戦の章 第5話





時の国の首都を出て4日経った。

悠が言うには、時空の流れがねじれてきているらしい。魔力も強くなってきているし、中心部に近づいた証拠だ。

「あ、」と悠が呟いて足を止める。

目を瞑り、口の中で何かを唱えているようだ。

炎狼たちも足を止めて彼女の様子を見守った。

暫くして悠は目を開ける。

「霞様、到着したようです」

「おれらよりも早かったな」

「ええ。ですが、我々もそろそろ着くと思います。これだけ日が高いんです、まだ時間はありますよ。あと、本拠地と思われる構造物は岩山を刳り貫いて造ったような城だそうです。おそらく、霞様たちは正面に出られたと仰っていました。これからどうするからは少し話し合ってみるそうです」

「入り口が正面しかないようだったら、私たちを持っていてくれるといいんだけど」

飛翔が言うと「伝えますか?」と悠が問い、

「いや、氷たちの判断に任せる。現場の状況が分からないからな」

飛翔は首を振った。

悠は頷き、また足を進める。


時空の流れが正常ではないことに気づいた悠は自分が先を行くといって先頭を歩いてくれている。

飛翔も時空の流れに違和感があるのは気づいた。

軍にいたころに体内時計の訓練はしていたし結構自信が有るのだが、昼の時間が何だか長く感じる。

悠に話すと彼女も頷いた。つまり、そういうことのようだ。

「悠、もう今日は動くのを辞めよう」

飛翔が言う。

悠は少し驚いた表情を浮かべた。

「何で?まだ日が高いわよ?」

沙羅が疲労を浮かべた表情で問う。まだ行けるだろう、と。

「ばーか。お前自分の顔見てみろ。たぶん、普通だったらもう夜中だぞ」

炎狼が呆れたように言った。

周囲の明るさだけで時間を考えていた沙羅はきょとんとした。

夜中と言うが、まだまだ明るい。

この鬱蒼とした森の中でこれだけの明かりがあるのだ。夜中と言われても納得はいかない。

なおも言い募ろうとしたが、「疲れてない?」と飛翔に問われ、「疲れた、よ」と認める。

「じゃあ、疲れたから休憩にしよう。少し長めに」

飛翔がそういう。

食事もそこそこに済ませて見張りの順番を決め、休息に入った。


炎狼が見張りに立っていると霧が立ち込めてきた。

やがて瞼が重くなる寝てはいけないと頭の中で警鐘が鳴ったがそれに抗えなかった。

暫くして何やら気配がする。目を開けると見たこと無いものがこちらに近づいてきた。

体の大きさは氷と同じくらい。

だが、雰囲気が彼のそれとは違い、荒々しい。

炎狼は懐に入れている護身刀に手を伸ばそうとしたが、体が動かない。

「やあ、炎の勇者殿」

ニヤリ、と目の前で自分を見下ろす男が言った。

「誰..だ」

「おやぁ?やはり勇者ともなると意外と力は強いんだね」と馬鹿にしたようなからかった口調で言う。

「私の名前は、君には教えない。でも、能力は教えてあげよう」

男が話している間、炎狼は飛翔の方の気配を探った。

飛翔は眠りが浅い。だから、こういうときは真っ先に起きるし、反応するだろう。

なのに、静か過ぎる気がする。様子を伺っているのかもしれない...

「私の能力は、何か1つの属性の能力の封印とそれ以外の属性を現状から変えないこと。つまり、私は君の炎の属性を封印。動けないだろう?そして、他の属性の仲間たちはほら、先ほどの状態を維持して寝ている。つまりは、これが私の能力だ。見張りが役に立っていないのが本当に情けないね。と、いってもあの霧に抗える人間はいないだろうけどな」

勝ち誇ったように朗々と言葉を口にする。

「つまり、炎の力を持ってるのは、起こしたんだな?」

「そう言ったね?」

「じゃあ、他の属性が実は起きていたら、動けるのか?」

「いやぁ、本当に勇者と言うのは凄いね。一応敬意を払ってあげよう。あの霧を吸ってここまで話が出来るなんて。そして、君の疑問に答えてあげよう。私は炎しか起こさなかったからね。他の属性があの霧に抗って起きていられるはずがな...」

男の言葉は最後まで続かなかった。眉間に炎狼の持っている護身刀に似たそれが突き刺さっていた。

「炎の目を覚まさせて、その動きを封じる。素晴らしく穴だらけの能力だな」

飛翔は余裕の笑みを浮かべていた。

「な..ぜ...」

男の体は灰のようにさらさらと消えていく。

魔族は死んだら人のように体が残らない。以前風真が言っていたことを思い出す。なるほど、とこの目で見て納得した。

「奇妙だな」と炎狼が呟き、それを受けて飛翔が視線を向ける。

「お前の事、あっちに伝わっていなかったってことだよな」

飛翔は頷いた。

飛翔は風属性だが、炎も持っている。今まで闘った中でそれは知られていたはずだ。

それなのに...

「久遠様、かな?」

「だろうね。兄様たちがあの城に詰めていたってことは、兄様たちはあの城が拠点となっていたはずだ。だから、兄様たちから受けた報告は久遠様が魔族側に流すようになっていたんじゃないか?」

国自体を人質として取っていたため、彼らは久遠の造反を疑わなかったのだろう。

久遠の覚悟に頭が下がる。

少し沈黙していたが、

「炎狼、寝ろ。悠を起こすのはかわいそうだ。さっき寝たし、私が起きておこう」

飛翔の言葉に炎狼は頷いた。あの霧の影響なのか。実はかなり眠い。

「見張りの順番入替えってことで。悪いな」

「ああ、構わない」

「あいつら、大丈夫かな?」

地面に寝転んでポソリと呟いた。

「まあ、大丈夫だろう。みんなしっかりしている」

「飛翔みたいなイレギュラーなの、いないぜ?」

「それでも、どうにかしてもらわないと。7人揃うことにきっと意味があるのだろうから」

飛翔の言葉に「そうだな」と返して炎狼は静かに寝息を立て始めた。









桜風
08.11.2


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