Father's day






あるお店の前を通り過ぎかけて、目の端に映ったポスターが気になって2歩戻る。

「よう、ちゃん」

お店の中から声を掛けてきたのは木村さん。

「こんにちは」

「どうしたんだい、珍しいね。部活は?」

「ああ、テスト期間中ですので」

答えると「ああ、そっか」と納得顔の木村さん。

「木村さんは、ジム...は、まだ行けませんかね」

顔を見て思い出す。

木村さんは「まあ...」と苦笑い。

つい3日前に試合があったばかりでまだダメージが残っていそうだと勝手に思う。

「や、でも。今日はちょっと体を動かしに行ったんだよ」

「あ、そうなんですか?」

「そうそう。それで思い出したんだけど」

と一度言葉を切って木村さんは小さく笑う。

何だろう?

と思って言葉を待つと

「もう会長たちそわそわしてるよ」

と笑いながら言われた。

カレンダーではまだ5月だというのに...

私の表情が可笑しかったのか木村さんがまた笑う。

「本当に、ちゃんは孝行娘だね」

そんなつもりはないのになー。


「そういえば、父の日って何で薔薇なんですか?」

素朴な疑問を木村さんにぶつけてみる。

花屋の息子ならそれくらいの知識を身に着けているだろう。

「さあ?」

「あー、うん。はい、分かりました...」

「何、うちで買ってくれるの?」

木村さんが楽しそうに聞いてくる。

ちょっと考えて、

「いえ。ちょっと今回もパス」

毎年何となくからかわれながらそう聞かれる。

理由は以前木村さんに言ってるから納得してくれると思うけど...

「会長にも父さんにも薔薇は...」

「というか、そもそも花が似合わないよな。会長も親父さんも」

苦笑いを浮かべて木村さんが言う。

「でも、宮田には似合いそうじゃない?薔薇って」

「恐ろしく似合うかもしれませんけど、本人は凄く嫌がると思います」

そう言うと「あーあー」と木村さんが数回頷いた。

「学校でもあんなの?」

「まあ、はい...」

木村さんは肩を竦めた。

店内の時計が目に入って慌てる。

「あ、木村さんごめんなさい。時間だ」

「ん?」と言って木村さんが振り返って時計を見る。

「何かあるの?」

「タイムサービス」

一言返すと

ちゃんって主婦の鑑だね。いい嫁さんになるよ」

木村さんがからかう。

「貰い手、見つけないと!」

そう言うと笑う。

「貰い手かー...じゃあ、宮田と親父さんを納得させるやつ見つけないとな。そうそう居ないと思うなー。ん?下手したら会長も目を光らせるんじゃないの?」

「えーと。その理屈で言うと、一郎にも父の日のプレゼントが要りますかね?」

「そうだね。薔薇はうちで買ってね?」

突然商売っ気を出す木村さん。

「んじゃ、真っ赤な薔薇...違う、どピンク!ピンクの中のピンクで!!しかも、年の数だけ」

そう言うと木村さんは楽しそうだと言わんばかりの笑顔で

「宮田ってピンクが好きなの?」

「私の好きな色です。試合用のトランクスもピンクにしてやろうかと目論んでます!」

宣言をすると益々楽しそうに笑う。

「じゃあ、ピンクの薔薇。15本ね?」

「はい!」

喜ぶと良いなー。きっと顔を引き攣らせながらも私にちょっとだけ気を遣って「あ、ありがとう」とかちゃんとお礼を言うんだよ。

ちょっとだけ父の日が楽しみになってきた。





母の日があれば父の日も。
しかし、父郎は名前だけ。しかも、一郎さんも父扱い。
キム兄さん夢と化してしまったような...(汗)


桜風
07.6.16


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