戦の章 第8話





飛翔との更新を終えた霞の様子を確認して足を進める。

「あまり進まない方がいいよね」

雷が呟くと

「そうだなー。とりあえず手近な部屋にでも入ってみるか?」

大地がそう言って近くの扉を開けた。

「やあ、いらっしゃい」

ニィと嗤った仮面をした者が立っていた。

「歓迎されてるな」

この状況を揶揄するように呟きながら大地は構える。

エンブレムに手を当ててみたが、どうもそれすら難しそうだ。

だったら、自分の持っている能力はどうだ...

手ごたえが無きにしも非ずだが、自分の能力はこういった屋内には向かない。

霞を見れば彼女は頷く。

雷は首をかすかに振った。彼の能力も屋内向きではない。

「君たちの力は封じた。と、言っても。それは君たちはもう気づいているよね」

クスクスと笑いながらそいつは言う。

氷は静かに移動して雷の背後に立った。

「霞、あれは本体か?」

辛うじて拾える声の大きさで氷が問う。

霞は相手を観察して頷いた。

「雷、これでいけるか」

そう言う氷に反応して雷が静かに利き手を背後に回した。

「それで、お前はもう勝ったつもりでいるのか?」

大地が相手と会話を続けている。

なるべく自分に気を向けるためだろう。氷が何を仕掛けようとしているのか彼の能力を考えれば想像くらいつく。

「ああ、勝ちだよ。何せ、ここは我々のフィールドだ。人間界なんて所詮、神界が自分の領土だと主張しているに過ぎない。人間なんてものは我々の食餌だ」

「それでも、この国で活動するにはお前たちには辛いだろう?何せ、神界に最も近い国だ」

「神界そのものではないからそうでもない。まあ、力の弱い者たちには辛いようだからな。あの方もザコをこんなに連れてくる必要などなかったのに...」

「お前は、自分がザコじゃないと言いたいようだな」

挑発するように大地が笑った。

「そうだよ。当然だろう。私がザコだなんて言わせない」

「んじゃ、お手合わせ願いますか」

そう言って大地が床を蹴った。

まっすぐ魔族に向かって突っ込む。

拳を振るが、当てられない。相手も中々スピードがある種のようだ。

それでも、流れるように繰り出す拳と蹴りは相手に反撃の隙を与えていないように見えた。

「これはこれは...」

余裕のある声音で魔族は大地の拳を受けて弾く。

完璧遊ばれているのは大地だ。自分の体術が此処まで軽んじられるのは初めての事で同時に屈辱にも似た感じを受けていた。

「大地、バック!」

雷の良く通る声が耳に届き、踏み込むために出した足を下げてバックステップを踏んだ。

自分の横を風が通り抜け、自分が相手をしていた魔族が膝をついている。

その目の前には雷が立ち、そのまま氷で出来た刃を振り下ろした。

「私に剣は効かないよ」

言葉通りに傷ひとつついていない。

が、先ほど膝を突いたということは打撃は効くということだ。

しかし、大地に比べて体格の小さい雷の打撃は軽くいなされる。最初の一撃はスピードに乗せてのそれだったため、衝撃を与えることが出来たのだ。

それが分かっているはずであるのに、雷は氷の剣による打撃を諦めない。

「おやおや。先ほどの大男はスピードがなく、こちらの優男はスピードだけですか。脆弱な人間とは、やはりこの程度なのですね」

「霞!」

部屋の隅に魔族を追いつめた雷が声を上げ、霞が氷を魔族の目の前に時空移動させた。

氷が魔族の体に手を押し付ける。

「今度は優男の大男ですか?バラエティに富んでいますねぇ。いやはや、まったく役に立ちもしないバラエティだけが」

そう余裕を窺わせる声で言っていたがすぐに短い悲鳴を漏らす。

「な、何..を...」

やがてその体は枯れていく。

氷は、魔族の体に含まれている水分を外に取り出していたのだ。

逃げようとしたが、それは既に氷がその足元を凍らせていたので叶わない。

「生物と言うのは、やはり水分なくては生きられないからな。こうやって人に似た形を保っているということは、そういうことだろう?」

静かにそういう氷に、嗤っている仮面の向こうから恐怖に震える声が漏れてくる。

「じゃあな」

氷が呟くとその魔族は砂のようになって崩れた。

「これって、体中の水分を奪ったから砂になっちゃったの?」

雷が目を眇めて氷に問うが、

「いや、だとしても骨は残るだろうな。これが魔族の死に方なんだろう。それ、気体に戻すぞ」

氷がそう言って雷が手に持っている氷の剣は消えた。

「あー...オレ、すげーショック」

項垂れて大地がそう言った。

今の戦闘で自分の打撃を流されていたのが相当悔しかったようだ。

「まあ、相性と言うのもあるからな」

「それで言ったら、さっきのはオレと相性がいいはずだろうが。剣が使えないってのなら、炎狼はダメだろうし...飛翔だって、狙撃だから向かないだろう。沙羅は..召喚ができるのか?」

「拗ねない拗ねない。とりあえず、皆で力を合わせて倒せたんだし。結果オーライだよ」

大地の肩を軽くぽんと叩きながら雷は笑ってそう言った。

「霞、飛翔たちに連絡を入れてくれ。此処で待機しよう」

氷の言葉に霞みは頷き、悠に連絡を入れた。


悠を介して氷たちの居場所を知った飛翔たちはそこへと急いだ。

廊下の各部屋の前に立っている柱には矢印が書いてある。さらにそれに沿うように古代文字だ。今度は何処のものなのだろうか、と思いつつも添えてある単語と矢印に相違がないことを確認してそのまま足を進めた。

「あれさ、なんて書いてあんの?」

駆けながら炎狼が聞いてきた。

「今のところ、矢印どおりだよ。『まっすぐ』とか、『右へ』とか」

「じゃあ、矢印と文字が違っていたら注意しなきゃいけないってこと?」

「たぶん、そうしたほうがいいだろうな」

飛翔の答えに沙羅は感心した。

「ホントに、飛翔居なかったら大変だったね」

「だったら別の方法を考えていただろう。こういうのは1つしか方法がないわけはないからな」

飛翔が答え、やっと矢印のない柱に行き当たった。

この部屋が待ち合わせ場所の部屋なのだろう。

「悠。今部屋の前に着いたと連絡をしてくれ」

部屋のドアをノックする前に飛翔がそう声を掛け、悠は頷いた。









桜風
08.12.21


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