戦の章 第2話
| 沙羅が見えなくなった闇を見詰めたままの霞の背に仕方ない、と笑みを浮かべ、「立場とか関係なくて」と氷が口を開く。 「沙羅は、なんでもない日常会話をしたいんだ。たぶんな。だから、早く終わらせなきゃとかそういうのは置いて。ふかふかのベッドで寝たい、とか」 「腹いっぱい肉を食いたいとか」 炎狼が氷に続く。 「あ。ワタシはワインが飲みたい!昨日飲んだけど物足りなくて...」 雷が挙手をしてそう言う。 「飛翔は?」と大地がいうと「読書と睡眠時間の十分な確保」と短く応える。 「お前、そればっかだな」と呆れたように炎狼がいうが、「普段そんな時間が取れなかったんだから仕方ないだろう?」と眉間に皺を寄せながら飛翔が返した。 「霞は?」 雷が問う。 「え...」と言葉に詰まっている霞に「何がしたい?」と付け加えた。 霞は暫く視線を彷徨わせた。そして、静かに口を開く。 「ケーキとか。スイーツを飽きるまで食べてみたい..かしら」 「いいね、それ!」 雷は笑いながら同意する。 「ああ、霞。あまり畏まらないでくれ。オレ、そういうの苦手。肩の力抜いてもいいと思うぜ。少なくともこのメンバーなら」 大地が言う。 同じく、とその場に居る皆が同意し、木の影から手が伸びて「わたしも」と声が届く。 「そこは、暗いだろう。早く戻って来いよ」 氷が言うと気まずそうに沙羅が皆の輪の中に戻ってきた。 「あの..」と霞が何かを言おうと言葉を探していると 「今度。コレが終わったら一緒にスイーツお腹いっぱい食べよ?世界中を巡るの。大丈夫、時の国以外は一応、街の中歩いているからたぶん、道は分かるわ。時の国は、霞が案内して?」 と沙羅が気恥ずかしそうに言った。 「ええ、楽しみね」と霞は微笑む。 「太るぞ」と炎狼が言うと沙羅が「うるさいなー。頑張った自分たちにご褒美よ!」と膨れっ面をしながら言い返す。 クスクスと霞は笑う。 ずっと息を詰めて生活をしていた。魔族に自分の力がばれてはいけない、と気を抜くことが出来なかった。 その魔族の本拠地に向かっているというのに何故か肩に力が入らない。不思議だな、と思いながらも周りに居る『仲間』を見る。 ああ、そうか。ひとりじゃないとはこういうことか。 「少しくらいいいじゃない。だって、沙羅は痩せ気味でしょ?」 そんな事を言ってきた霞に最初ぽかんとした沙羅だったが「ほーら!」と炎狼に向かって得意げに言った。 「どーでも良いんだけど、おれには。沙羅の体重が増えようが減ろうが」 「なら言わないでよ!!」 ムキになる沙羅に炎狼も応じてその場が賑やかになる。 飛翔は溜息を吐き、大地は苦笑する。弟妹を見守るような目をして氷がそれを眺め、雷が2人を煽って楽しんでいる。 「霞様」と静かに控えていた悠が声をかけてきた。 「仲間がいるって凄いことなのね」 微笑みながら言う霞に悠は少し驚いたが、「はい」と彼女も微笑みながら頷いた。 「ところで」と飛翔が声を出す。 言い合いを続けていた沙羅と炎狼も飛翔に注目した。 「取り敢えずこの人数でぞろぞろ移動するのは得策ではないと思う」 飛翔の言葉に氷も「そうだな」と頷いた。 「2班に分けるか?3班は無理だろうし」 と大地も乗る。 飛翔は頷いた。 「まず、私と雷は別チームだな」 雷は首を傾げながら「了解」と返す。 「俺と霞も離れた方がいいだろう」 「霞は沙羅とも別チームが良いと思う」 氷に続いて飛翔が言う。 どういう分け方をしているのだろう、と炎狼は首を傾げた。 「じゃあ、オレと炎狼も離すか?」 その言葉に異存はなくそれも採用となった。 「なあ、何で雷と飛翔は別が良いんだ?」 炎狼が問う。 