戦の章 第9話





「飛翔たち、今部屋の前にいるって」

霞に言われて氷が立ち上がった。

ドアから少し距離を取った場所に留まり、ノックが聞こえる。

「開いている」

ドアの向こうに届く大きさの声でそう言った。

ドアがゆっくり開き、懐かしい顔ぶれが揃う。

「悠、あの霞は本物?」

「え?あ、はい。あの方は、間違いなく霞様です」

「霞、悠は本物か?」

「え?ええ、そうよ。あの子は間違いなくわたくしのディース、悠よ」

飛翔が悠にそう確認するのと同時に、大地が霞に確認した。小さく振り返った氷に大地が頷く。

「よー、久しぶりだな!ちょっとしか経ってないはずなのにすげー懐かしいんだけど!!」

そう言って嬉しそうに炎狼が一歩踏み出した。

「待て」と飛翔が止める。

「何だよー!」

炎狼が抗議の声を上げるが、飛翔は炎狼を押し留めて自分が炎狼よりも前に出た。

「大地」と飛翔が声をかけた。

「...なんだ?」

「この部屋で戦闘があったのか?」

その言葉に氷たちが構える。それは伝えていない情報だ。

「どうしてそれを?」

「そこの砂」と言って飛翔が指差す。

「魔族が砕けたときの砂だろう。それは特徴がある」

なるほど、と皆は納得した。飛翔たちも先に魔族と戦闘、というか魔族の襲撃を受けて撃退している。これは自分たちが受けた情報だ。

「ああ、さっきな。この部屋に入ったら歓迎されたよ」

肩を竦めてそういう大地に飛翔は苦笑しながら「それは、災難だったな」と返した。

「ねえ、飛翔。どうして動かないの?」

沙羅が遠慮がちにそう聞いてきた。

「俺たちを疑っているんだろう?」

氷が苦笑しながらそう応える。

「え!?どういうこと!!??」

責めるようにそういう沙羅に困ったような表情を浮かべた。

「霞が本物でも、他の3人が本物と言う保証はないからな。途中でこちらに気づかれないように入れ替わっている可能性も無きにしも非ずと思って」

飛翔の言葉に沙羅が膨れた。仲間を疑うとは何事だ、といいたいのだろう。

「だったら、本人しか知らない..じゃダメだな。おれたち、全部の国で色々見てきた何かをクイズで出せばいいだろう?そうだなー」

そういう炎狼を飛翔は止めなかった。

面倒くさいのか、それがいいと判じたのかは分からないが...

「じゃあー...氷のピアスの本当の色は!?」

「透明だ」と氷は言って自分のそれを外す。

氷の手に乗ったそれは、間違いなく水晶のように透明な石になっていた。

「よーし、氷は本物。この石って血に反応するんだろう?だったら複製は無理だし、その情報はトップシークレットだろうからまず真似るって無理だろう?せいぜい紅いのを着けてるくらいじゃないのか?」

炎狼の言葉に飛翔は頷いた。

「えーと、じゃあ。んーと、大地は...」と炎狼が悩んでいたが「大地はいい。本人だ」と飛翔が止めた。

「いつの間にテストされてたんだよ、オレは」

顔を顰めてそういう。知らないうちにそういうことをされるなんてあまり気分のいい話ではない。

「悪かった」

と飛翔は軽く手を挙げた。

大地は飛翔の軽い謝罪に少し眉を顰めた。

炎狼のあの飛翔に対してよく苦い表情を浮かべるその気持ちが良く分かった。何か、ちょっと釈然としないって言うか...

もやもやとした気持ちを抱えながらとりあえずは今の状況を見守るために言葉は飲んだ。

「じゃあ、雷か...」

「女装していたときのスリーサイズは?」

「「...は?」」

沙羅の提案に飛翔と炎狼の言葉が重なった。

「え、何だって?」

「女装していたときに、雷にわたしはスリーサイズ聞いたの。『スタイルいいわね』って話したら突然スリーサイズ言ってきて。びっくりしたけど...」

飛翔と炎狼が同時に雷を見た。

「え、や。...えー!雷ちゃん恥ずかしい!!」

懐かしい、女性を演じていたときの声で雷が頬に手を当ててしなる。

「スリーサイズって言ってもどうせ出鱈目だろう?良いから言え。というか性別を知っている今はそれをされると気持ち悪い」

大地に促されて雷はもったいぶりながらも3つの数字を口にする。

今のこの雷から聞いたら何だか引いてしまうな...

そんな事を思いながら正解を知っている沙羅に視線を向けた。

「正解!でも、実際近いでしょう?」

「まあねー」

そんな会話を続けている2人に肩を竦めて改めて2班が向き合った。

「そちらから、こちらへの確認は?」

「いや、いい。飛翔は本物だし、炎狼と沙羅も」

氷が苦笑してそう言った。

飛翔ならまず自分たちを簡単に信じないだろうし、飛翔が本物なら、炎狼も本物だろう。この2人の絆は案外深い。

そして、沙羅。

雷にスリーサイズを聞いてその正解を知っているということは、逆に彼女が今まで共に旅をしてきた仲間であることを証明したことになる。

「悪かったな、疑って」

「それぐらいが丁度良いだろう。こっちも本物かどうかどうやって見極めるかと考えていたところだったしな」

飛翔の言葉に氷が応じた。

「てか、オレはどうやって本物だと分かったんだよ」

「クセ、だよ」

「クセ?何だよ、それ」

眉間に皺を寄せてその『クセ』とは何かを問うたが「教えない。その方が良いんだよ」と飛翔は応える気がゼロだ。

大地はまたしても苦い顔をする。

「な?飛翔のこういうトコ、ムカつくだろう?」

同志を見つけた炎狼は嬉しそうに大地に声を掛けて、大地もそれには素直に頷いた。









桜風
09.1.4


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