クロワッサンと苦い思い出 ―後編―





「なあ、宮田」

あのクロワッサンの店から数日後。クラスの奴に声をかけられた。

「何だ?」

「お前、宮原と付き合ってるってホントか?」

「...は?!」

適当に返すつもりで会話を続けていた俺は思わず声を上げる。

何だって...?

「俺と、宮原が?」

「付き合ってるって、女子が。この間の休み、宮原と一緒にカフェにいたってさ。ちゃんが一緒にいなかったからお忍びデートじゃないかって。
何だよー、それならそうと早く言えよ!今、地団駄踏んでる男が結構いるんだぜ?」

...色々突っ込みたいことがあるぞ?

まず。

お前が何でを名前呼びだ?

次に。

何でそんな噂が立っている?

そして。

宮原はそんなに男子の間で人気があったのか?!

最後に、もう一度。

何だって?俺と、宮原が...??

「待て、どういうことだ?」

とりあえず理解出来ないぞ...?

「だって、お前ら。この間デートしてたんだろう?凄く仲良さげにしてたって」

...その場を見てこんな勘違いをしたやつは是非とも眼科に行って来い。

「付き合ってない」

「良いって。もう学校中の噂だぜ?」

...学校中?!

「ちょっと待て。本当に待て」

「あーあー...モテる男って本当にいいよなー。はぁ...ちゃん」

言うだけ言ってそいつはいなくなる。



「いやぁ、モテモテですねー」

家に帰ると満面の笑みでがそう言う。

「...なんで、知ってるんだ?」

「学校中のう・わ・さ!」

楽しそうに笑って言う。

はぁ、と溜息を吐けばやっぱり笑う。

「私に内緒でお出かけするからだよ」

仰るとおり。

「ま、人の噂も七十五日。ちょっとの我慢だよ」

「2ヵ月半もあるじゃないか」

「あっという間よ」

尚も笑いながらはそう請け負った。


しかし、その噂は中々収まる様子が見えない。

何より、俺も宮原もその噂を気にして何かをしなかったからだと思う。

普通に教科書の貸し借りがあるし、一緒に登校したり下校をしたりする。

が一緒でも、周囲には見えていないのかどうにも『2人きり』に見えるらしくて、もう噂の背びれとか尾ひれとか容赦ない。

いい加減、辟易してきた。

「宮田くん」

そんな中で宮原が教室にやってきた。

「どうしたんだよ」

「んー、いい加減もう面倒くさいと思って」

何の話だか分からない。

「と、いうわけで」

パシン、と音が響く。

ざわざわと教室の中が響く。

そして、俺は左頬が熱い。

つまり...

「ごめんねー?」

小さめの声でそう言って宮原は教室を飛び出して、廊下まで一緒に来ていたらしいに抱きついた。

は目を丸くして宮原を抱きとめて俺に視線を向ける。

すぐに事態を察したらしく、短く両手を合わせる。

「ご愁傷様」

口を動かしたはたぶんそう言った。

全くだな...


そう時間も掛からないうちに噂は沈静化した。

宮原の取った行動はまあ、大して的外れでもなかったということになるだろうが...

しかし、どうしたことか、俺に対する別の噂が立っってしまった。別に困らないけど、心外なものとか...

まあ、いいや...




「まあ、苦い思い出だもんねー...素人ど真ん中のに頬を打たれたんだもんね」

雑誌に載った記事を見ながらが呟く。

その顔を見れば面白くて仕方ないという表情だった。

あー、ムカつく...!



と、いうわけで。一郎さんにとっては苦い思い出とセットなクロワッサン。
以前、とある方から宮原嬢は一郎さんを好きなのでは?と言われたことがありますが。
彼女が一郎さんに対して恋愛感情を抱いたら今のバランスが崩れますよね...
そういうのって何となく寂しいと(わたしが)思ってしまうので、彼らは『お友達』のままです。
それに、宮原嬢は被写体として魅力を感じるものに興味を示すって言うのが私の中にあるので...
一郎さんは、妹とセットではないと魅力を感じないそうです(笑)


桜風
09.9.22


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