戦の章 第6話





悠と通信を終えた霞は氷を見上げた。

「向こうは?」

「何も。こちらの報告をしたらそのまま終わったわ」

霞の言葉を聞いて氷は腕組みをした。

「待つか?あっちだってそんなにのんびり進んでもないだろう」

大地が言う。

「入り口が此処だけなら確かに待っておくのも手だが...どう思う?」

「まあ、一箇所じゃないだろうな。これだけの構造物だ。此処だけに出入り口を限定するのはありえない選択だ」

氷も同じことを思っていたらしく、大地の言葉に頷いた。

「じゃあ、一応周辺探ってみない?他の入り口が何処にあるか、とか」

雷がそう提案した。

「いや、それはやめたほうがいいだろうな」と大地が首を振る。

「なぜかしら?」

霞も雷の意見に賛成だったようで理由をたずねる。

「俺たちがこの周辺をウロウロして魔族をおびき出すことになってみろ。飛翔たちが大変だ。さっき俺たちもここに来るまでに通っていたから分かると思うが、視界が悪いからな。地形的にはここら辺にずっといた魔族のほうが有利だ」

「そっか」と雷が納得した。

「それに、お前らさ。竜、呼び出せそうか?」

大地が聞く。

「へ?」と声を漏らして雷が目を瞑った。暫くして「だめっぽいわ」と溜息交じりに言う。

「もう呼べないのかな?」

少しだけ不安そうに雷が呟いた。

「いや、たぶん...時の城と同じだろう」

大地の言葉に霞が首を傾げた。

「ほら、魔力の増幅器があっただろう?」

頷く霞に

「此処は元々霞の、時の国の領土だ。時の国は信仰心も篤くて神界に最も近い国って言われているんだろう?飛翔がそう言ってたし、オレたちもヴィーク様をこの目で見た」

「ええ。そう言われているし、実際そうだと思うわ」

霞の言葉に大地が頷き、続けた。

「だったら、本当なら魔族が一番力を発揮出来ない土地だろう?なのに、ここに本拠地を構えて人間を襲っている。力の弱い魔族が攻めてきても此処まで人間もてこずらない。撤退していった魔族がまた別の国を襲うときには力が戻っている。だったら、何処かでそれを回復させているはずだ。その『何処か』が此処なら、魔族の力を増幅させる何かがあるはずだろう?」

「うわぁ...大地が飛翔みたい」

雷の言葉に大地は半眼になって彼を見る。

「オレも一応地元に帰ったら隊長なんだよ」

拗ねたように言う大地に氷が苦笑した。

「まあ、いつもこんなことを口にするのは飛翔だったからな。それで、提案する行動は2つかな」

氷は一度言葉を区切り右手の人差し指を立てる。

「まずは、ここで飛翔たちの到着を待つ。これは無駄に終わる可能性が高い。さっき話したとおり、ここの入り口は此処以外にもある可能性がある。だったら、飛翔たちはそこから中に入るということも考えられなくもない。飛翔が自分たちの位置や状況をさっき話さなかったということはあまり連絡をするのが好ましいと思わなかったんだろうから連絡は最低限にするだろう」

「こっちから待つって連絡を入れたら?」

雷が言うと

「まあ、それも手だな。だが、こちらの動きが向こうに筒抜けになる可能性がある。慎重を期しているのにそれはどうかと思うな、オレは」

大地が代わりに答え、氷も頷いて続ける。

「そして、もうひとつの提案はこのままこの建物の中に入って増幅器を探し出してそれを破壊しておく。そうすればこちらに多少有利な状況が作れるだろうな。人数が少ないからこういう工作活動には向いているし。もちろん、こちらのほうが危険が高い。少人数で敵の本拠地に突撃だからな」

「でも、例えば、2つ目を選んだとして。増幅器の位置は?だったらチームを多く作れるように飛翔たちを待っていたほうが良くない?」

雷の言葉に大地が霞を見る。

「2つ目の作戦にした場合、増幅器の位置は探り当てられるか?」

魔力の増幅器となるものなら、それ自体独特な魔力を発している可能性が高い。時の国に着いて空気がおかしいと皆は感じていた。その原因はもしかしたら増幅器も関係していたのではないか。あの大きさで魔力をあれだけ街中にも充満させる力のあったそれなのだから、魔力に敏感な霞が気づけないか。そう思って大地は霞に問う。

