たまの休みに店番もないということもあって出かけた。
一人で出歩いていると少し離れたところが騒がしい。
お?何だ??
野次馬根性を出して通りに出ると男を追いかけているおばあさんが居た。
男に向かっておばあさんは何事かを叫んでいる。
きっとひったくりかなんかなんだろう。
そして、その男がかけていく先に見慣れている女の子を見つけた。
「...ちゃん?」
彼女は傍に居た男にハンズの袋と自分のバッグを押し付けて駆け出す。ぐんぐん男との間の距離を縮めていくのを見て俺も駆け出した。
陸橋を渡ってちゃんが駆けていた方向へと駆ける。
ちゃんは男を伸した後らしく、バッグを取り返していた。
まさか、殴ってねぇよな...
彼女の拳はボクサーのそれと同じだ。
体が軽いし、殆どパンチの練習をしていないからそこまでの切れはないかもしれない。
けど、彼女が本気を出せば世間一般的な男を病院送りにすることくらい朝飯前だと思う。
そんなことを思いつつもこうやって全力疾走をしている自分はいったい何なんだろう...?
ちゃんを呼ぶ声が聞こえて駆ける足も少しずつスピードを落としていく。
先ほど彼女に荷物を預けられた男が駆けてきていた。
一度足を止めた。
しかし、ちゃんが伸した男が立ち上がってくるのが見えて慌てて地を蹴った。
「あぶねぇ!!」
ちゃんの知り合いの男が叫んだ。
彼女は驚いて振り返る。
「何しようとしてんだ?」
間一髪。
ちゃんに向かって男は落ちていたビンを振り下ろそうとしていた。
「木村さん!」
「ちゃん、怪我はないよな?」
目を丸くして驚いた表情を浮かべている彼女に聞くとこくりと頷いた。
「...彼氏?」
聞かなくてもいいことを思わず聞いた。
本人がいる前では中々聞き辛い。
ちゃんがきょとんとしたから「あの人」といって視線を男に向けた。
「ああ、違いますよ」と彼女は笑って言う。
「...もう変なのには引っかかってません」
恥ずかしそうに苦笑して彼女が言う。そういう意味で言ったわけではなくて...って、じゃあ、どういう意味で言ったんだろう?
自分で自分が分からない。
「、大丈夫か?」
って、こいつ呼び捨てかよ...
「清村先輩。はい、ちょっと油断しちゃいました。過剰防衛になったらまずいと思って手加減しちゃったので...でも、木村さんが助けてくれたので無事です。ご心配をおかけしました」
さわやかな笑顔でちゃんはそう言った。
まあ、そうだよな...
カウンターとか綺麗に決めたら、ちゃんみたいに体が軽くても鍛えてない男なら沈められるだろうな。
うんうん、と納得した。
「...ども」と清村先輩と呼ばれた男が軽く会釈をしてくる。
俺も会釈を返した。
俺が腕を掴んでいる男は警察が連れて行った。
「先輩、荷物は?」
「ああ、さっきのお婆さん..てか、通報を受けて駆けつけた警察に預けてる。取りにいかねぇと」
清村の話しを聞いてちゃんは頷いて「じゃあ、ちょっと取りに行ってきます」といって先を歩く警察に声をかけて駆けていった。
おそらく被害者のおばあさんは近くの交番で保護されているのだろう。
しかし、まあ...
沈黙が流れる。
何となく、気まずいというか...気に入らないというか...
ふと、夏ごろに宮田から聞いた話を思い出した。
確か、冗談とはいえ、ちゃんを嫁にとかいったって宮田が言っていたような...
ある意味勇者だとは思ったが、それを思い出した俺はなんかむかっ腹が立ってきた。
そして、こいつも俺に対して何かしら思うところがあるようだ。
「清村さんって、ちゃんたちの高校時代の先輩ですよね?」
彼は驚いたように目を見開き、「ええ」と頷く。
「ちゃんたちがお世話になった先輩だという話を聞いています」
清村の眉間に皺が寄る。
「それは、どうも。まあ、今でも一緒に出かけたりしてますけどね」
この喧嘩、買った!!
「あれ?2人とも友達になったんですか?」
喧嘩を買ったつもりで居たら、今戻ってきたばかりのちゃんに『友達』扱いされて拍子抜けとなる。
「でも、木村さんも清村先輩も同じ年のはずですから話が合うかもしれませんよね。案外気も合っちゃったりして」
悪意のない笑顔で彼女が言う。
毒気が抜かれるというか...
目の前の清村も同じような反応だ。
それがおかしくて笑った。清村も笑う。
「いいなー、男の人って友情を築く時間が少なくても大丈夫なんだもん」
ちゃんの感想はあさっての方向を向いているけど、まあ訂正する必要もない。
たぶん、ちゃんの言うとおり気は合うかもしれない。
お互いが『気に入らないヤロー』って思っているはずだから。
と、言うわけで。
キム兄さんVS清村先輩。
お兄ちゃんはどっちだ!?
っていうお話。
でも、正しく『お兄ちゃん』というなら宮田一郎なんですけど...
と、冷静な突込みをしてやってください(笑)
桜風
09.6.20
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