お兄ちゃん決定戦 ―後編―





「...それはジャブのことね」

「ん?そうだっけ?」

「ジョブって仕事じゃねぇかよ」

「はい、そこ。無駄話してないで手を動かす!!」

に「ボクシングで基礎って言うか最初に出すパンチってジョブだよね?」と聞くと彼女は少し考えて「ちがう」と言った。

むー、パンチなんてパンチなんだからパンチでいいじゃん。

でも、これは口が裂けてもいえない。いや、言っても大丈夫かな?

にとって大切なボクシングは私にとってはそこまでではない。

それは彼女も分かっているし逆に私にとって比重の大きい写真は彼女にとってはとくに重いものではない。

そういうものなのだ。

お互い、『相手が何を大切にしているか』を心得てそれについて特に邪魔をしたり否定をしたりしない。それは普通で、私たちの間では当たり前のことだった。

「っつうか、宮原。お前、縁側で緑茶ってもうババァだぞ?」

「はいはい。年よりは大切にしてくださいよー」と清村先輩には適当に返した。

そして、一方の木村さんは黙々と金槌を振り回している。

「木村さん、手とか大丈夫ですか?」とが心配している。

まあ、木村さんも曲がりなりにもプロボクサーだし。

ボクシングでご飯食べているんだから、やっぱり手は大切にしないといけないんだと思う。

「お兄ちゃんは?」

「一郎は練習に行ってる」とが答えてくれた。

「木村さん、先輩。少し休んでください」とが声を掛ける。

私の以外に2人にも緑茶を淹れてあるのだ。

「清村、先に休めよ」

「やだよ。お前が休め」

木村さんにライバル心むき出しの清村先輩。

休憩ひとつをとっても反発しあう。

「温かいうちに飲んでください」

が声を掛けると木村さんが立ち上がる。「じゃあ、少し休もうかな」と。

それを受けて清村先輩も立ち上がった。

このままでは木村さんのほうが一枚も二枚も上手だということを証明していくだけになる。

私はシーソーゲームが見たいのだ。こう一方的な試合は見ていても特に面白くない。

初めて見た宮田君の試合のときのように。


が席を外すとシーンと空気が沈む。

何でこうも...

「あれって、板からのこぎりで切り出したんですか?」

沈黙って気の置けない人とだったら全く気にならないのに...

気を遣っている自分が何だか滑稽で悔しいけど、何か、この空気もイヤだった。

「ううん、ちゃんが買ってきたキットだよ。最初、板を買ってから此処でちゃんの意見を聞いて切ろうかって言ってたんだけどね。それは持って帰るのが大変そうだって、ちゃんが。車出してあげるって言ったんだけど遠慮されたんだ」

まあ、気に入らなかったら小さくするのは出来るし、と最後付け加える。

「...木村さんって車持ってるんでしたっけ?」

聞いたことないような...

そう思っていると彼は頷いた。練習で合宿組むときとか、あったほうが便利だから、と。

「ボクサーってそんなに稼いでるんですか?」

聞くと彼は苦笑した。

「いや。中古だし、コネがあったから結構安くなったから持ってるだけ。ボクシングだけで食っていこうと思ったら相当だよ」

と言う。

そして、清村先輩。面白くなさそう。

そうだよなー。大学生だもんなー...

そんなことを思ってちょっとある意味スーパーマンの木村さんと比較されるポジションに居ることに同情してたけど、それは必要のないことだった。

いや、比較していたのは私だけなんだけど...


清村先輩は、木村さんを上回る器用さを持っていた。

木村さんは器用だ、とが褒めていた。

だから、まあ。器用なんだよねー、と構えていたが...

清村先輩はゲイジュツの方にでも進めたのではないか?

板にペンキを塗ってもらった。

そしてニス。

最後の仕上げ...

その流れがまあ、鮮やかで。

私の注文を正確に、それ以上のクオリティで仕上げてくれる。

「清村先輩の実家って何屋さんですか?」

思わず聞くと

「フツーのサラリーマン。姉ちゃんは坊さんに嫁いだけど」

と言う。

「ゲージュツ家の家系ではなく?」

「プラモづくりは得意だったなー。昔から」

「くっらーーーー...」

「プラモ、バカにすんな!あれこそゲージュツだぞ!!」

ふと、木村さんを見たら感心しているがやっぱり何か面白くなさそう。


「うわぁ、中々...」

家のことをしていたが様子を見に来た。

「やっぱりお2人にお願いしたら早いですね!!」

の言葉に何となく2人は素直に頷けないようだ。

、どう?」

「ぱーぺき!」と右手の親指を立てて答えた。

「木村さんの手の早さもそうだけど、清村先輩の手先の器用さが意外も良い所だったわ...」

そういうとは「見てればよかった...」と少しだけ悔しそうにしている。

家のことをしなくてはならないので彼女は殆どこっちに来ていなかったのだ。


まあ、この家に来たときから..いや、木村さんと清村先輩が顔を合わせたときからそんなオーラは感じていた。

ある意味あからさまに2人はお互いをライバル視している。

そう、2人は年上としてを非常に可愛がっている。

まあ、は素直だし?構ってあげたいとか思うのだろう。

うっかり勘違いして『守ってあげたい』とまで思うかもしれない。そこはあまり必要ないんだけど、思わずにはいられないこともあるかもしれない。

つまり、それは妹に対するそれに近いものだと分析する。

だから、他の人が兄貴ぶると面白くないと思ってしまうのだろう。

私の分析はあながち間違っていないと思う。寧ろドンピシャ大正解のはずだ。

「ただいま」と玄関から声がした。

「おかえりー」とが声を掛けて玄関に向かう。

ちゃんにとっての兄貴はオレだ」と目が言う木村さん。

「バカを言え。オレのが兄貴だ」とやっぱり視線で返す清村先輩。

でもね?

君たち?

忘れていると思うけど...

「何だ、宮原。今日は宮原の誕生日プレゼントを作るって聞いてたぞ?本人が来てて良いのか?って、清村先輩まで?!木村さんの話は聞いてたけど」

宮田君が声をかけてくる。に話しかけて「うん、急遽手伝いに来てくれたの」という返事を聞いている。

「まあ、私の使うものだから私が使いやすいようにカスタマイズしてもらいたかったから」と返すと「ああ、なるほどな」と宮田君は納得した。


木村さんと清村先輩は忘れていたと思うけど。

は決して一人っ子ではなく、同じ年の『お兄ちゃん』がいるのだよ。

そう。彼はお兄ちゃん決定戦において、不戦勝で優勝できる唯一の存在なのだ。

と、いうわけで。

「『お兄ちゃん』は宮田君だよ」

静かにツッコミを入れさせていただきました。



と、いうわけで。
キム兄さんと清村先輩の不毛な争いをこっそりと楽しんだ宮原嬢でした。
キム兄さんは優しいしね。清村先輩もなんだかんだで頼れる存在ではあると思うんだけど...
一郎さんがお兄ちゃんだということをどれだけの人が覚えているか段々怪しくなってきたこのシリーズですが。
今回、再認識していただけたと思います(笑)


桜風
10.2.20


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