「たぶん、増幅器は生きている魔力とは質が違うと思うけど...城にあったものにはそんなに強い力を感じなかったから何ともいえないわ。あれくらいのだったらこれだけの魔力の漂っている空気の中で見つけ出すのは至難の業ってところかしら」

どうする、という視線を氷に向けた。

「小数に分けたのは動きやすくするためだし、少し進んでみよう。ここには、書置きをしておいて。ただ、そうだな...半日くらいは待っても良いと思うがどうする?」

そう言いながら傍に置いている木の枝を拾ってその先に鋭利な氷をつけた。

これで入り口に文字を彫る、もしくは自分の作った氷の塊に文字を刻み付けて置いておくのも手だといった。

「まあ、確かに少しくらい待ってもいいかもな。オレたちも少し体を休めた方がいいだろうし。その場合は此処からの見通しの悪いところに戻ることになるけどな。とりあえず、残すメッセージはお前ら3人で話し合って古代文字にしろよ」

大地がそういう。

「大地、書けないの?」

「あのなー。古代文字って別名王族文字だぞ?元々文字なんてものは下々が使えなくて、だから、簡単で普及したものが今残っているんだろうが。でも、使わなくなっても王族は守って学んでるんだろ。オレは王族じゃないんだから知らなくて当然だろうが」

「でも、書けるだろう?」

そういう大地に氷が声を掛ける。

「まあ、一応...」

「王族文字なのに?」

「...ウチの国は遺跡が多かっただろう?古代文字の解読が出来なかったら皆罠に嵌り放題だぞ」

だから、それを回避する必要に迫られて身につけたのだという。不服そうな表情を浮かべる大地に霞は首を傾げて氷を見上げた。

「あまり王族にいい思いを抱いていないらしいからな。王族にまつわる何かってのを出来るのが嫌なんだろう」

「何故、王族が嫌いなの?」

「まあ..それぞれの国で色々と問題を抱えているだろう?地の国の抱えている問題のひとつが関係しているってことかな」

言いにくそうに氷が言った。

人の国の悪口は言いたくないし、部外者である自分が言うべきではない。

氷の表情を見て「そっか」と霞は納得した。

「じゃあ、ワタシが書くね。...飛翔、ウチのも大丈夫だよね?」

「文法が違うかもしれないが、それでも単語で何とか解読してくれるだろう。沙羅のところが大丈夫だったんだし」

「逆に風の古代文字、誰かかけない?」

不安そうに言う雷に3人は首を振り、すぐに霞が目を瞑る。

どうしたのだろう、と氷たちは彼女に声を掛けるべきか少し考えていると

「涼が書けるらしいのだけれど。どうする?」

涼、と言われて少し考えたが先日城の上空で見かけた霞のディースの一人だと思い出す。

「でも、ディースを呼び出したらこちらの位置を魔族に知られないか?」

「その可能性は大きいわね。こちらの世界に居てもやっぱり呼び出すのに神気が漏れると思うし」

と霞は頷いた。

「今、この人数ではなるべく危ない橋は渡りたくない。飛翔の知識量に賭けよう。それに、あいつらもここに着いたら流石に連絡をしてくるだろう。そのときメッセージが解読できなかったら聞いてくるだろうしな」

その言葉に頷いて氷の作った氷板に雷が文字を刻み始める。

『虹が霞んでしまったので、空を覆う雲を払ってきます。着いたら連絡してね!そうそう、水は風を全面的に信頼してるみたいだよ。全くね、火の立場ゼロだよ』

雷の国の古代文字であるため、氷たちには何が書いてあるかは全く分からない。

「これでよし」と言う雷に霞がその氷板を貸してと言って手を伸ばしてきた。

「向こうに悟られないくらいの微量な思念を残しておこうと思って。もしかしたら悠が気づいてくれるかもしれない」

確かに、入り口が同じだったらすれ違う可能性は高くなる。

「霞と悠ちゃんの絆に期待だね」

雷はそう言って近くの茂みに氷板を隠しに向かった。


半日待ってみたが、どうやら飛翔たちはまだ到着しないようだ。

「じゃあ、出発するか」

氷の言葉に頷き、建物の中へと向かった。









桜風
08.11.16


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