朝早く、と言ってもロードに付き合うときより少し早いくらいの時間に家を出た。
一郎は起き抜けだったけど、玄関まで見送ってくれた。
「お土産、ヨロシク」
「温泉饅頭しかないかもよ?」
「それでいいよ」
欠伸をかみ殺してそういった一郎に「了解」と返して玄関を出る。
を迎えに行くと、全く目が明いていない状態。
「ごめ、朝弱い...」
消え入るような音量でがそう言って、後部座席に乗り込んだ。
次は久美さん。
久美さんは看護師で、夜勤とか、勤務形態が色々とあるから、と朝も平気だといって助手席に乗ってくれた。
そして、奈々子ちゃん。こちらもやっぱり目が明いていない。
奈々子ちゃんのところは、お母さんが見送りに出てくれた。
軽く挨拶を交わして車を走らせる。
「さん、ごめんなさい。私、地図苦手なの」
「ああ、うん。大丈夫ですよ。私もそんなに得意じゃないけどアドバイス貰ってきたから、迷わずいけるはずです」
高速に乗って、1時間ほど車を走らせて、ちょっと休憩。
その頃にはも奈々子ちゃんも目が明いて「おなかすいたー」と賑やかに騒いでいた。
サービスエリアでご飯を食べて、運転手交代。
私が助手席に乗ってナビをする。
それからまた1時間程度高速を走って下道に下りた。
「おお、観光地」
「人が多いねー」
今日は温泉に行くから、高速下りたところから案内看板が出ている。
そうなると、テンションも上がり放題。
特に、奈々子ちゃんが大喜びだった。
目的地に着くと、駐車場はほぼ満車。何とか停められる場所を見つけて駐車した。
「早速温泉?それとも、まずは散策?」
「温泉!」と元気よく声を上げたのは奈々子ちゃん。
「よっし、じゃあ温泉、散策、温泉のコースにしますか!」
がそう言ってまずは温泉を楽しむことにした。
駐車場がいっぱいだったけど、今は昼食時で、まずはそっちに人が流れていったようだ。
思ったほどの芋洗い状態にはなっていない。
「ふ〜、極楽極楽」
湯船につかってが一言。
「オッサン」
そう突っ込みを入れると「はいはい、オッサンですよ」と言って抱きついてきた。
「ちょっと、他の人に迷惑だから暴れないの」
「腹筋が割れてない」
私のお腹を撫でながらが言う。
「最近色々サボってるからね」
バイトだとか学校だとか忙しさを言い訳に体力づくりを怠っていた。
「え、腹筋割れてたんですか?!」
奈々子ちゃんが驚きの声を上げて
「羨ましい...」
と久美さんが俯く。
「腹筋割れてることを羨ましがられたのは初めてだけど...」
しかし、確かに少しサボりすぎた。
自分のお腹を撫でてそう思う。
また一郎に余計な事を言われる前に絞っておこう。
いろんな種類のお湯があって、奈々子ちゃんはそれを制覇すると息巻いていた。
もそれに付き合うって言って一緒に早めにこの湯船を出る。
「さん」
久美さんに呼ばれて「何?」と振り返る。
「今日はありがとう」
「良いって。元々が思いついて声掛けまで全部やったことなんだし。私も女の子の友達って少ないから、ちょっと楽しみに思ってたし」
私も一郎と同じでそんなに友達が多いほうじゃないと思う。
クラスメイト、とか学校のゼミ仲間とかそういう括りで話をする人は少なくないけど、かといって友人かと聞かれたら悩ましい。
「私も同年代の人とこうやって遠出することって中々ないから」
「職場の旅行とかないの?あ、それでも同年代って少ないか」
「ええ。それに、病院勤務だから中々職場旅行とかそういう遠出もないのよ」
なるほど。
お湯に浸かりながら少し話をしていたけど、湯当たりしそうだったからとりあえず出ることにした。
着替えて外で涼んでいるとやっとと奈々子ちゃんがやってきた。
2人は少しくたくたになっていた。
「疲れた...」
「湯当たりね。ま、涼んでなさい」
そう言って自販機に行ってスポーツドリンクを買って2人に渡す。
「後で払うー」
「良いからさっさと飲む。長風呂したら水分補給をしっかりね」
そう言うと「あざーす」とがキャップを捻り、「ありがとうございます」と奈々子ちゃんも口をつけた。
その間、久美さんが食事が出来そうな施設を覗いてきてくれた。
「来たときよりは空いてますよ」
「やっぱ、食事の時間をずらしたのは正解だったね」
がサムアップでそう言う。
食事を済ませて、自由時間。
は荷物を車に投げ込んでカメラを持ち出して「じゃーねー」と自由行動に勤しむことにしたらしい。
「さん、さん」
奈々子ちゃんが腕を引いて私を呼ぶ。
「なに?」
「あっち」と言って指差したのは、小ぢんまりとしたゲームセンター。歴史のありそうな、建物だ。
「ほら、あのパンチングマシーン」
「私パワーないんだけど...」
「物は試しです」
一郎の評価、知らないの?パワー不足がうんたらかんたらって大抵書かれてるんだよ??
しかし、奈々子ちゃんは納得してくれそうにない。
「じゃ、奈々子ちゃんもだからね」
そう言うと「良いですよ!」と言い笑顔が返ってきた。「久美さんも」と奈々子ちゃんが言う。
とんだ流れ弾、ごめんなさい...
心の中で久美さんに謝りながら先鋒は私と奈々子ちゃんに言われたけど、やるからには全力で。
「ごめん、ちょっとアップさせて」
そう言って体を動かす。
体はいい感じにリラックスしてるし、大丈夫かな?腕の振りも悪くない。
「じゃ、行きます!」
そう言って思い切り的を殴り飛ばした。
「おお〜」と周囲で様子を見ていた観光客の溜息のような声が上がった。
思った以上の数字をたたき出せた。
そして、久美さんと奈々子ちゃんはといえば。他の人が注目している中でやりたくないと言って逃げてしまった...
日が暮れた頃に温泉地を出た。
思ったより長引いたのは、のせいだ。
「被写体がたくさんあったの」
と言うが、そのせいでさすがに二度目のお風呂は諦めざるを得なくなった。
私たちはを待つ間足湯に浸かっていたから、まあ、それなりに楽しめたけど。
何より心苦しかったのは、奈々子ちゃんを夜遅くまで連れ歩いてしまったこと。
彼女を送り届けてお母さんに謝罪したけど、逆に恐縮されてしまった。
久美さんはマンションの前で手を振って別れる。
を送って、やっと帰宅。
「おかえり」
「ただいまー。疲れたー」
「思ったより遅かったな」
「のせい」
あー、今日はもうお風呂良いや。
「明日の朝は起こすか?」
「ごめん、パス」
「了解」
そう返事をした一郎が部屋に戻ろうとした。
「あ、一郎」
「ん?」
「お土産。カロリーオフの温泉饅頭」
「...美味いのか?」
「何か、微妙だった」
笑いながら渡す。
「ジムに持ってこ」と呟いて「ありがとうな」と部屋に戻っていった。
しかし...
あー、疲れた...
ヒロインに協力してくれたあの人のエピソードを入れようと思ったら、長くなりそうなので端折っちゃいました。
ごめんねー、『あの人』(笑)
一郎さんとの約束のお土産も買って帰りました。
カロリーオフの饅頭って、あまり美味しくなさそうですよねー...
桜風
12.6.17
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