「じゃ、ほら。猫とウサギ、並んで」
ちょうどきぐるみを着てみたらそういわれた。
「で、ウサギ。ポーズ。ほら、両手を腰にあてて。んでもって、右足をちょっと前に出してつま先をあげて。そう。体は左側にちょっと傾けて。い..いい感じ」
プククと笑いながらが指示を出す。
「猫は?」との後ろに立つ誰かが聞いた。
「あ、猫はこれ」
そう言って持たされたのはプラカード。
「あにまるかふぇ」と平仮名で書いてあるこれが、店の名前なのだろう。
そして、黒い猫とショッキングピンクのウサギのツーショットが撮られた。
「焼き増ししてあげるから」
の言葉に「ありがとう」と私は応えて「要るか」と一郎は応える。
「タイミングはばっちりなのに!」
笑いながらは去っていった。
すぐに現像に出して、これでチラシを作るそうだ。
あとは、原稿に写真を入れるだけの状態でおいてあるんだといいながら駆けて行った。
「...大人しいねぇ」
隣のウサギに声をかけると
「まあ、宮原が色々と手を回してくれたってのは..想像付くからな」
と少し不本意そうに一郎は呟く。
「相変わらずピンクと縁があるね。一郎の誕生日のラッキーカラーはきっとピンクなんだよ」
「同じ日に生まれたってコト忘れんなよ」
律儀に返ってきたツッコミには乾いた笑いで返して、とりあえずこの暑苦しいきぐるみを脱いだ。
汗ばんでいたから脱いだら今度は少し肌寒い。
まあ、真夏の文化祭よりはマシだろう...
文化祭は2日間。
とりあえず、客寄せしといでー、とに言われてセットで追い出された。
まあ、始まったばかりはお客も来ないしねぇ。
てくてくと正門に向かって歩き、早めに来た一般の人にチラシを配る。
校内はきぐるみ2体割いての広報活動だ。
忙しくなったら呼び戻しに来るというので、コースを指定されている。
呼び戻される心配のない私たちはぶらりぶらりと文化祭の、まだ始まったばかりの慌しい中のんびりと歩いた。
廊下の遠くの方から声が聞こえる。
声、というか笑い声。
「一郎、言ったの?!」
「どうやって!!」
そりゃそうだ。今はジムが一緒じゃない。
去年の体育祭は、父さんが吐いた。今回は誰も吐くはずがない。
ないか...?
「宮原!」「!!」
最近暇をもてあましていたし、何よりもあの子は『面白そうだから』が行動原理になることがある。
しかし、ここで掴まるわけには行かない。
何せ、次の時間私と一郎はホールの当番なのだ。
ここで下手に掴まると戻れない。
一郎を見上げると同じことを思ったらしく、とりあえず、あの豪快な笑い声から遠ざかることに決めた。
徐々に増えてきた人ごみを縫って駆けていくけど、このまま行けばどんどん私たちのクラスから遠ざかっていってしまう。
「とりあえずグラウンド」
一郎がそういった。
「了解」
もし、うちのクラスに来る気があったなら、先に入店されている方が楽だと判断したのだ。
何とか彼らに遭うことなく、きぐるみ交代。
店内に入った途端、「ご苦労!」と偉そうに入ってきた。うん、来なくていいのにね。
レジに立っているが「どーもー!」と機嫌よく笑う。
「うむ。さ、このオレ様を案内しろ」
「はーい」と笑顔で返して、パンダを呼んだ。
ここで猫とウサギを呼ばなかったのは、の良心か。
企画となっている中身当ては、自分のテーブルを担当したきぐるみだけとなっている。
しかし、相変わらず勘が良い。
野生の勘か...
チラチラとウサギを見ている。
ウサギ、何とか自分ではない証明をしないと!!
チラッと見るとウサギも何か思ったらしく、ギクシャクしながらコミカルな動きをしている。どこで覚えた、そんな動き!!
ちょうど相手にしているのはテーブルのお客さんは子供連れだ。だからこそ出来る捨て身の戦法だな、と。
あの中身を想像しては爆笑しそうになって教室から駆け出して隣の教室で大爆笑を始めた。この祭りの中でも物凄く響くんだけど...
私だって笑いたい。物凄く笑いたい。
ふと、パンダが担当しているテーブルを見たら、木村さんが肩を震わせている。
うーわー...バレている。
まあ、一郎には内緒にしておきましょう。
文化祭の後夜祭で、投票結果が発表された。
は今年もトップが取れたといって感無量の表情だった。
同じように喫茶店をしていた他のクラスの企画は流行のものだったらしいが、逆にそれが被ってしまって、ちょっと変わったことをしているうちが良かったとのことだったらしい。
「きぐるみ喫茶、来年はそれがウチの文化祭で流行るかもねー」とは笑いながら勝者の笑みを浮かべていた。
で、購入分のきぐるみは、誰も要らないといい、私たちも要らな言ったのに、「記念、記念」とに押し切られて受けてしまった。
そして、こうして物置に突っ込まれたまま数年のときを経て思い出されたという...
「ははっ懐かしいな。それ」
不意に背後から声がして振り返る。
「木村さん!?」
「ちょっと時間前だけど」と言って腕時計を見せてきた。
今日はの誕生日プレゼント作成の手伝いに木村さんが来てくれたのだ。
の誕生日プレゼントの話をしたら手伝いを買って出てくれたのだ。
料理はともかく、普段日曜大工はあまりしないから...
ふと、思い出す。
「やっぱり、木村さんは分かってたんですよね?」
「宮田がピンクのうさちゃん?」
ずばり当てられて苦笑した。
「そっちが要るんだよね?」
そう言って物置の隅に置いてある道具箱に手を伸ばした。
頷くと、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい!」
返事をして玄関に向かいながら「その扉は閉めて置いてくださいね」と声を掛けて玄関へと向かった。
文化祭終了。
というか、やっぱりキム兄さんは気づきますよ!
そして、一郎さんの一生懸命のギクシャクしたコミカルな動き!
想像して、大爆笑してください。
あー、今回もおちょくった!!(笑)
桜風
09.12.20
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