オトメの事情 ―後編―





翌朝。

私は予定よりも早く夜明け前に目が覚めた。

取り敢えず着替えて外に出ると潮の香りのする澄んだ空気が気持ちいい。

「はっやー!」

の声に驚く。

「そっちこそ」

「だって、朝日撮るんだもん」

そういえば、そんなコト言ってたねぇ。

「じゃあ、ボディーガードとしてご一緒いたしましょうかね」

「まあ!恐縮ですわ」

そんな会話をしながら私たちは浜辺に向かった。

一応、店長さんたち宛てに置手紙もしているから騒ぎにはならないだろうし。


夜明け前の浜辺には当然誰もいなくて...って、居た。

「おう!。早いな!!」

「鷹村さんたちこそ。昨日はナンパ成功しましたか?」

「うるせぇ!!」

どうやら、失敗に終わったらしい...

ちゃん、それって昨日のと違うよね?」

昨日持っていたカメラと今持っているカメラが違うことに気が付いた木村さんがに声を掛ける。

「そうですね。こっちの方が得意なんです」

「じゃあ、。私走ってくるけど、何かあったら大声出して呼ぶんだよ?」

「大丈夫。気にしないでスポ根しといで。私はじっと朝日を待つから」

そう言ってを置いて浜辺で走りまくった。

流石にもうプロのメンバーと同じようには行かないから自分のペースで走っておく。

「おい、。遅いぞ!!」

「自分のペースでやりますのでお気遣いなく!」

「というか、青木!お前は何でちゃんよりも遅いんだよ!!」

「うるせー!」

浜辺で大騒ぎをしていると、すぅ、と辺りが明るくなってきた。

海を見ると日が昇ってきている。

思わず足を止めてその様子を眺めていた。

少し離れたところに居るを見ると、生き生きとした表情でシャッターを切っている。

「宮原は、相変わらずだな」

いつの間にか隣に立っていた一郎がそう呟く。

「だね。凄くいい顔してる」


太陽が水平線から離れるとはカメラを下げた。

、まだ走っておくの?」

「戻る?」

「良いよ。気が済むまで走りな。待ってるから」

そう言って場所を変えてカメラを構え始めた。

取り敢えず、の厚意に甘えて気の済むまで走ることにした。


「しっかし、よく走ったね。いつもこうなの?」

バイトが始まって、が感心したように話しかけてきた。

「うーん...いつも5キロくらい?今日は、それよりも多いかな?」

「ちょっと、何普通に凄い数字を言ってんのよ...」

「凄いかなぁ?」

「凄いよ」

「陸上部でも?」

「...陸上部だったら、普通かなぁ?」

「てか、こんな所で普通にそんな会話してるお前らの方がオカシイと思うぞ?」

「「いらっしゃいませ〜!!」」

不意に聞こえた声に思わず営業スマイル。

「なんだ、一郎か」「なんだ、お兄ちゃんか」

昨日と同様にお店にやってきた一郎が話に入ってきた。

「俺と分かった途端それかよ」

「じゃあ、笑顔振りまいてみましょうか?お兄様?」

不服そうに言った一郎に私は提案してみたけど、

「いらねぇ」

と凄く嫌そうな顔と共に分かりきった返事が返ってきた。

そりゃそうだ。

私だって一郎のバイト先に行って営業スマイルを向けられたら悪夢として当分夢に登場してもらうことになりそうだもんね。

「それはそうと、練習は?」

「昨日と同じだよ。巻き込まれる前に逃げてきた」

「ん?てことは、今日はボディーガードがいるのか?」

ポン、と手を叩きながらがそういう。

「何、ボディーガードって?」

「何のことだ?」

私と一郎は何のことか分からずの様子を伺っていると、

「ボディーガードって言うよりも、虫除け?お兄ちゃんも一緒ならが海で遊んだって文句言わないでしょ?」

「つまり、今日は泳ぎたい、と?」

「そ!良いってことだよね?」

「いや、まあ。別の俺の許可なんて要らないだろ...」

いや、何も言わずに海に出ると煩そうじゃない、アナタ。

「まあ、とにかく。休憩までお客やっててよ。よーし!働こう、!」

「はいはい。まあ、もうちょっとで休憩だから」

私とは一郎を置いて仕事に戻った。



「さぁーて!泳ぐぞ!!」

休憩時間に入った途端にが元気に叫んだ。

そして、手には浮き輪。

「...泳げないのか?」

「まさか!海で泳ぐのが苦手なのよ。で、私はこれの中に入って浮いてるから、お兄ちゃん、引っ張っちゃいなさい!」

「命令形かよ!」

まあ、そんなこったろうと思った。

の運動神経は普通に有るけど、海でアクティブに泳げるなんて思わないもん。

「引っ張ってあげなよ、一郎。筋トレ筋トレ」

「え、それって私が負荷になってるって事?」

「俺一人で泳ぐよりは重いだろ?」

自分を重り扱いされたのが気に入らないはフテてるけど、海に向かっていくにしたがって笑顔になってきた。

浜からかなり離れたところまで泳いでいったり、そこで一郎がの浮き輪から手を離してがとても慌てたりと海の中でも大騒ぎだった。

休憩時間はあっという間に過ぎて、仕事に戻った。

一郎は一人で走ってくると言ってそのままどこかへ行ってしまった。


私の人生初のバイトはあっという間に終わった。

「どうだった?」

片付けているとが声を掛けてきた。

「んー。まあ、バイトって感じだった..かな?」

「なにそれ!」

は笑いながらそう言った。

店長さんに挨拶をしてお店を出るとそこには無駄にかっこつけて海を眺めている一郎がいた。

「どしたの、こんなとこで」

「ああ、終わったのか。たちも帰るんだろ?待ってたんだよ」

そう言って一郎は足元も置いていたスポーツバッグに手を伸ばした。

「しっかし、焼けたね...」

「一郎は、まだ色が白いね」

「うるさい」

そんな会話をしながら、昨日来た道を戻った。

いつもの学校帰りのそれと変わらない会話で。

そして、を家まで送った後の帰り道は予想通り、一郎のお説教がBGM代わりとなっていた。




何だか無駄に長かったオトメの事情もこれにて終了。
最後、お兄ちゃんにお説教されたヒロインですが、
「俺にナイショで海に行くな」
みたいなコトを言われたと思われ..


桜風
06.8.19


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