夏休みの半ば、携帯に電話が掛かってきた。
見るとからだ。
「もしもし、どうしたの?」
『ごめ〜ん、。明日どうしても抜けらんない用事が出来ちゃった。ホント、ごめん。』
「いや、いいよ。じゃあね。」
明日何か約束してたかなぁ...?
考えても思い出せないし、どうしても外せない用事が出来たって言ってたからまあ、結果オーライだね。
翌日、バイトもない私は夏期講習に出た後、家に帰って家事やら課題やらをこなしていった。
お風呂に入っているときにインターホンが鳴ったけど、気にせず、居留守を使ってゆっくりお風呂に浸かった。
こんな時間に尋ねて来る方が非常識ってことで。
お風呂から出て髪をタオルで乾かしながら家の中を歩いていると、窓を叩く音がして振り返って驚く。
そこには何故か、鴨川ジムのプロメンバーが揃っている。とりあえず、玄関を指差して玄関に回ってもらうようにして鍵を開けに行った。
「何だよ、。もう風呂に入ったのかよ。邪魔するぞ。」
と鷹村さん。
「邪魔するよ。」
と青木さんが鷹村さんに続き居間に向かい、
「ちゃん、はい。お邪魔します。」
花束をくれた木村さんも家に上がっていく。
残った幕之内君は何故か、もじもじしていた。
...私、こういう煮え切らない雰囲気ダメなんだよね。『シャキッとしろ!』と思ってしまう。
「はいはい、幕之内君も上がったら?」
「でも、迷惑じゃぁ...」
「あの人達が帰らないなら既に最大級の迷惑だから気にしなくてもいいよ。いいから入って。」
幕之内君を促して家のドアを閉めて急いで鷹村さんを追う。
「で、どうしたんですか、皆さん揃って。しかもこんな時間に。」
時計を見ると10時。結構遅い時間じゃないのかな?
「つれねぇなぁ。同門の誼じゃねぇか。」
「私が辞めた後に入ってきた『同門』ですけどね。皆さん減量は?水物大丈夫ですか?」
一郎が海外に行ってからどうも試合に疎くなってしまった。いけない、いけない。
「オレ様はコーヒー、小物どもは白湯でいいぞ。」
「じゃあ、皆さんコーヒーでいいですね。」
鷹村さんがまた何か言ってたけど無視して人数分のコーヒーを淹れる。
コーヒーを人数分淹れて再び戻ると青木さんが、
「ちゃん、これウチのラーメン屋のタダ券だよ。今度食べに来なよ。メシ作るの面倒くさいときとかさ。」
「...はぁ。」
よく分からないけど貰っておこう。
「じゃあ、これはオレ様からだ。ありがたく受け取れ。」
鷹村さんが何やら筒状の物を渡してきた。
「どうも...?」
手にとって見るとそれはポスターだった。一応広げてみると、やっぱり鷹村さんのちょっと前の試合のポスターだった。
「ちゃんと飾れよ。そうだ、今すぐ飾れ。の部屋は何処だ。」
逆らっても無駄だからとりあえず案内する。
「ほほーう、ここがの部屋か。」
部屋の中を見渡し、鷹村さんが無駄に偉そうに言った。
「へぇ、かわいいね。」
「女の子の部屋って感じするよな。」
「宮田君の部屋もこんな感じなんですか?」
...やっぱ気になるのはそこなんだ、幕之内君。
「いや、一郎の部屋は何もないよ。飾りっ気のない部屋だから。」
「よし、じゃあ次は宮田の「ダメです。」
ポスターを貼ることをすっかり忘れてくれてるのは有り難いけど、鷹村さんの言葉を遮った。
「いいじゃねぇか、いないんだから。」
鷹村さんがそう言ってくるけど、
「だから、ダメなんです。本人いないのに部屋の公開なんてできません。あの部屋は私が預かっているんですからいい加減なことは出来ません。」
と断固拒否をした。
「じゃあ、仕方ねぇな。今日だけは言うこと聞いてやるよ。」
...今日何かいい事あったのかな?
