長い電車に揺られて着いた先はのどかの風景の広がる、俗に言う田舎というところだった。
いつも、と言っても年に3回くらいしか来ることがないこの土地だが、20年以上も来れば慣れるもので私はそのまま足を進めて目的地へと向かった。
「こんにちは!」
と声を掛けると中から出てきた人、つまりは私の父方の祖母だが、お祖母ちゃんがニコニコとしながら出てきた。
「よう来たね。上がりなさい」
「うん」
言われて靴を脱いで家に上がる。
父さんの実家は意外にも大きくて、此処には祖父母が住んでいて、隣には父さんの兄の伯父さんが住んでいる。
しかし、父さんと伯父さんは反りが合わなく、お陰で父さんがこの自分の実家に来ることは殆どないし、一郎もあまり好きではないと言っていた。
勿論、好きではないという対象はおじいちゃんやおばあちゃんではない。
まあ、私も苦手といえば苦手だ。
何せ、伯父さんはボクシングを嫌っている。嫌っているというよりも、理解をしようとしない。それが伯父さんの子供、つまりは私と一郎のいとこもその思考となっているからこの家に来ると一郎の機嫌はすこぶる悪い。
だから、年に数回の数少ない訪問も大抵私だけというコトになっている。
「よう来たな」
居間に向かうとおじいちゃんが居た。
「うん。おじいちゃん元気?」
「おう。一郎と父ちゃんはどうだ?」
「元気。2人ともまあ、動く動く」
笑いながら言うとおじいちゃんも笑って顔の皺が深く刻まれる。
「スイカ、冷やしてあるぞ」
おじいちゃんに言われて私は喜ぶ。
一郎が居なくて良かった。
流石におじいちゃんに勧められたら断りにくいだろうから。そして、我が家は水物というコトでスイカは殆ど食べない。
お祖母ちゃんが切ってくれたスイカをシャクシャクと食べていると隣からいとこがやって来る。
いとこは私の方を一瞥してフン、と顔を背けた。
「こんにちは」
取り敢えず、人間関係の初歩というコトで挨拶をしてみても私のことは無視するつもりらしく返事がない。
まあ、私は別に困らない。
シャクシャクとスイカを食べ終わって今回の目的を果たすことにする。
「お墓参り、行ってくるね」
おじいちゃんにそう言って私は家を出た。
「気をつけて行けよ」
おじいちゃんに声を掛けられて振り返って「はーい」というとトン、と何かに当たった。
「ごめんなさい」
後ろ向きで歩いていたから誰かに当たったのだろうと思って謝ると
「別に、」という聞きなれた声が。
「一郎!?」
「今回は俺も一緒に行くって行っただろう?!試合、終わったばっかで当分ないからって」
少し拗ねたように一郎が文句を言う。
「ごめん。だって、その..好きじゃないでしょ?」
「それはも一緒だろう。ったく...」
そう言って一郎は私の手を引いておじいちゃんの下へとずんずん歩く。
「こんにちは」
「おお、一郎か?大きくなったのぉ。ばあさん!一郎も来たぞ」
台所に居るおばあちゃんは声を掛けられてひょこひょこ出てきた。
「ああ、本当。元気そうだね」
「うん。ちょっとと墓参り行ってくるから」
「ああ、気をつけていきなさい」
今度はおじいちゃんおばあちゃんに見送られて敷地を後にした。
「トレーニングは?」
「済ませてきた。だから、待ってろって言ったじゃないか」
「でも、私は泊まるつもりだよ。一郎は、帰るんでしょ?」
「いいや?俺も泊まるつもりで来たから。父さんは、試合が近い選手を見てるからダメだけどな」
肩を並べてのどかな田園風景が広がる道を歩く。
「おんや、宮田さん所の...」
見た事が有るようなないような...そんなおばさんが声をかけてきた。
「こんにちは」
私が返事をして、一郎は会釈をする。
「大きくなったねぇ。東京でボクシングしてるんだろう?お父さんと一緒に」
「はい」と何だか居心地悪そうに一郎は答える。初対面の人に突然声を掛けられて戸惑っているようだ。
けど、もしかしたら小さい頃とかにお世話になった誰かかもしれない。
「今は夏休み?」
「はい。お盆は来れなかったから、お墓参りに、と思って」
応えると感心したように数回頷いたおばさんは「今時感心だねぇ」と言って一言二言言葉を交わして去っていった。
「誰?」
おばさんとある程度距離を置いたところまで歩くと一郎が聞いてくるが
「知らない」
と私が答えると
「あ、そ」
と期待はずれだといわんばかりの素っ気ない返事が返ってきた。ちょっとムカツク。
宮田家の墓があるお寺の墓地へ向かい、おじいちゃんの家の庭から分けてもらった花を供えて手を合わせる。
「よお、有名人」
顔を上げて目を合わせるとそこには
「清村先輩!?」
高校時代、少しの間だけ同じ学校の先輩だったあの人が居た。
「な、何で?外国に...」
「今年帰ってきた。親の転勤にそのままくっついて行っただけだし。大学、こっちの受けたかったから今1年。宮田よりも下だろ?」
そう言って楽しそうに笑う。
「でも、此処って...」
もし、清村先輩もこの土地が田舎ならきっと1回くらい会った事があるだろうに。
「ああ、この寺に姉貴が嫁いだから遊びに来ただけ。そしたら、同じ顔が揃って手を合わせてるからさ。見に来た」
「「全然同じじゃないですよ」」
うわぁ、久しぶり。素でハモってしまった...
それを見た先輩はクツクツと肩を揺らす。
「言ってるのは本人だけだよ。どうよ、少しくらい時間有るんだろう?茶ぁくらい、飲んでけよ」
先輩に声を掛けられて私と一郎は顔を見合わせて
「「じゃあ、お茶ご馳走になります」」
先輩の土産話というか、海外生活の話も聞きたかったし。取り敢えず、少し遅くなるとおばあちゃんたちには連絡を入れておいた。
気がついたら先輩まで出てきた...
何ででしょう?
この話は書きたいシチュエーションがあったので書き始めたのであって、
先輩に登場してほしくて書いているものではなかったのになぁ。
けど、この先輩は一郎さんの数少ない友達ですよね、きっと。
桜風
07.9。15
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