午前の競技は滞りなく済み、昼食が終わったら午後の競技だ。
初っ端から体育系クラブの威信を掛けてのクラブ対抗リレー。
コレは、真剣勝負に走るのは陸上部、野球部、サッカー部、バスケ部くらいで、あとは笑いに走る傾向があるらしい。
宮原が態々解説してくれた。
「で、。どこ走るのかな?」
ワクワク、と自分の口で言いながら宮原は入場口を見ていた。
「まあ、メインは3年じゃねぇの?」
「おバカ!さっきの私の話聞いてた?陸上部のカテゴリーは『本気モード』よ」
何だか胡散臭い演技をしながら宮原がそう訴える。
「だから?」
「勝てない3年は出さずに、勝てる1年を出すに決まってるでしょ!」
「、出るのか?」
「確実に。さっき、陸上部の部室に向かってたし」
そういうもんか、と思いながら午後の競技が始まるのを待った。
入場行進曲と共に、各部精鋭たちが入場してくる。
宮原が言ったとおり、その中にの姿があった。
「ふうむ。は短パンか」
「何してるんですか。ここは生徒席ですよ」
午前の借り物競争のお陰でこの人が来ているのは知ってたけど...
正直、校内で、知り合いの前で会話したくない。
「ふん。保護者席とやらは見えにくくて仕方ない。いい位置でを見てやらんとな。おう、騎馬戦。思ったとおり宮田は櫓の上だったな。さすが虚弱くんだな」
「はいはい」
適当にあしらいながらスタートの合図を待ってみる。
耳に痛いピストルの音と共に各部一斉にスタートした。
たしかに、笑いに走っている部がある中で真剣に走る部は本当に速い。
「あー、陸上部の最初は長く走るんだ」
かなり後方から陸上部のユニフォームを着た人が走りだした。
「てか、男子と女子で別れて走るんだな」
「だねー」
カメラを構えていた宮原がそれを降ろして、席に着いた。
男子の部は、陸上部が辛くも勝利。
そして、女子の部が始まる。放送部が「アベック優勝なるか!」とか言いながら盛り上げていた。
「ちょ、お兄ちゃん。コレ持ってて」
そう言って鉢巻を俺に渡した宮原の目は既に何かを狙う鋭いもので、この姿を見ると宮原は、やっぱり凄いと思ってしまう。
は第一走者で他の人よりも長く走る。
「さっすが兄貴だなー」
後方から声がした。
鷹村さんなら無視したけど、この声は、
「清村先輩」
あの同じ赤組でリレーに出場する3年の先輩だった。
「ここでも一番長い距離を走る、か。てか、先輩差し置いて、任されたんだな」
「紅白対抗リレーまで時間がありますしね」
そうこうしている内に、スタートの準備が出来たらしい。
スタートの合図と共に駆け出したは本当に自由で。凄く気持ち良さそうに走る。
「やっぱ、いいな。お前の妹。俺もあんな風に走りたかったよ」
少し寂しそうにそう言った清村先輩は、眩しそうに目を細めていた。
紅白対抗リレーの集合アナウンスが掛かった。
集合場所へ向かうと顧問が何やらご立腹中のようだ。
「何があったんですか?」
清村先輩を見つけてこの状況を聞いてみると
「お前の妹。やっぱりアンカーだと」
と苦笑しながらそう言う。
「で、何で先生はあんな...」
「白組の顧問とウチの顧問。犬猿の仲でな。騙されたってのが気に食わないんだろう」
「お前たち!必ずあいつには勝て!!赤組どちらでもいい。優勝すればお前たち全員にアイスを奢ってやる!!」
顔を真っ赤にしてそう約束する教師の言葉にまたしても歓声が上がる。
目の前にニンジンをぶら下げられた馬って感じだな。
「清村、宮田。アンカーのお前たちには特に期待してるぞ」
「うーい」
「はい」
期待されても困るんだけどな。俺、そんなにやる気ないんだけど...
