戦の章 第13話
| 「霞様に続いて柊から連絡が入りました」 不意に立ち止まった悠が嬉しそうに言う。 正直、この建物に入ってからは自分たちの通信もノイズが酷かった。建物の中にある結界を張る装置の影響だろうと思っていた。 しかし、今の時点で2つ壊したこととなる。 「じゃあ、あと1つかな?」 沙羅が呟く。 「どうだろうな。3つと言うのはこちらが勝手に言っただけだからな」 氷の言葉に「そっか」と呟く。 「けど、こちらの力も結構戻ってきました!」 悠の言葉に氷は頷く。先ほどからカハクと話をして全体の把握をしているつもりだ。 彼と連絡が取れるようになったということは、少なくとも、魔力の影響が弱まったということなのだろう。 暫く歩いていると「あ!」と嬉しそうに悠が声を上げた。 「どうした?」 氷が問う。 「霞様です!」 そう言って悠が駆け出した。 「え、ちょっと。待って」 沙羅がその後を追い、氷は深くため息をついた。 とりあえず、ここまでの道のりでは多少の戦闘はこなしてきた。 運が良かったのか、それともこの先の布石なのか分からないが相性の良い敵ばかりだったため、そう苦労することなくここまでやってこれたのだが。 やはりそうなると、逆にこの先の罠が気になる。 自分たちの侵入は既にこの要塞に知れ渡っているだろうに、この程度の歓迎で済んでいるのは何か誘導されているような気がしてならない。 悠が『霞』と言うなら、たぶん霞で間違いはないだろうが、それでも別の何かが用意してあるようで慎重にならざるを得ない。 「霞様!」 やっと合流できた仲間の姿に霞は安堵の笑みをこぼした。 「良かった」と呟く霞の傍には飛翔が居ない。そして、何故か雷が一緒だ。 「飛翔は?」 沙羅が問う。 「さっき、ワタシたちと霞たちは合流できたんだけどね。油断しちゃった、分断されたんだ」 「じゃあ、大地と炎狼と飛翔が一緒に行動しているということか?」 「そのつもりだったんだけどな」 不意に別の声が加わった。大地だ。傍には柊がいる。 「どういうこと?」 「炎狼が突っ走って飛翔がブレーキに走って。その間も戦闘は続くし、気が付いたらあいつらが居なかったんだ。柊は飛翔たちの気配を追うのは難しいって言うから、まあ、だったら霞と合流したほうが良いだろうな、って。近くに居るようだったし」 大地がそう言って柊を振り返る。 「申し訳ございません」 「いいのよ。飛翔が一緒なら大丈夫でしょう」 炎狼の存在感は...? 雷は突っ込みたい気持ちをぐっとこらえて心の中でそう突っ込んでみた。 暫く警戒しながら道を進む。 霞、悠、柊の3人が揃って同じところを口にしたので、そこに向かうことにしたのだ。 「本当に、ここで良いの?」 まっすぐに伸びた大きな廊下。 誘われているような、罠と思えるようなそんな雰囲気だ。 よくよく見ると廊下の造りも今まで歩いてきた無機質なものではなく、少し派手だと思うくらいの飾り彫りなどが施されている。 どこかの宮殿のようだ。 3人がぴたりと部屋の前で足を止めた。 「ここか?」 大地が問うと「ええ」と霞が頷いた。 重い扉を押すとそこには黒いマントを纏った者の背と、そして、飛翔が2人立っていた。 黒いマントを纏っている者と対峙しているのは、炎狼だ。 「炎狼!」 大地が声を掛ける。 黒マントに警戒しながら炎狼は苦笑しつつ右手を上げる。 黒マントはゆっくりと振り返る。あの不気味な、笑った顔を貼り付けた面を被っている。おそらく魔族だろう。 警戒しつつも大地たちは部屋の中に足を踏み入れた。 「揃ったねぇ、脆弱な人間ども。さあ、問題だよ。この2人。どちらが本物の風の勇者だ?偽者と思う方の心臓に君たちのその忌々しい武器をつきたててくれたまえ。ちなみに私を攻撃してきたら、そこの2人の首が飛んじゃうから。声は残念ながら聞かせてあげられない。彼らは魔方陣からは出てこられないから安心して殺してくれて良いよ」 大仰な動作で両手を広げ、魔族がそう言う。声音も楽しそうだ。 その男が立っているすぐ傍には魔方陣の上に飛翔が2人立っている。炎狼は黒マントの動きに警戒しながら大地たちの元に寄る。 「つまり、どちらかが飛翔じゃなくて、向こうが化けたかオレたちに見せている幻影かってことか?」 大地が言う。 氷は頷いて少し離れたところの2人に注目する。 (カハク...) 呼んでみたが、どうも反応がない。 この部屋に魔力の増幅装置があるか、この部屋には特別な結界が張ってあるかのどちらかなのだろう。 霞の竜であるセツナに視線を向けた。セツナは首を小さく振る。 「あれが霞様なら、分かったと思うんですけど...」 だろうな、とその場に居た全員が納得した。 6人は、目の前に居る2人の飛翔をじっと眺めた。 |
桜風
09.3.1
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