通過儀礼





携帯が鳴って、私と一郎は玄関を出た。

家の前には大きめのファミリーカー。

!」

窓から手を振っているのは

、ありがとう」

「いえいえ。...ぶぶっ」

「俺を見て笑うな」

仏頂面で一郎が言う。

「だ、だって...ぶふふっ」

!」

運転席にいるおばさんがたしなめる。

「すみません、宮原さん。お世話になります」

一緒に家から出てきた父さんが車の窓から顔を覗かせて頭を下げる。

「いいえ!宮田さんのお役に立てるんですもの」

と弾んだ声が返ってきて父さんはちょっとたじろぐ。

父さんが選手だった頃、のお母さんは父さんのファンだったのだ。そして、今でもファンだそうで。

何か、ちょっと複雑な気分ではある。

「宮田君、前に乗って。、後ろの方が広いから楽だよ」

に言われて頷く私と一郎。

それぞれ前と後ろに乗り込んだのを確認したおばさんが「しゅっぱーつ」と言ってアクセルを踏んだ。


今日は、成人式がある。

同学年でも、今日以降の誕生日の人はまだ未成年だけど、学年ごとに新成人のお祝いとなるらしいので、そこは気にしないらしい。

まあ、未成年でも働いている人はいる。

一郎が良い例だ。

、その着物綺麗ねー」

「おばあちゃんがこれ着なさいって。レンタルも考えてたんだけど、柄もそんなに全く時代が違うって感じがしなかったし。勿体ないしね」

「そうでしょー」

おばさんが突然話に入ってきた。

「私もそう思ったのよ?なのに、この子ったら『お母さんのは時代遅れだから、レンタルが良い』とか言って!」

おばさんはプンスカ怒っている。

「ごめん」

声のトーンを落としていうと

「いいの」

と全く意に介さないようにが笑う。

お小言はかれこれ、レンタルを希望した日から1日1回は聞いているからもう耳タコだし、聞き流すという口頭テクニックを会得したらしい。

「一郎君は、袴とか考えなかったの?」

おばさんにいわれた。

「いえ。あまりそういうのは...面倒くさそうでしたし」

「てか、まだスーツに着られてる感じだねー」

が愉快そうに笑う。

「お前は」

そこまで言って、思い出したらしい。一郎の隣で車の運転をしている人が誰なのかを。

その勢いで言ってたら、私がとめなきゃならなかった。

「いいのよー。馬子にも衣装でしょ?」

...言ってよかったんですか。

一郎の背中もそう言っている。


会場に着くと、色とりどりの着物姿が目に入る。

「わー、気合充分」

苦笑して言うと

「それにカウントされてるぞ、も」

と一郎が指摘する。

そうだった...

袴男子も意外といた。

「一郎も袴にすればよかったね」

「だから、面倒そうだったんだって」

「でも、袴って。ざっくり言うと、裾の広いズボンみたいなもんじゃないの?」

「...ざっくりにも程がある」

盛大な溜息と共にそんな指摘。

そんな呆れることだっただろうか。

歩いていると中学時代のクラスメイトを見つけて声をかけて盛り上がる。

成人式は住んでいる地区ごとだから、公立中学に通った私たちは軽く同窓会になっている。

成人式会場で有難いかもしれない、偉い人の話を聞いて、新成人代表の固い決意を耳にして、会場を後にした。

会場の外の広場には、公立中学の立て札が立ててある。

つまり、そこでプチ同窓会なり何なりしてはどうかという配慮なのだろう。

寒空の下。

そこに行くと、早々に会場を出て行ってたらしい同級生がいた。

彼らは一郎を見つけるなり、声をかけてくる。

そんなに興味がなくても、一郎がプロボクサーをしていることはどこかで耳にしたのかもしれない。

有名人なら、と一緒に写真を撮りたいのだろう。

今はそんなに有名ではなくても、この先、有名になるかもしれないから。

そんな魂胆が見えて、一郎は少し嫌そうだったけど、それも仕事のうちと諦めたようで、宮田一郎撮影会が始まった。

シャッターを切るように頼まれたはばっさり断っている。

曰く、「私、人物撮るの嫌い。そして、簡単にこの腕を使おうなんて思わないで」ということで、大層非難を受けていた。

でも、それは多分、同じクラスになったこともないに同級生にも一緒に写真を撮ろうと言われて嫌な思いをしている一郎のことを慮ったのかもしれない。

有名税にしても、これはちょっと高い。

一通り撮影会が終わると、今度はこの後ご飯食べに行こうという誘いがある。

一郎が私を見た。

「これ、もう限界。パス」

「悪いな」

私の言葉を聞いて一郎が声をかけてきた人たちに謝る。

「宮田だけでも良いんだぜ」

中にはしつこく声をかけてくる人もいて、

「俺も練習があるんだ」

と少しイラついたように一郎が言うと舌打ちしながらいなくなる。

「大丈夫なの?」

が心配すると、

「うそは言ってない」

と肩を竦める一郎。

「じゃあ、帰ろうか」

がそう言って自宅に連絡する。

また迎えに来てもらうのだ。着物での長距離の移動は疲れるし、慣れていないと着崩れてみっともない。

「何だか、成人式ってあまりこう..普通だったね」

が言う。

「通過儀礼。要はセレモニーだもんね。こんなもんじゃない?」

「だろうな」

「もっと派手にばばーんと何かあると思ったのに」

肩を竦めてが言う。

近くのショッピングモールでウロウロしていたというおばさんが迎えに来てくれたのは、それから10分くらい後のことだった。




そういえば、成人式書いていないなーと思いまして。
書いてなかったよね。
一郎さん、二十歳ならもう人気者でしょ?
というか、あれじゃね?OPBFタイトルマッチって20歳のときじゃね?


桜風
13.1.19


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