入場口付近で火花を散らしている顧問たちをよそに、俺たちは入場した。
ストレッチをしているに、「やっぱり、アンカーか」と声を掛けると「一郎も。流石人気者だねぇ」という返事がある。
スタートしたが、何だか故障者や、スタミナ切れがあったらしく、赤組は両チームとも白組2組に離されていた。
が、途中。のチームのランナーがこけた。
赤組が追い上げ、白のもう1チームは後半のメンバーが思ったよりも伸びない。
トラックの外で赤組の顧問がガッツポーズをしている。
結局、と俺と清村先輩がほぼ同時にバトンを受け取ることになった。
「悪い、1人しか抜けなかった」
「任せてください」
そう言ってバトンを受け取ったは、俺たちと共に目の前にある白のもう1チームを抜き、三つ巴のレースとなった。
1000m、つまり1km。
トラック2周半だ。
2周終わったところで、清村先輩が遅れてきた。
そして、最後の直線。
隣を走ってるはぐんぐん伸びて、結局俺はの背中を見てのゴールとなった。
顧問は本気で悔しかったらしく、地面を拳で叩きつけている。
「何で、俺らより悔しがってるんだろうな。あのオッサン」
「ホントですね」
ゴールの少し先にはが寝転んでいる。荒く呼吸をしているのが肩の上下する動きで分かる。
周りには勝利を喜ぶ白組のチームメイトが居る。
「大丈夫か」
白組のチームメイトを挟んで声を掛ける。
「きっつー!大会並みに頑張ったわ」
顔を歪ませながらも嬉しそうに笑った。
そして、取り敢えず体を起こして
「清村先輩も、凄いわ。さすがですね」
俺の後ろに立っていた先輩に向かってそう言う。
先輩は一瞬面食らった顔をして
「気付いてたの?」
と軽い口調で言う。
「ええ。私、先輩の走り、好きでした。怪我をなさって陸上はやめてしまったと聞いたのですが、一緒に走れて良かったです」
「現役の君には歯が立たなかったけどね。でも、俺もいい思い出になったよ」
「海外へ行かれるんですってね」
「そんなことまで知ってるの?エスパー?」
「まっさか。ウチの部長と仲が宜しいのでしょう?部長が寂しそうに呟いていましたよ」
「そっかー。俺って人気者だね」
「はい!本当に、最後に一緒に走れて良かったです」
「俺も、かな?ありがとう」
なにやら、陸上をやっていた者たちにしか理解できそうに無い空気が漂っている。
「、先輩のこと知ってたようですね」
「光栄なことだな。初めて見たときは陸上が余り好きそうに見えなかった。でも、次の大会で見たときには、凄く気持ち良さそうに走っててな。俺はあんな風に走りたかった。それを見つける前に陸上をやめないといけなくなって。
悔しかったけど、でも、お前の妹を見てたら何か凄く自由な気がして。だから、毎年大きな大会は見に行ってたんだ。
で、今年の入学式にお前らがいたからビックリしたよ。ウチの学校は陸上に力入れてるわけじゃないのに、どうした!?ってな」
「近いんですよ、家から」
「聞いた。それ聞いたとき、ホント可笑しくてな。こんなところまで自由か!って。ありがとな。なんか、お前に礼が言いたい気分になったよ。さて、あとはフォークダンスだ」
そう言って先輩は頭の後ろで手を組んで天を仰いだ。
俺も、何となく空を見上げた。
「清村先輩のこと、知ってたんだな」
練習が終わっていつものようにと一緒にロードワークへ出た。今はもう、朝晩が涼しくては知っていて気持ちが良い。
「まあね。私、あの先輩の走りが好きで、陸上も好きになったから。そういえば、その清村先輩。仮装行列楽しかったねー。2年後は私らもするんだよね、仮装行列」
「あー、そうなるんだろうな」
「一郎の女装は、がばっちり写真におさめてくれるはずだから!安心してね」
「誰が、女装だ!が男装すればいいだろ?!」
「いやいや。一郎さんがフリフリなドレスを着てトラックを練り歩いたらきっと色んな歓声が聞こえるよ」
そんなことを尚も続けながら俺の隣を走るに溜息が漏れる。
もし、また先輩を見かけたら言っておこう。
『自由すぎるのも問題ですよ』と。
位置についてよーい、ドン!3部作(?)が終了です。
要は体育祭。
ヒロインは一郎さんより足が早いと良いと思う。
勿論、あの狭いリングの中では一郎さんはすばしっこいけど、
中距離はヒロインの方が早いイメージ。
桜風
07.1.20
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