駅に着くと予定の人数よりもひとり多かった。
「あれ、宮田?」
後援会の何たら、というのがあると聞いていたのに、なぜか駅の待ちあわせ場所には宮田とちゃん、ちゃんが居た。
「こんばんは、木村さん」
ちゃんに挨拶を返して宮田に聞いてみた。
「何たらはありますけど、夜なんで」と宮田が言う。
「ごめんなさい、木村さん。お忙しいのに...」
ちゃんが申し訳なさそうな表情をしていい、
「ただ、ドタキャンの方が迷惑じゃないかなーって連絡しなかったんですよ」
とちゃん。
「いいよ、こういう機会がないと俺も中々行かないだろうしね」
「彼女が出来たら絶対に張り切って連れて行きそうですけどね、木村さんは」
半笑いでそんなことを言うちゃんには梅干をお見舞いしておいた。
電車にすし詰め状態で、小一時間。
確かに、この中を着物いくら気合があっても無理だと思った。
お参りに行くまでに着崩れて目も当てられない。実際、そんなカップルが居て、俺自身が「おいおい」と呆れてしまったのだ。
毎年、正月が開けたら参拝客が何人、と全国ニュースで発表される大きな神社に着いた。
神社に着いた時にはちゃんが既にくたくたで、そういえばこの子は『普通』だったんだと今更思い出す。
「、大丈夫?」
俺達は鳥居手前で人の波を避けて休憩している。
宮田はスポーツドリンクを買いに行った。人ごみに揉まれて体力が奪われた上に、ちょっと酔ったとか。
乗り物酔いはない、と自負していたらしいところのこれで精神的にも参ったらしい。
「宮原」と戻ってきて宮田がスポーツドリンクを差し出した。
ちゃんが「もう!」と言いながら宮田の手からペットボトルを奪い取って蓋を開けてやる。
「ああ、そうか」と宮田は呟き、少し心配そうにちゃんをみていた。
「宮田とちゃんは先にお参り行っておいで」
2人に言うと、顔を見合わせた。
「いってらー」
元気なくちゃんが手を振る。
ここに居るとちゃんが気を遣うと思ったらしい2人はうんざりする人ごみの中に消えていった。
「大丈夫?」
聞いてみると
「ムリです。帰りたくない...」
いつものようにカメラを持ってきているちゃんだったが、その元気すらないようで、かなり堪えているのがわかる。
「まあ、帰りはゆっくりして帰ってもいいだろうから」
「、平気そうだった」
「あのさ、ちゃん。ちゃんと並んで体力勝負するんだったら、毎朝5キロくらい走らなきゃいけないよ?」
「あ、ムリ...」
間髪入れずにちゃんが言う。
「だろうね。賢明な判断だよ」
苦笑交じりに言うと彼女もかすかに笑った様子だった。
「宮田達、遅いな...」
腕時計を見ると1時間は経っている。
「これだけの人ですから」
随分回復したちゃんがそう返した。
不意に携帯がなって出てみるとちゃん。
「なに?」
『こっちは裏から出たほうが楽なので、裏か出てます』
とのこと。
ちゃんに言うと
「こっちも裏門に行くって伝えてください」
と言われてちゃんに返した。
「動ける?」
「いざとなったら、負ぶってください」
真顔で言われて少し面食らった。けど、「はいはい」と返事をする。
「やっぱ、木村さんは使えますね」
ちゃんの言葉に「こら」と窘め、手を差し出した。
きょとんと見上げるちゃんに「あれ、渡ることになるんだよ」とうんざりするような、参拝を待つ人の列を指差した。
「あ、うわー...大人しくこっちでたち待てばよかった」
と呟きつつも、ちゃんは肩から掛けているカメラのバッグを俺に預ける。
「私の命と同じくらい大切な子が入ってます」
「心して預かりましょう」
ずんずん人ごみに果敢に突進するちゃんの後ろを進んでちゃんたちと合流したときにはお互いボロボロだった。
「、大丈夫?」
「もう二度と元旦にこんなとこ来ない!」
堂々たる宣言に宮田は呆れたように溜息を吐く。
「、これ」とちゃんがポケットから取り出したのはこの神社のお守り。
『健康祈願』と書いてある。
「木村さんにはこっちです」
と渡されたのは『大願成就』。
「『安産祈願』と悩んだんですけど、やっぱ、お守りだしネタじゃなくて本心でいかなきゃって思って」
とちゃんが笑う。
「この神社って、勝負の神様を祀ってるとかそんな事言ってましたよ」
宮田がこっそりと言ってきた。
だから、ちゃんはネタに走らなかったと。
まだ暗いうちに24時間営業のファミレスで夜食と言うか早すぎる朝食を取っているとちゃんが命と同じくらい大切な子を取り出して調整し始めた。
「この近くにいいスポットあるの?」
ちゃんが聞くと
「ううん。けど、せっかくだからさ」
とちゃんは手元を見ながら答えた。
夜空には星がちりばめられていたから、きっと初日の出も見られる。家を出る前の天気予報でも初日の出は見られるだろうと言っていた。
4人で初日の出を見て、ゆっくりと電車に乗って帰る。
参拝に来る人が多いから、帰りの電車は随分と空いていて、ちゃんとちゃんはシートに座らせた。
2人は肩を寄せ合って眠っている。
思わず笑みが零れる光景に、思わず携帯を取り出して写した。
宮田を見るとあまり良い顔をしていなかったが、消せとは言われなかったからそのまま保存。
ゴトゴトと揺られる電車の中で大きな欠伸が出た。
キム兄さんが変態的なことをして...
撮った写真を保存したはいいけど、どうするんでしょうねぇ。
そういえば、やっと初詣しましたー。
桜風
12.2.25
ブラウザバックでお戻りください