一度もカメラを手にしてなかったなぁ。

「花火は?」

「撮りたいけど...どうかな?」

そう話していると私たちに気づいた4人がこちらにやってきた。

「終わったのか?」

「うん。今日は花火大会があるらしいよ」

「そうらしいね。ちゃんたちは行くの?」

「勿論。皆さんは?」

「一応、その予定だよ。ほら、昼間のナンパに失敗しちゃっただろ?鷹村さん、ムキになってるんだよ」

たちは、今日は何処に泊るんだ?」

「何かね。ここの店長さんって家で民宿も経営してるらしくて、そこに泊めてもらえるのよ」

初め聞いたときには、この待遇の良さに驚いたけど、そこは冬しか開けないから今はただ部屋が余っているだけなんだそうだ。

「じゃあ、そこに行くから待ってなよ。一緒に行こう?」

「木村さん、ナンパはいいんですか?」

「何か、気が乗らなくなったからね。鷹村さんと青木だけで行けばいいさ。それに、ちゃんたちも2人だし。宮田ひとりに任せてられないだろ?」

「お願いした方がいいかもよ、。昼間のやつらがまだ居るんじゃない?見つかったら面倒くさそうだし」

てか、次に私の前に現れたらストレートの寸止めで追い払うことが出来そうなんだけど...

ここで断ると一郎の機嫌が悪くなるよね。

「じゃあ、お願いします。一郎、あとでね」

そう言って民宿へ向かった。

中々辺鄙なところにあって、険しい道のりだった。

店長さんの家で荷物を置いてくつろいでいると声を掛けられた。

呼ばれるままに行ったそこで、私たちは思いもよらないものを見た。


一郎たちを待っていると、店長さんの奥さんが呼びに来てくれた。

玄関先で待っている一郎たちが私たちに気付いて、驚いた表情をしている。

「どうしたんだよ、それ。浴衣なんて持ってきてたのか?」

「ううん。店長さんの奥さんが貸してくれたの」

「似合ってるよ。可愛いね、2人とも」

ここにも天然タラシが...


気を取り直して、花火のメイン会場へと向かった。

地元では大きな花火大会らしく結構な人で賑わっていた。

「人が多いから気をつけなよ」

そう言って木村さんはさりげなく人ごみから庇ってくれた。

「ありがとうございます」

突然後から手を掴まれて

「行くぞ、

一郎に力いっぱい引っ張られながら人ごみの中を行くことになった。

「え、何?一郎??」

振り返ってみたけど、既にと木村さんの姿は見えない。

「一郎、どうしちゃったの?たち見えなくなっちゃったよ」

「いいだろ、木村さんなら宮原と一緒でも大丈夫だろうし」

「...に何か言われたの?」

私が木村さんと並んでたってことは、一郎はの近くに居たはずだし。

押し黙る一郎の口は本当に堅い。

これ以上聞いても何にもならないことは分かりきってるから、仕方なく小さいときみたいに一郎と手を繋いで歩いた。

「久しぶりだね」

「何が?」

「一郎と手を繋ぐの」

「ついでに、祭りで迷子になったのもな」

「うわ、私ら迷子の常習犯じゃん!って、今は迷子じゃないけどね。さっき木村さんがいいスポット知ってるって教えてくれたから。そこに行ったら合流できるよ、きっと」

「ああ...ごめんな、

そう言って一郎はそっぽを向く。

たぶん、突然私をたちとはぐれさせちゃったことがどうやら気まずいんだと思う。

「ねえ、一郎。あれ食べたい。勿論、一郎のおごりで!」

目に止まったやきそばを指さした。

「わかったよ。ちょっと待ってろ」

苦笑をしながら一郎は屋台に向かっていった。

ちょっと人ごみから外れて待っていると一郎がやってきた。

「待ってろって言っただろ?」

「だって、人が多かったんだもん。って、あ。私もそれ食べたい!!」

一郎の手にはいくつかの屋台で購入したものがあった。

「分かってるよ。まあ、食べようぜ」

そう言って私にやきそばを手渡し、一郎は傍に座った。

私は借り物の浴衣だから汚すわけにはいかない。

も座れよ」

「だって、ここで座ったらこれが汚れるでしょ?」

そう言って浴衣の袖をちょこんとつまむ。

「じゃあ、コレならいいだろ?」

一郎は自分のハンカチを敷いてトントンとそこを叩いた。

「天然タラシめ...」

「どうかしたか?」

「んーん。なんでもない。では、失礼いたしまして...」

どうせ私がアイロン掛けをしているハンカチだもんね。

一郎と並んで座って買ってきたものを食べ尽くした。

「何か、ちょっと足りないかも」

「同感。まあ、後でまた何か食べようぜ」

そう言って一郎が立ち上がる。

続いて立ち上がった私は一郎のハンカチを拾い上げる。

はぐれないように手を繋いで木村さんが言っていた場所に向かうと既にたちは居た。

「うわ、やっぱり仲良し兄妹だ...」

「遅かったな、2人とも」

木村さんが苦笑しながらこっちに手を振ってる。

「ごめん、。木村さん」

「ううん。大丈夫。木村さんから有る事無い事聞き出せたしさ」

「有る事無い事って何?」「有る事ない事って何だよ?」

「頼むからハモらないでくれよ...」

そう言って木村さんは笑った。

周りが少し静まってきた。

何だろう、と思ったら花火の打ち上げが始まった。

もしかしたら少し遠くで花火が始まるというアナウンスをしていたのかもしれない。

「最近の花火って凄いねぇ」

「お前、いつの人だよ」

空に浮かぶ花火はとてつもなく大きくて、そして、ハート型や星型の模様まであった。


「あれ?もうお終いかなぁ?」

周りを見ると人が引いている。

「かもな。首、疲れたなー」

「ねー。でも、綺麗だったね」

ずっと上を向いていたからホント首が疲れた。

「そういえば。明日は何時から朝練?」

「えーと...」

一郎が振り返って木村さんを見ると

「たぶん、6時くらいじゃないかな?どうしたんだい?」

木村さんが代わりに答えてくれた。

「あの浜辺。また走りますよね?」

「うん、走るよ」

「ぃよーし!」

私がガッツポーズをした途端また光った。

何事かと思って顔を向けると、そこにはいつの間にかカメラを構えていたの姿があった。

「いつの間に...」

得意そうな笑みを浮かべてはこちらを見ていた。

そうだよね。

今日はカメラ構えてなかったもんね...

その後、また買い食いをしながら店長さん宅に戻った。




高校生で手を繋いで歩く兄妹。
ちょっと引くかなぁ??
でも、宮原嬢も木村さんも簡単に受け入れてる感じですね(苦笑)


桜風
06.7.15


ブラウザバックでお戻りください