「スピード。飛翔と雷はフィールドが違えどそれぞれナンバー1とナンバー2だろう?」 大地の言葉に「あ...」と炎狼は納得したようだ。 飛翔は空で、雷は地上で最も速い。そしてそれぞれもう一方では2番目だ。 「じゃあ、わたくしと氷が分かれるのは?」 「武器の射程だな。お互い柄があるものだから」 氷が応えた。 「わたしと霞は?」 「全部の属性のものを使えるだろう?沙羅は召喚、霞はディース」 なるほど、と沙羅は頷く。 「じゃあ、おれと大地は...」 「氷たちと同じく射程だな」 大地が応える。 それから取り敢えず分けたメンバーでチームを作ってみる。 出来たのは、飛翔、炎狼、沙羅でひとつ。氷、雷、大地、霞でもうひとつ。 何か異議があるか、と聞いたがそれはなかった。 「敵の本拠地は、何かしらの構造物があるはずだ。洞窟なり、建物なり。魔力を追っていくのだろうから同じ場所にたどり着くとは思う。だが、入り口がひとつとは限らない。必ず、道標になるような何か印を残すように。あと、一人では行動しないように。これは基本」 飛翔の言葉に皆が頷く。 「霞、ディースと連絡は取れるんだったよな?」 飛翔が霞を見て言った。 「ええ、わたくし自身ディースとの交信は出来るし、ディース同士でもそれは出来るわ。魔力の影響範囲が多少強くなってもこれについては大丈夫だと思う」 霞の言葉に悠は「はい」と力強く頷いた。 「竜たちのようなものか」と雷は納得している。 「じゃあ、連絡は悠を通して霞に。良い?」 飛翔が確認すると氷が頷いた。 どうやら、氷たちのチームは彼がリーダー的存在になるようだ。4人が態々話し合ったわけではなく、自然とそうなったのだろう。 「了解。定期的に送るか?」 と返した氷に 「どこかで傍受されたらまずいだろう?それで居場所が分かったら人数が少ない分面倒だ。構造物についたとか。何かあったときで良いんじゃないか?」 大地が意見を言う。 「ついでに、用心して暗号のようなものにしておきたいんだけど。大丈夫か?」 飛翔が霞と悠を見て言う。覚えるのはこの2人だ。 「ええ」と霞は頷き、「大丈夫です」と悠も応えた。 飛翔は棒を拾って地面に暗号表を作る。 魔族はどれだけ聴覚が発達しているか分からない。取り敢えず、音に発して魔族にこのコード自体を知られてしまっては暗号にした意味がない。 勿論、思考を読む魔族もいるかもしれないがそれを気にしていたら何も出来ないことになる。そこまでは気にしないことにした。 飛翔の書いた表にある単語はシンプルで、思ったよりも少ない。しかし、それを組み合わせたら案外詳しい情報交換も出来そうだ。 「お前さ。これって風の軍の暗号じゃないのか?」 「そうだけど?」 表を覗き込んで言う炎狼に飛翔がさらりと肯定した。 「...いいのか?」 「一から考えるのは案外時間が掛かるし、これ2期前のものだからウチではとっくに廃棄済み」 飛翔の言うことは分かるが、何となく釈然としない表情を浮かべて炎狼は「あ、そ」と返して離れた。 「相変わらずね、飛翔」 元々コードとかそういうのを考えたことがない沙羅は彼らの話に入っていない。「こうしたらいいんじゃない?」というアドバイスが出来ないのだからせめて邪魔しないようにと席を外しているのだ。 「まーな。兄貴も飛翔のああいうところは直した方がいいと思うんだけどなーって前に零してたよ。合理主義ってのを否定するつもりはないけど、前面肯定も出来ないよな」 炎狼は苦笑しながら沙羅の言葉に頷いた。 |
桜風
08.9.21
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