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時の国の首都を発って半日ほど歩くと問題の森に辿り着いた。
「これは、また...」
大地は森を見て思わず声に出す。
鬱蒼としたその森は、森の国とは全く違った印象を受ける。
「ここが、時空の歪が、という森か」
氷が呟く。
「ええ、そう。でも、入り口はまだ大丈夫よ」
「そういうところまで沙羅のところの森と同じなんだ」
雷は感心したように言った。
森の様子を眺めていた飛翔が口を開く。
「霞。済まないが、時空の歪がわかる誰かを頼む」
「そうね、じゃあ...ディース、悠(ゆう)!」
霞がそういうとスッと人が現れた。
見た目は15歳くらいで幼い感じがする。髪は漆黒のショートヘアで、瞳の色は明るい紫色だ。
「お呼びですか、霞様」
「ええ、貴女にはこのままついてきてもらうわ」
「はい、分かりました」
「この子、悠。属性は時よ。一番時空の変化に敏感だから」
そう紹介された悠は皆の視線に少し怯みながらも
「悠です」
と自己紹介をして一礼をした。皆も「よろしく」と口々に挨拶を返す。
殆ど獣道の森の中を歩いて進むが、足取りの重くなる者が出てきた。
「疲れたぁ...」
「だろうな」
沙羅の投げやりな呟きに炎狼は苦笑しながら相槌を打つ。
「飛翔」炎狼に声を掛けられた飛翔は足を止める。
「この森に入ってからそんなに歩いていないはずだけど。ざっと15kmくらいかな?」
「まあ、それくらいだな」
大地も同意する。
「あの、何であの2人は歩いた距離が分かるの?」
霞は側に居た雷に聞いてみた。
「ああ、あの2人、まあ、氷もだけど。軍人なんだよ。自分の歩幅は分かってるだろうし、時間は計れてるからね。たぶん、そんなところでしょう」
感心したように「ふーん」と言いながら霞は飛翔たちを見る。
「とにかく。今日はここまでにしないか?そろそろ日暮れだろう?」
氷が提案して、皆を見渡す。
正直、雷も足が疲れているし、霞だって疲労が見て取れる。
飛翔と大地もそれを納得し、その日はそのまま野宿をすることになった。
その場で食事と睡眠を取って休息するということだが、嫌そうに顔を顰めた沙羅も納得した。
時の国で分けてもらった携帯食で栄養を摂る。
今回はこれで食事を済ますが、これが無限にあるわけではない。
「この森、生態系は狂っていないのか?」
大地が問う。
「ええ、たぶん...」と霞が自信なさそうに応えた。
森に近づかないように、と決めてあったため霞自身もこの森に近づくことはなかったようで中の事はよく分からない。
魔族の本拠地には魔力を辿れば何とかたどり着くはずだ。それについては霞の方が専門家であるため、飛翔は何も言わずにその作戦に乗ったと言うわけだ。
「まあ、長い間。それこそ1ヶ月も滞在するわけじゃないんだし。何とかなるでしょう」
雷がそう言って肩を竦める。
「そうよ!とっとと終わらせましょう。お風呂、どれだけ我慢しなくちゃいけないのか不安で仕方ないのよ...」
沙羅の発言に雷も同意していた。やはり、シャワーを浴びたい。
「まあ、雷は綺麗な川でも見つけて水浴びをすれば良いだろう。沙羅も気にしないなら水浴びしたらいいだろう」
「気 に し ま す!」
からかうように言う大地に沙羅はムキになって返した。
その様子を見て皆は苦笑を漏らす。
ただ、霞がひとり反応に困っていた。
それに気づいた沙羅が「霞だって、お風呂入りたいよね」と声を掛ける。
「え..あのわたくしは。この戦いを終わらせるのが先決でその先のことはまだ考えられないわ」
霞の返答を聞いて沙羅は溜息を吐き「はいはい」と面白くなさそうにその場を後にした。
「沙羅、あまり遠くに行くなよ」
大地が声を掛けると
「一応、声の届くところには居るわよ」
と気のない返事を返してそのまま森の闇の中に溶けた。
霞は不安そうに沙羅の背を見送った。
自分は何か悪いことを言ってしまったのだろうか。
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