戦の章 第7話
| 数時間前に魔族の襲撃を受けた話は沙羅と悠に話しておいた。 隠す方が危険だ。 「飛翔が居たから、助かったってことかしら?」 少し蒼褪めながら沙羅が呟いた。 「つまり、私たちは運がいいってことだよ」 飛翔は頷いた。 「そろそろです」 悠が声を掛けてきた。暫く歩くと開けたところに出る。 森を出る前に周囲を警戒し、とりあえず偵察等には慣れていると飛翔が言い出して茂みから出て行った。 「大丈夫かな?」 「大丈夫だって。ただ、これだけでかけりゃあいつらと同じ入り口に出たって事はなさそうだな」 炎狼が呟き、それは何となく想像できた沙羅も頷いた。 暫くして戻ってきた飛翔が「見張りは大丈夫そうだ。気をつければ見つからずに移動できるし、見つかっても私と炎狼で何とか沈められるだろう」と言って自分の見つけた入り口に皆を案内しようとした。 「待てください」と悠がそれを止める。 「どうした?」と炎狼が問うと、「霞様の気配があります」と答えた。 飛翔と炎狼は顔を見合わせる。 「待ってるのか?」と覗うように呟く炎狼に「どうだろう」と飛翔は返した。 「霞の気配ってどんな感じ?」 「思念を何かに込められて先に行かれたのかもしれません。霞様がいらっしゃったらもっと強く感じるはずです」 「どうする?」 炎狼が飛翔に聞き、飛翔は少し考えていたが「行こうよ」と沙羅が提案した。 「悠と霞って、言い方は正しくないと思うけど召喚獣と召喚士の関係と似てるんでしょ?前にそんな話したけど」 沙羅の言葉に躊躇いがちに頷いた。 本当は正しく言えば違うが、全く見当違いの話でもない。自分だってそう話をした。 召喚獣は、術士に従わされているというのが通説だが、自分たちディースは従わされているのではなく、力になりたくて傍に居るのだ。魂に惹かれているだけだ。 それに召喚獣は術士の力が必要だが、自分たちは霞の力を借りてこちらに滞在しているわけではない。勿論、こちらに留まる以前に霞に呼び出されなければこちらに来れないという制約はある。 「じゃあ、さ。悠と霞の間にはもの凄く強い絆があるってことなのよ。それこそ、目に見えない。誰にも計ることができない絆」 つまり、沙羅はその絆を根拠に悠が感じているそこに行けば霞たちが何らかのサインを残しているといいたいのだ。 炎狼は「どうする?」と言った表情を飛翔に向けた。 飛翔は肩を竦めて「じゃあ、悠。案内してくれるか」と言って沙羅の提案に乗った。 暫く歩いていくとまた別の入り口が見えてきた。 「あれか?」 「たぶん」 入り口の前に立ってみたが、そこには何もなかった。 メッセージを残してくれているはずなのに。 しかし、ここにメッセージがないということは氷たちは別の入り口から入っていったのか? そんな事を思いながら周囲を警戒する。霞の思念に似た何かをこちらに置いて自分たちをおびき寄せているのかもしれない。用心して損することはない。ここは敵の本拠地なのだから。 周囲を少し不安そうに見渡していた悠が茂みに向かっていった。 「悠?」 飛翔が近づくと「ありました」と嬉しそうに氷板を掲げた。 炎狼と沙羅も悠の元へと足を向ける。 とりあえず、茂みに隠れてメッセージを読もうとした飛翔が深く溜息をついた。 「何だ?...って、読めるのか?」 「あらら。古代文字よね、これって。どこのかしら?」 氷板を覗き込んで炎狼と沙羅がそれぞれ声を掛ける。 「さあ、な。でも読めってことだろう、私に。悠、一応氷たちが使ったと思われる入り口に着いたって連絡を入れてくれるか」 飛翔に言われて悠は一度頷き、霞と交信しようと試みる。 「...『虹』と『霞』..いや、動詞か。『霞む』あとは...『雲を拭う』?虹が霞んでいるから、雲を拭..『払う』か?あとは、『通信』..『水』、『風』...『火』?」 とりあえず分かる単語を抜き出してみた。 きっと直接的な表現は避けているだろう。 水は氷のことで風はきっと自分だ。火は炎狼。水が空を信じて火は残念だということか?ああ、じゃあこれは本文ではなくて何か余分な言葉だな、とあたりをつけた。 虹、というのはどの国でも七勇を表す言葉として使われている。だから、ここでも七勇を示しているはずだ。 そして、それが霞んでいるからそれを邪魔している雲を払うとかそういう意味だろうか。 そこまで考えてふと気がついた。 (ハヤテ...ハヤテ?) 