ピンポン、とインターホンが鳴った。
もう1度それが鳴り、家の中に誰もいないことに気づく。
さらにもう1度鳴った。
「はいはい」と呟きながらインターホンに出る。
「宮田です」との声に驚いた。
「ちょっと待ってて」
慌てて玄関に行ってドアを開けた。
行く宛てのない、捨てられた子犬のような瞳をしているを見て言葉を失くす。
いつ以来だろう。
ああ、宮田君が初めて試合で負けたときにもこんな瞳をしていた。
「入って」
促してもの足は地面にくっついたままで動かない。
腕を引っ張って玄関の中に引き込んでそのままドアを閉める。
「ほら、玄関に居てもしかないでしょ」と促したら「ごめんね」とが呟く。
その謝罪は何だろう、と思いながらも家の中、私の部屋に行くように促してキッチンに向かった。
部屋に入るとはちょこんと座っている。
いつもより小さく見えるその姿がとても頼りない。
「どうしたの?」
先ほど淹れた温かい紅茶をソーサーに載せながら聞いてみる。
「私、間違ってるのかな」
ポツリと呟くに私は何を言っていいか分からない。
「順番に話してくれないと、何ともかんとも...」
私が応えるとは頷いた。
「千堂に言われたんだ」
まず、千堂が何者かってのが分からない...
あ、違う。昨日の人だ。
昨日とひと悶着起こした人だ。関西弁の。
の話を聞いて納得した。
千堂って人は全く飾らない人だなと思った。
私がいえなかったこと。あの、理不尽大王の名を欲しいままにしている鷹村さんだって口にしなかった言葉を簡単に口にしたんだ。
凄いな、と思う。
けど、きっとそれは付き合いが短いから言えたんだと思う。
付き合いが長いくせにそれを口にしたのなら、きっともの凄く鈍い人だ。
宮田君をからかって笑っているだって、色々と葛藤を抱えて今の道を選んだはずだ。
お父さんみたいにセコンドにつくことができるわけでもないし、ボクシングを教えることが出来るわけでもない。
自分に出来ることを探して、見つけた結果が栄養士だった。
家族が家族のために何かをしたいと思い、それを見つけることの何が悪いのか分からない。
だから、私は今思ったことを伝えてみる。
それでもは何となく納得したようなしていないような...
そんな表情を浮かべていた。
「が悩んだのって、千堂..さんの言ったことに心当たりがあるからでしょ?」
が頷く。
「けど、それのどこが悪いの?」
が首をかしげる。お、何かちょっと可愛いぞ?
「だって。お兄ちゃんは、だから頑張れてるんじゃないの?私が見た限りでは、そうだと思うんだけど」
が、「まあ、適当に。好きなように自分の夢だけ追って頑張って」とか宮田くんに言ったら宮田君は何となくやる気と言うか、気合が2割くらい減るんじゃないだろうか。
無駄にお兄ちゃん意識が強い分、妹の叶えられなかった夢を代わりに、とかの方が断然頑張る人だと思う。
元々努力家だけど、その努力は妹のためなら惜しまない。だって、自他共に認めるシスコンだから。
「胸を張りなさい。理由が何であれ、が栄養士であることは何ひとつ疚しいことはないでしょう。
第一、栄養士だって大変なんでしょ?資格を取ったり、そのあとの栄養計算だって。だって努力してるんでしょ?何の努力もなしに、『じゃ、後は任せた』なんていってるわけじゃないもの。平等よ」
はぽかんとして、やがて笑う。
「ってかっこいいね」
「もっと褒めてもいいわよ。キッチンからクッキー取ってきてあげる」
胸を逸らせてそう言うとは笑い、
「ううん、ごめん。帰らないと」
と言って冷めた紅茶を口にした。
言われて時計を見る。
ああ、そうだな。今の時間はどこのスーパーもタイムサービスなるものをしているはずだ。
「そだね。今日は何が安いの?」
聞いてみるとは指を折りながら暗記したスーパーのチラシに載っていたであろう商品と値段を口にする。
本当にこの子は主婦だな、と思いながら笑いを堪える。
は宮田君に何一つ押し付けていない。
は宮田君とお父さんと3人で同じ夢に向かっているだけだ。
「分かってないんだから」
「何?」
思わず呟いた言葉にが聞き返してくる。
「何でもない。じゃあ、早く帰らないと売り切れちゃうね」
そう返すとは慌てて立ち上がる。
「今日のお礼はまた後日」
「いいよ。また2人で買い物に行こうね」
は笑って「ありがとう」と言い、慌しく家から出て行った。
前回の千堂の言葉から。
ヒロインでは父のボクシングが世界に通用するっていうのを証明出来ない。
だから、一郎さんがそれを証明する。
取りあえず、役割分担と言った感じですが。
それでも、減量で苦しんでる一郎さんを傍で見てたら少なからず心は揺れると思うんですよね。
そこを千堂に突かれてしまったといった感じでしょうか。
桜風
08.4.19
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