朝起きて顔を洗って、鏡を覗き込む。
「おはよう」
鏡に映った一郎に声をかけた。
「おはよう」と返ってきた言葉。
スペースを譲って歯を磨いていて気が付いた。
「ちょ、一郎!?」
「あー?」
タオルで顔を拭きながら一郎が顔を向ける。
「向こう向いて!」
と反対側を指差せば眉間に皺を寄せて訝しがりながらも背を向けてきた。
私はその背に自分の背をあわせる。
「なに?」
「黙ってて」
そろりと鏡を見た。
やっぱり!!
私が離れたから一郎もこちらに体を向ける。
「なに」と先ほどと同じ言葉。
「信じらんない」
漏れた言葉に「何が」と少し苛立った一郎の声。
「背、抜かされてる...」
毎日顔を合わせているから気づかなかった。
並んで歩いていたし、一緒にロードに出てた。
けれども、全く、これっぽっちも気づいていなかった。
打ちひしがれてると「まあ、俺も成長期が来たってことだな」と心持ち弾んだ声でそう言う。
「ありえない...」
「普通だろう」
「姉としての威厳が...」
「、突っ込み待ちか?」
反応さえも余裕綽々。
ああ、ムカつく!!
「そういや、俺、宮田にいつの間にか背を抜かされてたわ」
商店街で木村さんに出会ってそういわれた。
「あー...」
あの時はさほど深く考えていなかったけど、今となれば背が伸びることが何を意味しているのか、目の当たりにしているから何とも複雑だ。
「ちゃんはいつ頃宮田に背を抜かされた?」
「中学上がったばかりの頃ですかね。物凄くムカつきました」
「ま、男女の違いだもんな」
苦笑して言う木村さん。
「姉としての威厳が...」
「...それって俺の突っ込み待ち?」
反応までも同じで、ちょっとへこむ。
「何で私、もっと伸びないんだろう」
わたしの呟きに木村さんは「ははっ」と軽く笑って言う。
「ちゃんはそれくらいが丁度良いよ。可愛いよ」
さらりとそういうことを言える木村さんに何で彼女が居ないのかちょっと不思議。
ああ、さらりと言えすぎるんだ...
「宮田は元気か?」
「偶にそっちに顔を出していませんか?」
「たまに、な」
苦笑して返す木村さん。
「朝、一緒に走りますか?」
誘ってみたらまた苦笑。
「睨まれるから良いよ」
誰が何のために睨むのか。
少し気になったけど、「そうですか」と返しておいた。
「あ、そうそう。ほら、これ持って行きな」
そう言って渡されたのはススキ。
「サービスだよ」
ウィンクをしてそういわれた。
そういえば、ウィンクできるプロボクサーってどれだけ居るんだろう...
今日は帰ったら一郎にウィンクしてもらってみよう。
一郎さんはウィンクが苦手だと思います。
片目を瞑ることは出来てもパチンってウィンクは出来ない。
瞬きになりそう。
それはそれで可愛いからよし!!(笑)
桜風
10.9.19
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