本日の新聞の折り込み広告を手に、私はそのドアを開けた。
「ノックをしろって自分が「今日の買い物、付き合って!」
何か言ってたような気がするけど、とりあえず用件のみ口にしてその場を去る。
「何でスーパーに買い物に行くってだけで...父さんに頼めば良いだろう?車、出してくれるだろうし」
「贅沢言わない!」
自転車、という選択肢もあったけど自転車は重いものを運ぶのにバランスが取りにくい。
そこまで遠くないし、それなりに部活だ何だで鍛えてるから何とかなるだろうと思って自転車はやめた。
一郎を連れてきているのは、私の手は二本しかないから。
「で?何を買うんだよ」
「お米、10キロがまず安いでしょう?お酒とみりん、しょうゆ。あと、お味噌も。それと...」
「ちょ、ちょっと待て。そんなに一気に買わなきゃならないのかよ」
呆れたように一郎が言う。
「あのね?これ、全部いつかは使うの。賞味期限だって結構先に設定されているはずだから、安いときに買い溜めするの!」
ずい、と一郎に迫って言うと「わかったよ...」と不満そうに頷いた。
不満そうでも何でも頷けばそれで良い。
「...なあ、これ本気で?」
「本気と書いて『マジ』です」
力強く頷くと一郎は深い溜息。
本日の折り込み広告を見てご近所どころか、少し離れた街からもきっと主婦が集まっているんだと思う。
今までに見たことないくらいの主婦らしき人たちの群れがスーパーの中で出来ていた。
何せ、『数に限りがございます』だもんな...
「じゃ、一郎はお米と味噌ね。レジの..8番レジの前で待ち合わせね。会計は一遍にしちゃおう」
「オーケー」
「10キロだからね!味噌は『合わせ』だからね!!」
「分かってるって」
そう言いながら主婦らしき人たちの群れに入っていった。
そして、私も果敢に主婦の皆様に負けないように群れに突っ込んでいく。
これ、結構キツイわ...
チラホラと女性達のパワーに負けた感じの男性陣の姿もあって、一郎も負けてたらどうしよう、と少しだけ不安になる。
目的のものと、夕飯の材料を購入して8番レジの前に行くと一郎が面倒くさそうに立っていた。
あ、知らないオバちゃんたちに声を掛けられてる。
逆ナンかー...
「一郎」と声を掛けると天の助けと言った様子で溜息をつき、「、遅い」と文句を言われた。
「夕飯の買い物もしてたの。それ、一緒にレジまで運んで」
順番が回ってきてレジの台に一郎が持ってきたお米とお味噌。そして、私が持ってきたしょうゆとみりんとお酒と夕飯の材料を置く。
一郎には、とりあえずレジの向こうの台で待っておいてもらって支払いを済ませた。
5歳くらいの走っていた子供とぶつかってバランスを崩してしまったが、何とか荷物は全て落とすこともなく、とりあえず私にぶつかった子供がこけてしまったので荷物を床に置いて顔を覗きこんだ。
「大丈夫?」
「うわ!」と子供が驚き、不思議そうな顔をした。
「あれ?」と首を傾げて後ろを振り返る。
この目線だと大人たちに足元しか見えない。
「何やってるのー」と少し離れたところにこの子の親らしき人がいて、名前を呼んでいる。
「はーい!」と返事をしてその子は去っていった。
彼は何を不思議がってたのかな...?
一郎を見つけて家から持ってきた丈夫な袋に本日の戦利品を詰め込んでいると「なあ、」と一郎が声をかける。
「何?...あ、卵はこっちの袋に入れるから。頂戴」
「俺、そんなに怖いか?」
「はい?」
へんなことを聞くなぁ...
見上げて聞き返す。
「さっき、5歳くらい..小学生じゃないとは思うけど、子供がキョロキョロしてたから声をかけたんだよ。迷子かなって思って」
いい人じゃない...
「そしたら、慌てて逃げてった。泣きそうな顔をして」
「何て声をかけたの」
「『迷子かよ』って」
随分とまあ、ストレートな上にぶっきらぼうな...
「立ったまま?」
聞き返すと一郎は首を傾げる。「当たり前だろう?」といわんばかりのその表情に溜息を吐いた。
「辛い事実かもしれないけど。正直、一郎って愛想はよくないんだよ?」
一郎の眉間に皺が寄る。
「あと、話し方もちょっと冷たいときがあるんだよ?私は慣れてるし、寧ろ私に猫なで声とか出してきたら気持ち悪すぎて右ストレートが出そうだけどね?」
「で?」と憮然と続きを促す一郎。
「普通、怯える」
結論を口にするとこれまたショックを受けたようで表情が固まり、さらに無愛想に拍車がかかった。
そして、ふと思い出す。
さっきぶつかった子が一郎の言っている子なのかもしれない。
私を見て不思議そうにしてたところとか、年齢も状況もそんな感じに思える。
「一郎、自分よりも小さい子と話をするときは目線を合わせないと」
と、そこまで言って思い出す。
私たちってそうやって目線を合わせて話をしてくれる人が少なかったな、と。
小さいときからジムに通っているけど、みんな自分達より大きかった。けれども、中々膝を折って話をしてくれる人は居なかった。
八木さんくらいじゃなかったかな...
「そっか」と思わず納得。
「なんか言ったか?」
「特に何も。ま、この先一郎が小さな子供と会話をするかどうかはわかんないけど覚えておいて損はないと思うよ」
アドバイスをすると「そーかよ」とやっぱりぶっきらぼうに返された。
よっぽど、ショックだったんだろうなぁ...
冬合宿の成果です(笑)
秋月さんとお話させていただいていて、一郎さんは子供が好きかどうかみたいな話になって。
嫌いじゃないけど、好かれないとか何とか答えたと思う。
と、いうわけで。
親切だけど、子供には好かれない一郎さん(笑)
絶対に目線を合わせることをしそうにないもん。
桜風
11.2.19
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