戦の章 第17話
| 結界を全て破壊はしたが、敵の勢力は弱まることはなく、ここに来るまでに何度も戦闘を繰り返した。 時間自体は短い。 1日もこの要塞の中を駆けていたわけではない。 しかし、ここが決戦の場と定められており、そのつもりでいたため、やはり通常よりは神経が消耗していた。 ここで失敗できない。ここで魔族を倒し、自分たちの世界を平和なものにする。そういう決意で臨んでここまでやってきた。 実際に大きな負傷はしていないが、それでも体も心もぼろぼろであるような感覚に陥っている。 やっと開けた場所に出た。最も兵の数が多い道を選び、そのままひたすら進んでいた先にあった広間。 おそらく、ここが軍をまとめている高位魔族の居るところなのだろう。 兵士の姿は見えない。 居るのは部屋の奥の玉座と呼べる椅子に座っている魔族が一人。それは、とても強い魔力を垂れ流しにしている。 「よく来たな、脆弱なる虫けらども」 それは鼓膜に響いて聞く声ではなく、頭に直接流れこんでくるような感覚だった。 「な..に?」 沙羅が少し混乱したように声を出す。その傍に居た飛翔は安心させるように沙羅の肩に手を置き、「ハヤテ」と静かに自身の竜を召喚した。今のうちに呼んでおいたほうが得策と考えたからだ。 飛翔の声が耳に届いた皆は自身の竜を呼び出す。 その部屋はとてつもなく広かった。 その部屋を埋め尽くすかのように殺気が向かってくる。この要塞を警備している魔族たちが集まってきているのだろう。守らねばならにトップの下へと。 「今集まってきているのは、任せる」 炎狼がホムラに言う。彼女は「おまかせください」と頷いて炎狼から距離をとった。他の竜たちも同じく主人たちから 距離を置く。 竜たちに魔族の兵たちを任せて炎狼たちは目の前の魔族に鋭い視線を向ける。 「何か、ちょっと気持ち悪い...」 雷が呟いた。 魔力に当てられている。能力者だからある程度の耐性はあるだろうが、本人のもって生まれた体質によっては、これだけの大きな魔力を前にすれば多少の体調変化をきたすこともあるだろう。 霞はそう納得して雷の傍に寄った。元々時の能力者は神界の気を多く纏っている。だから、中和できると思ったのだ。 「ありがと」と雷が呟く。確かに、少し楽になった。 「あのデカブツ、どう攻めて良いのかわからないね」 額に汗を浮かべて雷が呟いた。 雷のその言葉に霞は少なからず驚く。自分が目にしているのは小柄な少女だ。まだ10歳にならないくらいの小さな女の子。 どういうことだろう。 霞が飛翔に視線を向けた。 「おそらく、私たちの脳は正確にあの姿を捉えられていないんだと思う。情報として処理しきれていないのか、それとも私たちの脳では映し出せないようなものなのか。だから、それぞれが感じたものに近い形を脳が映し出しているんだろう。現に、私にはあれは痩身の青年だ。まあ実際、実体があるかどうかも怪しいな」 益々攻め方が分からない。 「どうするよ。様子見、してみるか?」 「そうしたいのは山々だが...そんな余裕は、ないだろうな」 炎狼の言葉に氷が返した。 相手は何もしていない。それなのに、何だ、このプレッシャーは。 自分たちの周りでは、戦闘が始まった。 全ての敵を七神竜たちが食い止める。霞が自分のディースを召喚してそのまま加勢させた。 「そなたたちは、何故ここに居る?」 目の前の魔族が言う。 こいつを倒せば、きっと世界は静かになる。戦争も、もう終わりだ。無駄な血を流すこともなく、優しい人がむやみに人を殺し、殺される日常がなくなる。 「それはどうかな?」 大地は弾かれたように顔を上げた。 「人と言うものはどこまでも愚かで、進歩のない種族だ」 その声は自分の考えていたことに対する言葉だ。 大地の異変に気づいた氷が落ち着かせるように、大地の肩に手を置いた。 