蛍日和





 「蛍って見たことがないんだよね」

商店街で買い物をしていたらばったりとと出会った。

そして、そろそろ梅雨だねーと話をしていると不意にそう言ったのだ。

はある?」

「うち、田舎があるから」

「えー、いいな。行きたい!!」

「今週末、と言いたいところだけど。父さんが車使うって言ってたからなー...車がないと行くには凄く不便なところだし。行けなくはないけど」

そう言うと「そうか」とが沈む。

ふと顔を上げたはニヤッと笑って、

「なら、連れてってもらおう!」

と言って駆けだした。

荷物が多い私はそれに続くのがちょっと辛く、彼女の行く先を見守っていたら、その先には木村さん。

ああ、知ってそうだなと思ってゆっくりとそちらに向かった。


「どう?」

「さすが。これで何でモテないんだろうね」


「連れて行くのは、ちゃんだけでいいのかな?」


「木村さんってステキ!」

の言葉に木村さんは苦笑して

「いつがいいんだい?」

と聞く。

「木村さん、練習は?」

聞いてみると

「だって、行くのは夜だろう?」

と聞いてきた。

そうだった。

私とはバイトがあるので、それを調整したら、平日の夜になった。

「2人は大学大丈夫なの?」

「日本人たる者、蛍の機会を逸してどうします?」

がいい

「大丈夫ですよ」

と私も言う。

「じゃあ、2人の家に迎えに行こうか?」

木村さんの申し出に、

の家で待ってますので」

という。

「そういや、宮田も?」

「興味ないと思います」

そう返すと、木村さんは苦笑した。

「まあ、そうかもな」



蛍を見に行くその日。

天気も良かったからそれなりに、雰囲気というものを出してみようと思た。

「はい、いっちょあがり!」

パンとお尻を叩くと「ひゃあ」とが声を漏らす。

「痛いじゃない」

「言うほど痛くないでしょ?」

と返せば「まあね」と肩を竦める。

浴衣を着てみることにしたのだ。

木村さんの車は大き目だから、慣れない浴衣でも大丈夫だろうとなんとなく思った。

「じゃ、留守番よろしくね」

一郎に言うと「ああ」と何か含むところがありそうな声音で言う。

インターホンが鳴って一郎がまず応じる。

木村さんだ。

「ほら、急いで」

急かすと「待ちなさいって」とがシャッターを切る。

「また新しいの?」

「ううん。あ、でも。一部はね。レンズ替えてみたの」

そんな話をしながら玄関に向かうと木村さんが驚いたように眉を上げた。

「お世話になりまーす」

「すみません、いつも」

そんな挨拶をすると

「いや、いいもの見せてもらったし」

と苦笑していた。


「宮田も行くか?」

「いいです。風情に縁がないので」

そう言って一郎はを見る。

先ほどそういう会話をしたばかりなのだ。

「それに、俺は見たことありますから」

「そっか。があるんだから宮田君だってあるか」

「じゃあ、行ってくるね」

そう言って玄関を出た。


1時間くらい車は走って、木村さんが車を止めた。

「ちょっと歩くけど大丈夫?」

「うーん、そこは考えてなかった」



「まあ、多分大丈夫です。がへばった時には、すみません」

そう言うと

「わかったよ」

と木村さんは頷いてくれた。

少し急な坂を下ると水音が聞こえてきた。

「わ、近いんじゃない?」

が張り切って歩き出す。

少し歩くと開けて、小さな黄色い光がポツポツと光っていた。

「わー、すごい」

は呆然とその光景を眺めていた。

やがてカメラを構え、1枚だけシャッターを切った。

そして、またカメラを下ろす。

「いいの?」

「こっちんがいい」

そう言いながら自分の目を指差した。

「そっか」

「木村さん、ありがとう」

は振り返って木村さんに素直にそう言った。

「なんか、ちょっと調子狂うね」

こそっと木村さんが言う。

「まあ、は風情を解する日本人ですから」

先ほど一郎と言い合いをしていた時の言葉を引用してみる。

木村さんは苦笑した。


しばらく眺めていたけど、「そろそろ帰る時間とか考えると戻らないと」と木村さんが声をかけてきた。

そうして、下ってきた坂を上り始める。

「ふぎゃ!」

と変な声が聞こえて振り返る。

「あ...」

がこけていた。

そして、意地でカメラを守っていたので、本人はかなりひどいことになっている。

「ほら」

そう言って木村さんが背を向け、

「そっちは、預けてくれるかしら?」

とカメラに向かって手を伸ばす。

「ごめん」

「むしろ、木村さんに?」

「ありがとうございます」

「いいよ。戻るときにはどっちか、というか、ちゃんをおぶってこの坂を上るんだろうなって思ってたからね」

そう言って木村さんがを背負って立ち上がる。

ちゃんは、足元気を付けてね」

「バランス感覚には定評あります」

「だったね」

木村さんは笑って、そして、また苦笑する。

「寝ちゃってるよ、この子」

「あらあら」

木村さんと私は顔を見合わせてこっそり笑った。



蛍ネタが浮かんだはいいけど、季節的に、というか、月的に6月がよかったんだろうなと思ってみたり。
宮田兄妹は見たことありますよ、立派な田舎がありますからね。



桜風
13.5.29


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