書店に行くとそこそこの確率でコイツに会うな、と思っていた。
奢れといわれて、自分もちょっとどっかの店に入ろうと思っていたのでついでに奢ってやることにした。
以前、去年の冬にも来た事のある近くのカフェに入って俺はアイスコーヒーで、宮原は『遠慮』というものがどこかに吹っ飛んでいるらしく、パフェとラテを頼んだ。
宮田兄妹の親友を自負している宮原。
まあ、自他共に認める親友だろうし、俺もそれに異論はないが...
友情の形は色々だろうし、それこそ個々によって違う。
けど、宮田兄妹と宮原のそれは友情と言うには些か他人行儀に思える。少なくとも俺にとっては。
ちょい前に宮原とメシ食ったときにその話になって意見が真っ向対立した。
つまりは、俺と宮原の価値観はまったく別方向を向いているんだろう。
勝手に分ったつもりになっていたらあいつは物凄く迷惑に思うだろうけど、俺も昔はスポーツをしていて目指していたものがあった。
だから、宮田のこと、想いは何となくでも宮原よりは分るんじゃないかって思っている。
俺の言葉に苛立たしさを感じているらしい宮原はそれを必死に隠そうとしている。
こいつが本気で宮田兄妹を思って距離を置いているのなら、それはそれでいいと思う。
けど、たぶん宮原は怖いんだと思う。前に、必要以上に踏み込むと宮田が拒否するに違いないみたいなことを言っていた。
他の誰かがそれをやってしまったのを見たのか、それとも、自分がしくじったのか。
いや。しくじったら、きっと宮原にこの距離を保つことは出来ないと思う。少なくとも、宮田との友情を持続することは難しいのではなかろうか。
とは、同性と言うこともあって地雷は何となく分るのかもしれないが、宮田の地雷を踏んだ後に修復をするのは難しいだろう。
だから、それを恐れて距離をとっている。
けど、俺からしたら宮田は自分の懐に入れた人間に対しては物凄く情が篤いヤツに思える。
たとえ、相手に思うところがあっても、結局見放すことの出来ない性格なんだろう。要は、面倒見が良いんだ。
俺と宮田は、そこまで深い友情があるとは思っていない。これで思っていたら、俺はとんだ勘違いだと思う。
高校のときにちょびっと話をして、日本に帰ってきて偶々出会った姉の嫁ぎ先。そして、こっちでも何度か会ってみたし、アイツの試合を見に行った。
だから、友人と言うにもまだちょっと遠いと思う。
けれど、それでもアイツの根本、性格は何となく分かる。基本は良いヤツなんだ。
宮田兄妹は確かに、ちょっと変わっていると言うか、特殊だと思う。
本人達もそのことは多少は分っているんじゃないだろうか。
分った上で、ああなんだ。
けど、宮原はそれが分っていない。
特殊って言うのは薄々感じ取っているだろうが、それも見ないフリ。
コイツが宮田兄妹の無二の、『いちばんの』親友を自負しているなら、踏み込むべき領域はあると思う。
いちばんを諦めるなら、今のままで充分だろう。
店を出て宮原と別れ、自宅に向かう。
壊れたら、それでお終いなのに...
ふと、自分の膝に手が伸びていた。
―――命を削って。
さっき、宮原と話をしている中で、実は自分の口にした言葉にぞっとした。
その覚悟、その想い、決意。
少しずつ入ってくるボクサーとしての宮田の情報。文字通り命懸けの覚悟が見て取れる。
途中でリタイヤした俺には縁がない言葉だし、リタイヤしなくてもその言葉には縁がなかったような気もする。
どうして宮田がそこまでボクサーに拘るのか、拘らなくてはならないのかが俺には分らない。
宮田にはしなやかさとか、したたかさとかは感じられない。アイツはまっすぐすぎるんだと思う。
まだの方が、見ていて安心するというか、心配は少ない。
あいつは風で、しなやかで伸びやかで折れそうにない。何か障害があっても、それをさらりと避けて、何かがぶつかってきてもいなして、壊れないと思う。
ふと、珍しい人物の背中を見つけた。
こんな人ごみの中で気付いた自分に少し驚く。
「木村!」
振り返った木村は俺を見るなり、少し驚いて、そして怪訝な表情を浮かべた。
まあ、コイツとも仲良しこよしではないからな。俺だって、こんな街中で木村に名前を呼ばれたらこんな表情をするだろう。
「どうしたんだよ」
俺が追いつくのを待っていた木村が聞いてきた。
「な、ちょっと時間あるか?」
「まあ、あるけど...」
「んじゃ、デートしねぇ?」
「はあ?!」
木村の頓狂な声と表情に不覚にも笑ってしまった。
宮田兄妹との交流歴史の浅い清村先輩。
だけど、案外(?)観察眼があって、宮田兄妹の様子を冷静に分析しているのです。
というか、感情的にならないだけなんでしょうけど。
彼にとって宮田兄妹は結構可愛い存在なんです。
宮原嬢も嫌いじゃない。嫌いだったら奢れとか言われてもシカトするでしょうしね。
というわけで、次回はキム兄さんとデート(笑)
桜風
11.9.17
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