「まあ、人が愚かであることは認めよう。おそらく、今の大きな戦争が収まっても小さな諍いまでもなくなることはないし、また戦争が起きるかもしれない。それはすぐではなく、数十年後、数百年後になるかもしれない。それでも、自分の守りたいものがあり、その幸せを願う限り、進歩はする」 氷の言葉に魔族は笑った。 「同じ種族者を殺すための進歩だろう」 「生かすための進歩だってあるわ」 額に汗を浮かべた沙羅が言う。目の前の魔族の放っている魔力がプレッシャーとなり、沙羅の緊張を高めている。 「人の子よ。虫けらよ。そなたたちは知らないからそう言えるのだ。神と名乗るあの者たちに利用さえ続け、監視され、拘束されている。それが、今の『人』の姿だ。現に、人の力では我を倒すことは出来んよ」 「人の力じゃねぇ!神の力を借りている、おれたちは!!」 炎狼が吼えた。 「愚かな。それが愚かだというのだ。神と名乗るあのものたちはのうのうと安全なあちらの世界でこの状況を楽しんで見ている。自分たちは決して傷つかない。傷つくのは替えのきく虫けらどもだ」 神は基本的に人間の世界に直接かかわれない。それが掟だ。 「その掟は誰が決めた?神と名乗るあのものたちだ。では、なぜそのようなものを作った。自分たちは大きな力を持っているのに、そなたたちみたいな脆弱な虫けらに戦わせる?」 「そ、それは...」 炎狼が口ごもった。言われてみたら、確かに。エンブレムを持っていても当然神の方が力が強い。だって、エンブレムを持っていても、人は人だから。 「人と言うのは昔、我らの贄だった。我らの食事のためだけに生きていた。 世界と言うのは最初は我らの住む世界と現在神と名乗っているの2つしかなかった。しかし、その世界が交わるところがあった。 あるとき、そこに新しい種族が現れた。それが今で言う『人』だ。放っておけば好きなだけどんどん増えていくその新しい種族は我らにとって格好の餌だった。 しかし、あるとき、あちらの世界の者がわれらの餌に知恵をつけた。その知恵を持って餌たる人類は、我らに楯突きはじめた。人類は知恵を授けたあちらの世界の者たちを崇め、奉り、『神』と呼ぶようになった。 神と呼ばれるようになったあちらの世界の者たちは、我らとあちらの世界の間の交わるところに世界を作り、与えた。そして、人類に7つの力を授けた。『火』『地』『光』『精霊』『風』『水』『時』。それぞれを一人ずつ。しかし、それは枷だ。その力は自分たちが与えたもの。だから、その力を授かったものは自分たちに傅き、従うという印。所有の烙印だ。 かの者たちは授けた力を持つものを王とし、国を作らせた。我らの了解を得ず、あたかもそこは自身の世界であったかのように。 そして、あちらの世界の者たちが次に行ったのは我らの世界への侵略だ。人を使い、我他の世界に攻めてきた。人を害し、その世界を脅かすものとして。人はいくらでも増えていた。替えはいくらでもきき、自分たちは傷つかない。便利な兵を手に入れた。 かの者たちはそなたたち脆弱なる虫けらを駒として使っているに過ぎん。そして、我らは、我らの地を取り返すべくこちらに来ている」 そんな話は知らない。 何だ、それは... 神というのは自分たち人を守る存在で。能力者と言うのは誰もが持つ可能性で、恵みだ。 自分たちを縛るのは世界の掟、国の法。そして、自然の力。 目の前の魔族の言葉に動揺した炎狼は、自分の考えを読まれているということをすっかり失念していた。 魔族は口角を上げた。 「で?」 不意に、部屋の中、極度の緊張感が漂っているにも拘らず澄んだ声が響いた。 |
桜風
09.5.3
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