Roots 3





久しぶりに服でも買おうと思って街に出た。

特にめぼしい何かが見つかることなく、今回は空振りだ。

じゃあ、電器店とかで新しい情報でも...

そう思っていると名前を呼ばれた。

聞いたことのある声で、振り返った俺はちょっと驚いた。

ちゃんたちの先輩の清村ってやつだ。

ちゃんの勘違いは甚だしく、俺達は大して仲良しではない。たぶん、俺がこうして街中であいつを見つけても特に声をかけることはしないだろう。

声を掛けられて振り返ってしまったのだから待っておかなきゃいけないだろうから、足を止めた。

「どうしたんだよ」

理由もなく呼び止められるとは思えない。

「な、ちょっと時間あるか?」

そんな清村の言葉に「まあ、あるけど...」と答える。

「んじゃ、デートしねぇ?」

「はあ?!」

コイツ、大丈夫か?!

目の前の清村はケラケラと笑っている。からかわれたのだと分って余計に腹が立った。

「奢れよ」

そう返すと

「今日、奢ってばっかだよ、俺」

と言いながらも『嫌だ』と言わなかったからコイツに奢らせてやることにした。


場所を変えてファミレスに向かう。

「今日、奢ってばっかって。彼女とかか?」

「そんな可愛いもんじゃないって。たかられたんだよ。宮原って知ってるだろう?」

言われて頷く。

ちゃんか...たしかに、ちょっと大変だったかもな。

俺の思っていることを察したのか「お前も経験ありかよ」と清村は苦笑した。

間を置くことなく、注文したアイスコーヒーが目の前に置かれる。

「あのさ、木村って何でプロボクサーになったの?あ、減量とか今良かったのか?」

飲もうと思っていたアイスコーヒーを置いてまじまじと清村を見る。

「さすがに、減量入ってたら断ってるって。てか、何だよ、突然」

気持ち悪い。

「宮田って、何でボクシングしてるのかな、って。命を削ってまで」

さらっと言いやがった。

『命を削る』って言ったこいつは、宮田を心配しているということだ。

「アイツの親父さんが元プロボクサーってのは知ってるか?」

俺の言葉に「聞いたことある。見たことないけど」と清村が頷く。

「あまり詳しい話は俺も聞いてないけど、アイツの親父さんが引退したのってたった1回のラッキーパンチが原因だったんだってよ」

「何、その『ラッキーパンチ』って」

清村が眉間に皺を寄せる。

「言葉の通り、運よく当たったパンチ。それで顎が砕けた親父さんは引退した。親父さんのボクシングスタイルは今の宮田と同じだったらしい。宮田は、親父さんのボクシングが世界に通用するっていうことを証明するためにリングに上がっているって..誰かから聞いたな」

「本人じゃなくて?」

「聞きゃ言うだろうけど、聞く気はなかったからな。あいつがリングに立っている、命を削ってまで証明したい何かがある。それで充分だろう」

そう言って俺はアイスコーヒーを飲んだ。

突然だな、と思った。

けど、こいつはたぶん宮田兄妹の周りに居なかったタイプだろう。

宮田がボクシングをしているのはそれこそずっと前で疑問を持つことはない。

アイツが親父さんを尊敬してるのは見てりゃ分るし、だったら同じ道を進むだろうって思う。

だから、その先の『命を削る』まで思いが至らない奴の方が多いんじゃないか?

ちゃんも、昔ジムでボクシングしてたんだってさ」

清村は驚いたように顔を上げた。

「マジで?」

「ああ。けど、中学に上がってやめたんだって。これも理由は聞いてない。で、他の格闘技に興味ないし、球技はそんな得意じゃないから陸上始めたんだってよ。走るのは得意だから」

「え、あれでまだ1年足らずだったのか?それはそれでムカつくな...」

ポツリと清村が呟いた。

「知ってんの?」

「俺も陸上やってたから。膝壊してロクに走れなくなってやけっぱちになってたときにの走りを見て、諦めることができた」

さらっと言ってるけど、こいつには凄く辛い出来事だったのかもしれない。

「今は全然走れねぇの?」

「や、無理しなきゃそこそこで走れる。短距離..はちょっとどうだろうな。のんびりランニングならたまにしてるし」

「...お前、野球やったことある?」

「ガキん時、近所の同級生とかとなら。本格的なのはないけど、何だよ」

「ウチの商店街、草野球してんだ。たまに人数足りないときがあるんだけど、そん時は声掛けても良いか?」

「それって休みの日だよな?バイト入ってなきゃいいぜ。体動かすのは好きだし」

助っ人決定。

ちゃんも足が速いから、これは1番2番を任せたら良いかもしれない。


「んで、木村は何でボクシング始めたの?そして、続けてんの??」

先ほどの質問に戻った。

「殴り飛ばしたいヤツに出会ったから。んで、辞めらんなかったから続けてんの。結局さ、俺はボクシングバカなんだよ」

言って苦笑すると清村も苦笑した。

「分らなくもないな、それ」



清村とそんな話をした数日後にタイミングよくと言うか、ちゃんを見かけた。

商店街で買い物をしているが、どう考えても多いだろう、それ...

ちゃん」

宮田が傍に居るのかな?

キョロキョロしながら彼女に近付く。

「あ、木村さん!」

「それ、大丈夫?」

「色々と後悔の真っ只中です」

「んじゃ、お兄さんが荷物持ちしてあげよう」

「助かります!」

そういや、今日は各店で特価とかしてたな、と思い出してこの大量の荷物を眺めて納得した。




清村先輩とキム兄さんが友情を温めただけに終わってしまった...
ま、いっか。
キム兄さんも結構客観的に見てますよね。
まあ、当事者じゃないもんね。
というわけで、次回が100話目(のハズ)で、宮田妹視点です。


桜風
11.10.15


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