兄と妹―前編―





用事があったから、ついでにあまり好きではないが街中に出て買い物を済ませ、取り敢えず一息つくためにカフェに入った。

店内の奥の席が空いていたからそこを選んで腰を下ろす。

コーヒーを頼み、今日買った本を手にした。

この本は元々が集めていたものだが、一度暇を持て余していたときに読ませてもらって結局俺のほうが嵌ってしまい、が持っていた以降の続編は俺が買っている。

ページを捲っていると影が差し、店員がコーヒーを持ってきたのかと思って顔を上げると「よー!」と見知った顔が軽く手を上げていた。

「ああ、お久しぶりですね」

世間は狭いと以前評価していた清村先輩だった。

「妹とデートか?」

「独りですよ」

何でいつも俺とがセットになっているのだろう。

「マジで?じゃ、此処座って良い?」

そう言って俺の向かいの席の椅子に手を掛ける。

頷くとその椅子を引いて座った。

「さっき、窓の外から中を覗いたらお前いるじゃん?ちょっと久しぶりって気がしたからな」

此処へ来た理由を聞いてもないのにそう言った。

「まあ、そうですね。あれから結構経ちますね」

清村先輩とは4月の試合を見に来てくれて以来だ。そのとき、会話もしていないから、こうして言葉を交わすこと自体はかなり久しぶりだったりもする。

「妹、元気よ?」

「ええ、まあ。バイトもしているし、それなりに大学生してますよ。先輩は?」

「あー、まあ。ボチボチな。勉強得意でもないからちょっとキツイところもあるけど。ほら、周りは全部年下だしな」

清村先輩はそう言って苦笑する。

俺たちよりも2つ上の先輩は親の転勤についていき、結局大学はより1学年下と言うことになったから、多くの同級生は自分より3つ下の人間と言うわけだ。

「でも、お前よりも妹に会いたかったなー」

「残念でしたね」と適当に返すと「拗ねんなよ」と返された。

拗ねてないんですけど...


俺のコーヒーを持ってきた店員に清村先輩はオレンジジュースを注文をする。

「そういえば。お前らもう二十歳超えてるよな?」

「ええ、そうですね」

「じゃあ、ほら。えーと、のヤツも混ぜて3人で飲みに来い」

「は?」

「バイト先が居酒屋なの。サービスするぜ」

ああ、なるほど。

「何か、似合いますね」

そういうと清村先輩は眉間に皺を寄せて「どういう意味だ?」と深読みしてくる。

「言葉の通りですよ」

俺の言葉が気に入らないのか、当分清村先輩の眉間の皺は深いままだった。


清蔵先輩は注文したオレンジジュースのストローを咥えたまま「そういえば」とくぐもった声で言う。

「何ですか?というか、ストロー咥えたまま話すのやめたらどうですか?行儀が悪いですよ」

注意するとニッと笑い、「お前、妹にいつもそういう感じに注意されてんだろう」と言われた。

「さあ?」と返すけど、先輩はまだ楽しそうに笑っている。

「まあ、それはともかく。って、カレシいるの?」

「は?」

清村先輩が何を言っているのかちょっと理解できない。

というか、さっきまで『妹』って言ってたのに突然の事を名前で呼ぶのやめてほしい。ちょっとびっくりしたじゃないか。

いやいや、それよりも...

「何ですか?」

「や、この間偶然なんだけど。オトコと歩いているところを見たのです」

『オトコ』と聞いて思い浮かんだのが鴨川の面々だ。

何と言っても、あそこの俺たちよりも年上のプロボクサーたちは兄貴風を吹かしているから。

「知り合いに男がいないこともないんですけど?」

そういうと、

「そりゃそうだろうけど...うーん、でもなー」と唸る。

そして、「最近、変わった事なかったか?」と聞いてきた。

そういえば。最近はそうでもないけど、少し前まで家に帰ってくるのが遅かったりしたことを思い出す。

でも、『友達』って...

清村先輩に言うと

「えー、何だよ。カレシ居るのかよ。俺が立候補中だってのに!」

と何かほざいている。

「俺を倒してから、って言ったじゃないですか」

「それって、嫁に貰うときだろう?彼氏については何も言ってなかったじゃねーか」

清村先輩が屁理屈を捏ねるが。

それ所じゃない。

「どういうことですか?」

「お前、突然食いつきが良くなるのやめてくれないか?」

面白いから、と続ける先輩の言葉は黙殺した。

「いや、見ただけ。そんな雰囲気だったからな。ほら、あるだろう、独特の。周りを寄せ付けないって感じの」

先輩の言わんとしていることは分かるが、でそれを理解しろといわれてもさっぱり想像出来ない。

一生懸命想像力を働かせてみたが、中々難しい。

「てか、も可哀想な?」

「は?」

「ほら、兄貴に『友達』って言わなきゃなんないってのが。それって話せないと思うからそう表現してるんだろう?」

それって、どういうことだ?

清村先輩の言葉を理解しきれない自分がもどかしい。

「自由がないってこと。たぶん、な」

何か、鈍器で頭を思い切り殴られた気がした。

その後、先輩と何の話をしたのか覚えていない。

いつ、どうやって家に帰ったのか分からないまま、気がつくと自室に居た自分にとても驚いた。




清村先輩を久しぶりに書きたくて、再登場。
取り敢えず、一郎さんが懐いている先輩の一人ですからね。
どうでも良いが、ヒロインの彼氏ネタ引きずりすぎですか?
引きずりすぎかなって思ったけど、清村先輩との会話がなくて、こうなっちゃったんですよね。
出したのは良いが、会話がないっていうか...(苦笑)


桜風
08.10.19


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