戦の章 第14話





「お前ら、どっちだと思う?」

炎狼が問う。

「わたしは、向かって右」

「同じく」と雷が言い、皆がうなずく。

「根拠は?」

「もうねー、これだけずっと一緒に居たの。いい加減雰囲気とかで分かると思うのよね。それに、さっきからあの右の方...」

魔方陣の中の飛翔。

向かって右の方はあごに軽く手を当てている。

しかし、左のほうは虚ろな瞳でこちらを見ていた。

そう、飛翔は考えるときなぜかあごに手を軽く当てていることが多い。

けれども「違うと思うな」と言った者がいた。こともあろうか炎狼だ。

「なぜかしら?」

霞が問う。霞は残念ながら付き合いが浅いため、飛翔の癖についてはそこまで知らなかったのだが、それでも雰囲気的には沙羅の言ったとおりだと思っていた。

「親族の勘」

そう言い切った炎狼が自身の神器を構えた。

「おれに任せてくれ」

「ちょ、待ってよ。だって、右のほうの飛翔...」

雷が止めようとしたが、先に炎狼が地を蹴って彼らが本物の飛翔だと言った向かって右のほうに駆けていく。

炎狼が向かっている飛翔はふと、もう一人の飛翔を見た。

ふっと飛翔が纏っていた神力が小さくなる。

「炎狼、神力をエンブレムに封じろ!」

もう一人の飛翔に向かってそう言い、自分の背に手を回していつも身に着けている護身刀を構えて向かってくる炎狼に突き立てた。

「飛翔!?」

大地たちが驚きの声を上げる。

しかし、それに構うことなく

「煌!行け!!」

飛翔が笑顔を貼り付けている魔族に向かって炎を放った。

その炎から煌が飛び出してその魔族の喉笛に噛み付く。

飛翔を襲った炎狼は砂のように崩れていった。

そして、煌に噛み付かれた魔族は煌を殴り飛ばして自分から剥がし、距離を置いた。

「飛翔!?魔方陣から出てきてる!」

確かに、飛翔の右足は魔方陣から出ている。

「この魔方陣はたぶん、強力な神力を持つものの行動を制限するものだったんだ」

つまり人の身程度だったらこの魔方陣の制限は効かないということらしい。

「何で、あいつが炎狼じゃないって気がついたんだ?というか、隣に立っているのが炎狼だって気がついたんだ?」

「この子だよ」

そう言って先ほど魔族に殴り飛ばされた煌の頭を優しく撫でる。

「この子がずっとこちらに出ようと頑張っていたんだ。煌も神界に属するから魔力が強いこの空間に来るのに手間取っていたみたいだが、その気配を感じることができたから、あっちが炎狼だってわかった。だったら、向かってくるのは偽者だろうって思って」

そう言ってから冷たい目を負傷している魔族に向けた。

「さて、と。ここを破壊したら全部なのかな?」

飛翔はそう言って再びエンブレムから神力を開放し、弓を番えて弦を引く。

「まず、炎狼が見せられている幻影を解いてもらいたい」

飛翔の言葉に魔族は高らかに笑う。

「そこまでお見通しか。今回の風の勇者は優秀だなぁ...だが、はい、わかりましたと私が従うと思うのか?そうそう、風の勇者は一度我々の幻影を体験しているね。術者を倒しても、その術は解けないことを君は身をもって体験した。そして、今回のそれもおなじことかもしれない。さて、どうする?」

楽しそうに、試すように言う魔族から少しだけ視線をはずした。セツナが頷く。

飛翔はセツナの反応を見て躊躇うことなく矢を放った。

それはまっすぐ魔族の元へと飛んでいき、眉間に突き刺さる。

「なん..だと...!?」

驚きの表情を声に孕ませて魔族が崩れていった。


魔族を消した後、飛翔は部屋の中を見渡す。

「とりあえず、この部屋にあるだろうからまず増幅装置を壊そう」

飛翔がそう言うと皆は慌ててそれを探し始める。ちょっと忘れてた。

しかし、暫く探してみたものの、それらしいものは見つからない。

「ハズレ、だったのかな?」

沙羅が呟く。

「霞が壊した増幅装置はどんな形のものだったんだ?」

氷が問う。

「えーと、それっぽかったわよ。姿見くらいの大きさで、部屋の真ん中に大切そうに安置してあって...」

「見てそれと分かったのか?」

「ええ、一応。それに波長が違ったから、とりあえず壊してみたら正解だったって言う...」

霞の言葉を聞いて今度は大地を見た。

「あー、何か小さい箱だった。宝石箱みたいな...やっぱりそれらしい感じに安置してあったよな。台座の上にあったし」

大地の言葉に雷が頷く。

「霞、この部屋のどこかから通常とは少し変わった波長は出ていないのか?」

飛翔が問うと霞は首をめぐらせた。しかし、どうにも分からない。さきほど、廊下を歩いているときにはこの部屋の中にあると確信していたのだが...

「やっぱり、ハズレ?」

雷も沙羅と同じようにハズレだと思っているようだ。しかし、飛翔は部屋の中をよく見渡した。

兎にも角にも。自分はまたしても彼らとはぐれたが、皆がここに来たのはやはり波長に違和感があったからだろう。

霞に確認してもそうだという。

「だったら、この部屋全体がそれなんじゃないか?」

「は!?」

氷以外が声を上げた。氷だけが頷いて飛翔の言葉を肯定している。

「え、何で?!」

「ここに入るまで感じていた違和感は、自分たちが居た空間に漂っているものとは違うから感じられたんだろう。だが、この部屋の中に居るのが、まあ想定外以上に長くなってここの波長に慣れたんだろう」

「えーっと、つまり?」

「香りのきつい部屋の中に居たらいつの間にかそのきつい香りが気にならなくなるだろう?それと似たようなものじゃないかって思うんだ」

飛翔の言葉を受けて霞は慌てて部屋の外に向かう。

「霞様!」と慌てて悠がその後を追った。

「ホント!そうみたい!!」

ドアを開け放した状態で霞がそう言う。部屋の外と中では空気が違う。

「じゃあ、部屋を壊すか」

なんでもないことのように大胆なことを言うのが飛翔だ。皆ももう慣れた。

とりあえず、ここに間違いないようなので炎狼を引き戻そうという話になり、セツナがその仕事を請け負った。


「セツナって、笛なんだね」

セツナの武器は笛のようだ。しかし、笛が武器とはどういうことだろう。

「意外と痛いんじゃないのか?」

飛翔が言うとセツナは笛を吹きながら苦い表情を浮かべて飛翔を見る。どうも違うようだ。

そんなセツナの表情を見て霞が笑う。

「たぶん、精神操作系なんでしょうね。攻撃としては物理的にどうこうってのはないんじゃないかしら?」

分かって言ったのだろうから飛翔は見ずに沙羅に向かって霞が解説する。

なるほど、と沙羅は数回頷いた。

暫くセツナの演奏を堪能していると炎狼が帰ってきた。

「おかえり」

少し嫌味成分をこめた飛翔の一言に「ただいま」と苦い薬でも飲んだような表情で炎狼は言葉を返した。









桜風
09.3.15


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