花冠





ぽかぽかと暖かな日が続き、何となく散歩に出た。

今日は一郎が朝早く出て行った。つまり、試合だから父さんも一緒。

何の変哲も無い、それこそいつも走っている河原を降りてみた。

すでにそこは春が満開で、思わずぺたりと座ってみる。

「青い匂い...」

新芽の匂いと言うのか、春の匂いがした。

ふと、そこかしこには白い花が咲いている。

シロツメクサだ。

「そういえば...」

申し訳ないと思いながらもブチッと摘んでみる。


他にも、名前を知らない黄色い花とか、小さい青い花とか。

そういうのを一緒に編んでわっかにした。

「これで合ってるのかな...」

「うん、そうだね」

ポツリと呟いた独り言に返事があって思わず驚きの声が漏れそうになったところを何とか堪えて振り返る。

「珍しいね、ちゃんが気付かないなんて」

苦笑交じりにそう言って私の隣にしゃがんだのは木村さん。

「宮田の試合、行くんでしょう?」

「え?もうそんな時間ですか?!」

慌てて時計を見たがまだまだ時間は早い。

「ううん、まだ」と木村さんも言う。

「ビックリしたじゃないですか」

「今日はたくさん驚いてるね」

と木村さんが笑った。

それ、全部木村さんのせいだから...

「走ってたら可愛らしい女の子が花冠を編んでいるからね。思わず声をかけちゃったよ」

「知り合いをナンパしてどうするんですか。生産性の無い」

木村さんにそう返すと苦笑して「それって、俺はちゃんに相手にされていないってことだよねー」という。

ん?逆じゃないのかな??

首を傾げるとやっぱり苦笑して軽く手を振った。

何だ、からかわれただけか...

「で、サボってて怒られないんですか?」

ちゃんが黙っててくれたら誰も知らないから大丈夫」

悪戯っぽく笑って木村さんがそう言う。

「青木さんは?」

「さあ?まだ仕事じゃないかな?」

木村さんが肩を竦めてそう言う。いつも『セット』じゃないんだけどな、と言った感じで。

そういえば、私と一郎だってセットじゃないんだし、そうなるか...

「ねえ、木村さん」

「ん?」

「これ、後はどうすればいいんですか?」

編んだはいいが、その後どうやったらこのわっかのままキープできるか分からない。

「貸してごらん」

と伸ばされたその手に作品を渡す。

「少し小さくないかな?」

「私もそう思ったんですけど、根こそぎ採ったらまずいでしょう?」

まだ花も咲き始めだ。他の人も楽しめるだけは残しておかないと。

「なるほど、いい子だ」

そう言って木村さんは花冠の完成を手伝ってくれた。

「ほい、これでオッケー」

そう言って私の頭にそれを載せてくれた。

「さすが、お花屋さん」

そう言うと「花屋は花冠作れなくてもなれるよ」と苦笑された。

そうなのか...

「じゃあ、さすが木村さん」

言い直してみると木村さんは少し驚いた表情をしてそして「ありがとう」と微笑む。

「さて、と」

木村さんは立ち上がって腰に手を当てて伸びをする。

「そろそろ戻らないと会長が怖いし」

笑ってそういい「じゃあね」と木村さんは去っていった。


そして、私も家に帰ることにした。


その日の一郎はあまり打たれることも無く、殆ど無傷に近い状態で試合を終えた。

会場で試合の観戦をした私は先に帰っていて、暫くして一郎も家に帰ってくる。

「あれ?」と玄関先で声がした。

「お帰りー」

「ただいま」と返した一郎が「これ、どうしたんだよ」と言う。

玄関のシューズボックスの上には水を張った大き目の平たい器に花冠を飾っていた。

こうすれば多少は持つと木村さんが教えてくれたのだ。

「あ、頭に乗っけたかった?」

「遠慮する。というか、これ。が作ったのかよ」

「うん。今日散歩してて、何となく。木村さんも手伝ってくれたけど」

そう返すと「木村さん?」と不思議そうな声を漏らす一郎。

経緯を説明してみたら「ふーん」と薄い反応が返って来た。

「来年、もうちょっといい時期に試合をしたら、これを作ってあげよう」

「は?」

「月桂樹の葉、じゃないけど。勝利の花冠」

笑って言うと一郎も苦笑した。

「勝つこと前提じゃないか」

「そりゃそうよ。まさか、一郎は負ける気?」

「まさか」

肩を竦めて言う一郎。

「じゃ、来年は時期が良かったら花冠ね」

「御免被る」

何故かばっさりと切られてしまった。

にやっと笑った一郎にちょっと腹たって器に入っている花冠を頭に載せた。

「つめて!」と一郎が声をあげて振り返る。

ちょこんと載った小さめの花冠が可愛くて思わず指差して笑ってしまった。

「ったく...」

文句を言いつつ一郎は暫く花冠に付き合ってくれた。



「春かぁ...」ということで、思いついた花冠。
タイトルの読みは『はなかんむり』でお願いします。
ヒロインがひとりで作ってたら間が持たなかったので木村さん。
これぞ、木村クオリティ!困ったときの木村さん。
一郎さんはどれくらいヒロインに付き合って頭の上に花冠を載せていたか分かりませんが、
写真を撮ろうとしたところで一郎さんは徐に頭の上に手を載せて花冠を外したと思います(笑)


桜風
11.3.19


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