戦の章 第3話





翌朝、いつものように炎狼が大地を命がけで起こし、朝食をとって出発の準備に掛かる。

ちなみに、炎狼が大地を起こしている間は、皆我関せずを貫いた。

「氷、明日以降の大地を起こすのは任せたからな」

清々した、という表情を浮かべて炎狼が言う。

そういえば、そんな役割もあったかと氷が少しうんざりしていると

「ああ、野営のときは結構寝起きは良いから安心してくれ」

と大地が言う。

「今日は!?今、さっきまでのお前は何だ!!」

炎狼が叫ぶと

「まあ、お約束って必要だろう?オレが大人しく起きたら炎狼も物足りないんじゃないかって思って」

「余計な心遣い、どうも」

大地の返答に心底疲れきった表情を浮かべて炎狼は投げやりに返した。

「じゃ、また後で」

そう言ってそれぞれチームに別れ、昨夜話したとおりに別れて移動するため、お互い背を向ける。

「待って」と霞の声で足を止めた。

霞は自身の首に掛けていたロザリオを取り出した。

「我ら神子。道は違えど再び巡り合わんことを神の加護の下に祈り奉る。虹の光が我らの頭上高く希望の架け橋を築き、時の流れが穏やかに永遠に続かんことを。天と地、光と影。全ての息吹に祈り、願う。我らに未来を」

俯いて額にロザリオを当てて彼女は言葉を口にした。

何かの祈りの言葉なのか。まじないなのか。

炎狼たちは静かにその言葉を最後まで聞いていた。

霞は顔を上げる。

「これ、昔の勇者が魔族との決戦前に口にした口上で、祈りだったの。遠い昔の話なんだけどね。戦いから戻って当時の勇者が手記に残してたみたい。帰ってきた人の言葉なんだから縁起がいいなって思って。ごめんね、足を停めさせて」

そう言って霞は再び自分の服の中にロザリオを隠す。

「へー、そうなんだ」と興味を示した雷がなにやら思いついた様子でイタズラっぽく笑う。

「思う存分ワインを飲むために!」

そう言って右手を前に出した。

最初に反応をしたのは炎狼だ。

「腹いっぱい肉を食うために!」

雷の手の上に自分の手を重ねた。

「ゆっくりとお風呂に入るために!」

沙羅も手を重ねる。

「読書と睡眠の時間を十分に確保するために」

飛翔も苦笑しながら手を重ねた。

「いつまで寝ていても文句を言われない日常のために」

大地が言う。でも、それは平和になっても訪れそうにないな、と心の中で自身で突っ込みを入れておいた。

「子供たちが自由に生活できる未来のために」

氷が言って手を重ねる。

「おまッ!自分ひとりカッコイイぞ!」

炎狼が抗議の声を上げた。が、氷はそれを受けて笑うだけで訂正はしない。

「心置きなくスイーツを食べるために!」

最後に霞が手を重ねた。

「おれたちの自由と希望を見出せる未来のために!!」

炎狼がそう言って、それが合図となり、皆は重ねていた手を離した。

「欲望まみれだな」

大地が苦笑した。

「ま、ワタシたちらしくていいじゃない。かっこつけても、普段そんなことしてないんだからボロが出るよ」

「これくらいが丁度いいのよ、きっよ。でも、手記には残さない方がいいかも。いつか見る人の気が抜けるもの」

沙羅も笑いながら雷の言葉を肯定した。

「じゃ、今度こそ」

飛翔が言い、皆が頷く。

7人は2チームに別れ、そして最終決戦の地を目指す。

先ほどの少々ふざけた誓いのお陰で自分たちがどんな未来を目指しているのかが分かった。

呆れるくらい平和で穏やかな生活。

目標が定まると案外気も楽になるものだ。

飛翔は一度振り返ると丁度雷も振り返った。

目が合った彼はウィンクをしてヒラヒラと手を振る。

飛翔も軽く手を挙げてそれに応えた。

意外と、その場の空気を読んで和ませるのは雷だったな。

今更思い出したようにそんなことを考えていた。









桜風
08.10.5


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