心の中で名を呼んでみる。 彼はいつでも飛翔の言葉に応えていた。が、今は全く反応がない。 「そういうこと、か」 虹が霞んでいるということは、自分たちの力が抑えられているということだ。時の城のように魔力の増幅器か何かで魔族が自分たちの力を強くしているのだろう。此処は間違いなく人間の世界で、しかも神界に最も近いといわれている国だ。彼らの力を発揮するには不向きな土地柄である。 だったら、それを押さえられる大きな力が必要になるはずだ。どんなに上位魔族がバックに控えていてもそれは必要になるはずだ。 「霞様と連絡がつきました」と悠に声をかけられた。 「じゃあ、今何処に居るか聞いてほしい」 飛翔の言葉に頷きかけて悠は飛翔をじっと見る。 「どうかした?」 「ダメで元々なのですが。わたしの背中に手を当てて霞様にお伝えしたいことを念じてみてください」 飛翔は首を傾げながら言われたとおりに悠の背に手を当てた。 「霞?」 『飛翔?!』 自分の脳に直接言葉が響く。ハヤテと話している時のような不思議な感覚だ。 驚いて悠を見ると彼女は振り返って「続けてください」と言った。 「今、何処に居る?どれくらい進んだ?」 『凄い、飛翔って意外と私と波長が合うようね。ああ、でも不思議なことでもないか。えーと、今この建物の中に入って2時間くらいかしら』 そう言って自分たちが通ってきた道順を飛翔に伝える。 頭の中で地図を描きながら霞の案内を聞き、 「何処か、その近くに留まれそうなところはないか。道が分かっているからそんなに時間をかけずに追いつけると思う」 と霞に問うた。 暫くして 『わかったわ。氷もそうしたほうがいいだろうって。落ち着けそうな場所を見つけたらまた連絡をするから』 「あと、先ほどといってもたぶんかなり前だが...」と言って先ほど魔族に襲われた話も伝えた。知らないよりも知っておいた方がいい情報だろう。 『分かったわ。皆にも伝えておく』 そう言って霞との交信が途絶えた。 「悠?」 「わたしにも霞様の言葉は聞こえていましたから」 「なになに?どういうこと??」 沙羅が少し興味を示して聞いてくる。 「飛翔様は天の属性ですから、もしかして霞様との交信が可能ではないかと思ったんです」 「天の属性?風だろう?まあ、炎もあるけど」 「飛翔様は、風です。炎は付属的なものです。ああ、これはわたしが申し上げる必要は有りませんでしたよね。7つの属性は天と地のどちらかに分類されます。雷・風・時は天の属性で、炎・地・森・水は地の属性となっています」 確か、自分たちがエデンと呼ばれる地に召喚されたとき、天の大神と地の女神というのに会った。 じゃあ、それが自分たちの神の上司ということになるのか。 そう思った炎狼が口に出すと躊躇いがちに悠が頷いた。何か、あまりにも身近なもののように言われると違和感がある。 それこそ、あの2人は神の最高位なのだからもっと畏怖の念というものを向けたほうがいいのではないだろうか... 「じゃあ、わたしと霞が交信ってのは難しいの?」 「おそらく。勿論その方のもともとの気質もあります。人に合わせるのが得意とか、そういうのも」 「...沙羅ってそういうの苦手だろう?一応、姫さんだしな」 からかい口調の炎狼に「うるさいなー」と沙羅は拗ねた。 これでも柔軟な方だと思っていたが、今回の各国の旅を経て甘ったれなのは否定できない事実として自覚した。 「それはともかく」と話を変えて飛翔は先ほど霞と交信した内容を炎狼と沙羅に伝える。 「んじゃ、早く合流しようぜ」 炎狼の言葉に頷き、飛翔はこの氷板をどうしようかと悩んだ結果、茂みの中に埋めた。 造りとしては、以前飛翔の父と兄の入った棺を凍らせてくれたその氷と同じだろう。だったら、氷の意思に依らないと溶けることがないといっていた。 持ち歩くにしても荷物になるし、だからと言って放置していたら自分たちの行動の目的がばれてしまう可能性があるためそれは避けたほうがいい。氷のことだから、もう溶かすようにしているかもしれないが、どれくらい時間がかかるかわからないから一応埋めておく。 「飛翔!早くしろって」 既に入り口まで移動した炎狼が呼び、「ああ、わかってる」と返しながら入り口へと向かった。 |
桜風
08.12.7
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