いつもより早めに家に帰ると満面の笑顔の母に出迎えられた。
いやな予感がしたけど、
「これ、お願い」
と言いながら私の鞄を(勝手に)受け取った母にメモと財布を渡されて手を振られる。
「いってきまーす」
玄関においてあったチャリキーを手にとって今開けたばかりの玄関を再び開けた。
「なんだって、全く...」
ウチの母はよく買い忘れをする。
そして、自分で買いに行けばいいのに、私が帰るのを待っているのだ。
ついでに。
その買い物がなければその日の夕飯も面白いものになる。
面白いのは見た目で、味は物悲しさを帯びる。
それが分かってるから仕方なく買い物に出ているんだけど...
買い物を済ませて土手を走っていると見慣れた後ろ姿があった。
「よ!お兄ちゃん!!」
併走して声を掛けた。
「何だ、宮原か。珍しいな、こんな所で会うなんて。というか、結構久しぶりじゃないか?」
「だねー。練習中?」
「まあ、な」
「暇だから伴走してあげよう」
「いらねぇ。てか、豆腐買ったんなら早く家に帰れよ。晩飯だろう?」
「うん。危うく、豆腐無しの麻婆豆腐になるところだったの。怖いわ」
「それは、食べたくないな...」
「うん、たぶん今朝お母さんそんなこと言ってたから。宮田家は?」
「さあ?特に聞いてないけど...」
適当な会話をしながら走ってると目の前に宮田くんと同じような格好をした人たちがいた。
小さく、宮田くんの「げ、」と呟きが聞こえた気がしたなぁって思ってたら
「宮田くーん!」
一人が大きく手を振ってきた。
「お知り合いですか?」
「一応、な。前のジムで知りあったんだよ」
よそよそしい宮田くんとは反対に人懐っこい笑顔を浮かべた人とその後を追うようにもう一人が駆け寄ってきた。
「久しぶりだね、宮田くん!」
「ああ...」
「あれ?宮田さん。彼女さんですか?」
私の方を見ながらそういう青年は少し可愛い顔をしていた。
「違うよー。元クラスメイト」
「てか、の悪友だ」
「まあ、心の友だなんて!照れるじゃない!!」
「宮原、お前耳鼻科にでも行け。そういえば、決勝だな」
私に向かって一言冷ややかに言った後、宮田くんが可愛いほうを見て言った。
「何、決勝って?」
「東日本新人王決定戦。覚えてないか?」
「はいはい、了解。あの大会ね。へー、君、決勝戦に出るの?お兄ちゃ、じゃなかった。宮田くんが出れなかったあの決勝に?」
「はっきり言うな...」
苦笑して宮田くんが言うけど、私は勿論そ知らぬ顔。
「ええ、まあ。あ、ボク板垣学って言います。もし良かったら応援してください!!」
「うん、頑張って」
「ちなみに、この幕之内先輩は全日本新人王になったんですよ」
「へー」
こんな大人しそうで宮田くんをキラキラと見ているこの子が、優勝者。
お兄ちゃんが出れなかった決勝に出たんだ?人って見かけによらない典型例かぁ...
そんな話をしていたら、向こうからまたしても宮田くんたちと似たような格好、つまりはジャージを着た人が走ってきた。
今度はひょろりとしてる背の高い人だ。
宮田くんたちもそれに気付いたみたいだけど、何となく空気が張り詰めてきた。
なに、この空気?
「あ。間柴さん」
板垣くんが声をかけた。
「...ああ」
間柴さんと呼ばれたこの人は足を止めた。
「こんにちは、間柴さん」
「久しぶりだな」
意外に渋い声...
「そういえば、板垣。噂で聞いたんだが...今度の試合で妹を賭けているそうだな」
「いや、あの。ボクが言い出したんじゃ無くて「勝て!」
間柴さんが強く言った。
「はい?」
「妹を守るのが、兄貴の務めだ!」
「ああ、当然だな!」
宮田くん、強く同意しないように...
「ですよね!勿論、勝ちますよ!!」
「何かさぁ、宮田くんたちって妹が彼氏とか連れてきたら煩そうだね...」
思わず感想を述べてしまった。
すると、何故か幕之内さんがそろりとその場から離れていきそうになった。
それを間柴さんが睨みつけている。
何だ?
「幕之内さんって、間柴さんの妹さんと付き合ってるとか?」
はい。私、爆弾投下しちゃったようです...
私の一言を必死に否定している幕之内さんとかなり鬼の形相で睨んでいる間柴さん。青筋立ってますよ、大丈夫ですか?
「え、えーと。板垣くんの妹さんは、彼氏とかいないの?」
今の気まずい雰囲気を変えたくて話題を変えたつもりなのに、この子も同じだった。
「いたら連れてこさせます。ボクの認めた男じゃないと許しませんからね」
板垣くんの答えに宮田くんは力強く頷く。
...なんだ、この兄貴同盟は?
「ところで、宮原」
兄貴同盟を解散したあと、再び2人で走っていると宮田くんが声を掛けてきた。
そして、内容も想像がつく。
「何ですか、馬鹿兄」
「に、彼氏とか...」
「本人に聞いてください。馬鹿兄」
どこもお兄ちゃんの苦悩は絶えないようです。
それとも、これはボクサーなお兄ちゃんだけなのか...
謎が深まるばかりである。
というか、いい加減妹離れしなさい...
このシリーズはヒロインか一郎さん視点だったのですが。
この話はどちらか視点ってのが難しいので、第三者であり、2人に絡める宮原嬢視点で。
シスコン(?)3人組揃い踏み。
一歩、気の毒ポジションでした(笑)
桜風
06.9.16
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