終章 第1話





炎狼が目を開けると、その先には見知らぬ天井があった。

(どこだ、此処?)

そう思って体を動かそうとするが体が言うことを聞かない。

「無茶すんな」

ベッド脇から声を掛けられた。

視線だけをそちらに遣ると

「兄貴...」

空也が座っている。

酷く疲れた顔をしていた。

「おれは...」

「終わらせて帰ってきたんだ。ホムラだっけか?あの子がお前を連れて。今、人の姿になって人と同じ治療を受けてるけど、聖たちが言うには、神界に帰してやった方が治りが早いんじゃないかって。霞ちゃんはディースもあの子達の世界に帰してる」

「そか」と呟き、炎狼は天井を見る。

『終わらせて帰ってきた』

その言葉に安堵した。

これで、もう戦いで家族を奪われて泣く人が減る。

「霞以外の他の、やつらは?」

「飛翔と、雷以外帰ってきてる」

炎狼の目が驚愕で見開かれる。

「2人は、まだなのか?」

「ああ、まだ見てないな。この城の人たちはお前らが帰ってきたら俺に声を掛けてくれているから。その2人の報告だけ受けてない、な...でも、まあ。ホラ。スピード系の2人だろう?何とかしてるさ。しっかりしてるようだし」

そう言って空也は炎狼を安心させるように笑う。

それを聞いた炎狼は激痛に耐えながら体を起こそうとする。

「炎狼様!」

炎狼の意識が回復した知らせを受けて炎狼の部屋を訪ねた爛が慌てて部屋に入ってくる。

「やめろ、炎狼。傷口が開くぞ」

「寝ていてください。傷に障ります」

泣きながら爛がそう訴える。

「おれ、が...」

「いいから寝てろ!!」

空也が炎狼の体を抑えて横にする。

元々体に力の入らない炎狼は大して抵抗できずに再びベッドに横になった。

「おれのせいなんだよ。おれ、最後のとき、一番ダメージの受けそうなところに立ってたんだ。飛翔がその近くで。でも、寸前で誰かに足蹴にされた。蹴り飛ばされたんだ。こんなこと平気でするやつなんて飛翔以外いないだろ。おれが、ぼうっとしていたから。飛翔はおれをかばって...
だから、おれが探しに行かないと。飛翔はいつもおれをかばってくれてたんだ。口は悪いし、横柄だし。何考えてるか分かんないことが多いけど、でも、いつでもおれを国の跡継ぎとして気を配ってくれていた」

「飛翔はいつも言ってる。何があっても自分のことは自分のせいだ。それ以外、飛翔自身が認めない。それにな、いつもお袋が自慢してるんだ。『私は丈夫な子を4人も産んだ』って。例に漏れず、飛翔もその丈夫な子だよ」

そう言って苦笑する。

「でも!」

「お前の竜。ホムラと飛翔の竜、ハヤテだったか?は連絡取れないのか?」

「先ほどから試しているのですが、連絡が取れません」

いつの間にか部屋に居たホムラが答えた。

「...竜同士、連絡が取れるんだよな?取れなくなった原因として考えれることは?」

顎に手を当てて思案をしながら空也が問う。飛翔が思案するときと同じ仕草だ。

「主の死、もしくは、我々竜自身の死。そして、衰弱」

「ホムラは他の竜との連絡は?」

「可能でした。戻ってきている4体とは連絡がつきましたが、ヒカリともやはり連絡が取れません」

「ヒカリ、てのは雷の竜だな」

「だから、おれが!」

「お前は寝てろ!!」

空也に怒鳴られ、炎狼は押し黙った。

「...ホムラ。お前まだ飛べるのか?」

「何とか、私自身が飛ぶだけなら可能です」

「1日神界に戻ったとして。どれだけ回復できる?」

「ここに居る3倍くらいは」

「それで、また同じ質問をした場合は?」

「炎狼様を乗せて飛ぶことが可能になります」

空也の意図が分かっているらしく、ホムラはそう答えた。空也は苦笑する。

「お前、賢いな。と言うわけだ、炎狼。ホムラを神界に帰してやれ。明日の朝、出発しよう。大丈夫だって、ちゃんと連れて行ってやるよ。だって、ホラ。俺ってばステキな従兄の兄ちゃんだし」

そう言って空也が笑う。

炎狼は「『ステキ』って何だよ」と涙目になって笑う。

「まあ、出発する前にはちゃんと誘うし、それを約束する。だから、お前は1日しかないけど、ホムラを帰してやって、体力を回復させるのに専念して、休め。外のことは俺がちゃんとしてやるから」

炎狼は安心したように微笑んで頷き、ホムラを神界に帰した。

「空也お兄ちゃん!」

慌てた風に部屋に入ってきたのは、雷の属性の子だった。

「んー?また性懲りもなく来たのか...」

「うん、今度はちょっと多いよ」

「わかった。お前は休んでろ。俺が散らしてくる」

「え、でも...」

「大丈夫だって。寝ててもいいぞ〜」

そう言って少年の頭をくしゃりと撫でて、空也が部屋から出て行った。

「あの、炎狼様。私も空也さんのお手伝いをしに参ります。空也さん、殆ど休まれずに私たちの心配ばかりされてるので...」

そう言って爛が部屋を後にした。

残った雷の少年は、「あの、お兄ちゃん。ありがとう」と炎狼に礼を言って部屋を出て行った。


「空は俺に任せろ」

そう軍に言って空也は空に上がる。

高位魔族を封じたとは言え、彼に連れてこられていた下位魔族は殆ど魔界に帰らずにこの国に残っていた。

いや、帰れなくなったのかもしれない。

そう思っても、この国に害をなす彼らを許すわけにはいかない。

風を操り、カマイタチを起こす。

殆どの空の魔族はこれで落ち、そして、それ以外は引いていく。

引いた先には、元拠点があり、きっとそこに飛翔たちはまだ残っている。

いつものように退散していく魔族を見送りながら、空也は空の向こうを眺める。

まだ、間にあうのだろうか...








桜風
09.6.7


ブラウザバックでお戻りください