「お兄ちゃんって、女嫌いなの?」
昼休憩、窓際の席でお弁当を食べ終わったが頬杖をついて窓の外を眺めながら聞いてきた。
「なんでー?男好きって話は聞いたこと無いけど?」
午前中に出された宿題を昼休憩のうちに済ませてしまおうとノートに数式を書きながら返す。
「そりゃ、カミングアウトするのにかなりの勇気が必要な事実だわ。じゃ、なくて。だって、お兄ちゃんってあんだけモテて。何で彼女が居ないの?」
「モテるの?」
そう返すとが顔をこちらに向けた。
その姿勢から動かないから私も顔を上げると心底不思議そうに私を見てる。
「なに?」
「ご自身はおモテになる自覚が無いということ?!」
「ご自身って一郎?」
「ノン!」
「...モテるってどういう状況?」
はこれみよがしな溜息をひとつ。
「あのね?放課後呼び出されたり、特に困ってもいないのに声を掛けてプリントとかを持ってもらったり。あと、靴箱の中にお手紙が入っていたり。あ、机の中にもね。それを言います」
「匿名性のある手紙は嫌がらせじゃないの?」
名前もないのに「放課後、屋上で待ってます」とか、気持ち悪くて仕方ない。
一郎も前に零していた。
「えー、と。何を持ってこようか?」
が真顔でそういう。
「『何』って?」
「マンガ。アレがいちばん分かりやすい。絵があるし、多くの人が受け取る状況に差異が無いと思うからね」
「何でマンガなの...」
鉛筆を机の上において姿勢を正して聞いてみる。
「初恋のバイブルよ?!」
「『バイブル』の意味を知って言ってる?」
聞くと首を横に振る。
思わず肩を竦めて、そして息を吐いた。
「まあ、貸してくれるなら読むけど...」
そう返して窓の外を見る。ああ、なるほど...
窓の外の風景に一郎と女子が校舎の影で向かい合っているその様子が目に入った。
意外と律義者だからなぁ...
「一郎。正直に答えてね。男と女、どっちが好き?」
夜のロードワークで聞いてみた。
「は?!」
「いいから!正直に!!」
何だってこんなことを聞かれるのか、その理由が皆目見当がつかない一郎は眉間に深い皺を刻んだまま「男よりは女だろう、ふつう」と返してくる。
「普通の話じゃなくて、一郎の話」
「何だって、妹とそんな話しなきゃならないんだよ!」
うーむ、思春期か...
人事のように思っていると「で?」と返された。
「で?」
「はどうなんだよ?」
何故に聞き返す?!
そう思ったけど「女よりは男だね、ふつう」と返しておいた。
言った言葉をほぼそのまま返された一郎は心底不機嫌になってしまった。
「がね。おモテになる一郎さんは何故彼女なるものがいないのか心底不思議がってたの。で、もしかして女嫌いかと言う疑惑が浮かんで」
「んで、聞いて来いって?」
不機嫌に返す一郎に「ううん。私の知的好奇心」と正しい情報を口にする。
はあ、とこれ見よがしな溜息。
「幸せが逃げるよ」
「ご心配、どーも」と面倒くさそうに一郎が返す。
「で?」と声を掛けると「で?」と返された。
「今日の子、どうお返事したの?」
聞いてみると一郎はピクリと眉を寄せる。
「何で?」
『何で?』とは何が聞きたいのか...
「一郎のクラスからは見えないかもしれないけど、ウチのクラスからはギリ見えたの。見られたくないなら、もうちょっと校舎の陰に隠れないと」
「断ったよ」
「何で?だから、女嫌い疑惑が浮上するんだよ」
言ってみるとまたしても溜息。
「ボクシングするのに..こう言ったら悪いとは思うけど、邪魔だから。3つも4つも抱えて何かできるほど器用じゃねぇし」
一郎が不器用なのは知っているけど。
「2つまでならOKってこと?んじゃ、大丈夫じゃん」
「もう2つは持ってるからこれ以上はムリ」
そう言って一郎はスピードを少し上げた。
ひとつはボクシング。じゃあ、もうひとつは...?
「ねえ、もういっこって何?」
「絶対言わねぇ!!」
ダッシュして追いかけたらダッシュで逃げる。
「昨日、何ジャレてたんだ?」
翌日鷹村さんにそう声を掛けられた。昨日ダッシュしてある意味追いかけっこ状態となっていた様子を目撃されていたようだ。
「ジャレてません!!」
そう返して昨晩の出来事を話したら、鷹村さんは意外なことに、苦笑して私の頭にぽんと手を置いた。
「まあ、聞いてやんなや」
「鷹村さんは分かったんですか?!」
「オトナの男の魅力でな」
そんなもん、あったんですかとは口に出してはいえない。
でも、まあ。たぶんいつか教えてくれるんじゃないかなーって気がしてきたから今のところは追及するのは勘弁してあげましょう。
2つ目は言わずもがな、と言った感じです。
でも、ヒロインはそれに気づけていないと言う...
鈍いというわけではないのでしょうけど、なんだか盲点な感じでしょうね。
ちなみに、鷹村さんはこういうときに『お兄さん』だと思います。
桜風
10.7.17
ブラウザバックでお戻りください