そう考えていると今度は鷹村さんが箪笥に手を伸ばしてきた。
「うわぁ。そこもダメです。部屋の中の物を勝手に触らないでください。触ったら警察呼びますよ。適当に理由をつけて突き出しますからね!!」
そう釘を刺していると電話が鳴っているのが聞こえる。
うわ!こんなときに限って子機を下に置いたままだ。
慌てて階段を下りて電話に出ると、国際電話だった。
『もしもし、?久し振り..でもないか。元気か?』
「元気だよ。どしたの、一郎。もう帰国?」
『何で俺が電話すると帰国になるんだよ。まだ終わってない。、誕生日おめでとう。』
...え?今日何日だっけ?
「今日ってもしかして27日?」
『そうだよ。毎年お前の方が騒いでたのに、今年は忘れてたのか?』
だって、祝う人がいないんだもん。仕方ないでしょ?自分の誕生日を自分独りで祝うなんて寂しい事しないよ。
「あ、だからか...」
『何が?』
「昨日が『明日ダメになった』って電話くれたり、今も鴨川メンバーがウチに来てるんだよ。さっき鷹村さんが、『今日だけは言うこと聞いてやろう』って大人しく引き下がったし。そっか、誕生日か。」
『良かったな、祝ってもらえて。』
「そうだね。ではでは、改めて、お姉ちゃんから愛する弟君へお祝いの言葉を。」
『妹から、尊敬する兄貴へ、の間違いだろ?』
一郎の訂正は無視して、
「一郎、誕生日おめでとう。これから1年、一郎にとって素敵な年になりますように。」
『もな。じゃあ、もう切るな?元気で。』
「一郎もね、おやすみ。」
『おやすみ。』
通話が切れて私も受話器を置く。
今日の鴨川メンバーの奇行の理由が分かった。皆私の誕生日を祝いに来てくれたんだ...たぶん。
そう考えながら階段を上がって部屋に戻ると、鷹村さんのポスターが貼ってある...。覚えてたんですね。
「どうだ、ここなら必ず目に入っていいだろ。よし、じゃあ、下に降りるぞ。」
満足したらしい鷹村さんが部屋を出て行った。皆もそれに続いて出て行く。
下に降りたら当然冷えているコーヒーを淹れ直す。
「手伝おうか?」
木村さんが声を掛けてきた。
「大丈夫ですよ。そうそう、お花、ありがとうございました。お礼を言うのが遅くなってしまって...」
「いや、普通は呆気にとられるって。本当は会長や八木さんも来るはずだったんだけど、ちゃんが余計な気を遣うんじゃないかってやめちゃったんだよ。というわけで、会長の予算でケーキ買って来てるから食べよう?」
「本当ですか?じゃあ、お皿とか用意しないといけませんね。会長たちも来てくれたら良かったのに...。会長以外、鷹村さん止めらんないんだから。」
「たしかに」と笑いながら木村さんが手伝ってくれた。
結局ケーキを食べながら宴会に発展し、日付が変わるまで皆で騒いだ。
アルコールが入ってない状態であそこまで酔える鷹村さんに呆れつつも感心してしまう。
「じゃあ、俺ら帰るから。遅くまでごめんな?」
「いえ、ありがとうございました。嬉しかったです。皆さんも事故に遭ったりしないように気をつけて帰ってくださいよ?」
「オレ様がそんなドジを踏むと思ってるのか?も、戸締りしっかりしろよ。じゃあな。」
そう言って頭を乱暴にガシガシ撫でてくる。そのまま皆帰っていった。
やっぱりさっきまでたくさんの人がいたところに独り残るのは寂しいけど、でも、なんだか温かい気分になる。
あ、そういえば、まだ祝ってないや。
誕生日おめでとう、私。きっと素敵な1年になるよ。
1日遅れの誕生日夢。
良く考えたらヒロインと一郎さんって双子だから誕生日も一緒なんですよね〜。
桜風
06.8.28
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