終章 第2話





「あら、起こしてしまいましたか?」

「俺、寝てた?」

椅子に腰掛けていた空也は見上げて久遠に問う。どうやら毛布を掛けてくれたようだ。

「そのように見受けられました」

微笑む久遠に空也はガリガリと頭を掻く。

「そか。あ、明日」

「飛翔さんたちを探しに行かれるのでしょう?霞から伺いました」

「あれ?俺は炎狼にしか言ってないんだけどな...」

「でも、他の方。大地さんや氷さんもそのつもりでいらっしゃるようで、竜を帰されているみたいですよ。勿論、沙羅さんも」

「オイオイ...」

眉間に皺を寄せて空也が呟く。

「皆さん、飛翔さんたち、仲間のことが心配なんですよ」

「そりゃ分かるけど...止めても付いてくるんだろうな」

「私も、そう思いますよ?」

苦笑する久遠の返答に「やっぱ、そうだよな」と溜息を吐く。

「じゃあ。久遠さん。明日俺居ないから」

「大丈夫です。わが国の軍だってやるもんですよ」

そう言って笑う。

「ああ、そうだな。優秀な指揮官が何人も居るしな」

「では、もう少しお休みになられたら...」

「いや、うん。起きとく。俺、寝ないんじゃなくて、寝れないだけだから」

「何かこの城に、不都合がありましたか?」

不安そうにそう言う久遠に空也は静かに頭を振る。そして、

「飛翔は、国に帰さないと」

空也が、そう呟く。

「空也さんも国に帰られないといけないのではないのですか?お母様たちもご心配されているのでしょう?」

「いや、俺はその次だ。俺は飛翔から親父と兄貴を奪ったから」

空也のその言葉に久遠は瞠目する。

「そんな、どう、して...?」

「たしかに、俺は操られてた。でも、心の深いところまでは操られていなかった。だから、覚えてるんだ。親父の胸に刃を下ろしたそのときの感覚が、光景が。夢に、見るくらいに。ごめんな?必死に隠そうとしてくれてたの分かってたんだけど、でも、俺覚えてたんだ。体が、心が...」

そう言って頭を抱える。

「だから、飛翔からもう何も奪いたくないんだ。国も、家族も。そして、この先の未来も...」

空也の瞳からポタポタと雫が零れる。

ずっと胸に仕舞っていたその気持ち。妹に対する贖罪と、父と兄をその手に掛けた罪悪感。その中で空也は独り闘っていた。この国を守るため。そして、自分の犯した過去の罪と。

ふわり、と柔らかいものに包まれた。

「大丈夫です、空也さん。それを止められなかったのは私の罪です。貴方だけに背負わせるつもりはありません。空也さんは、何も悪くないのです」

空也の頬に暖かい雫が落ちてきた。

「ありがとう、時世さん」

自分を抱きしめている久遠の腕に触れ、空也はそう呟いた。

主人の気に異変を感じてやってきた聖と紫苑は、部屋の中を見た後、廊下で待機してその部屋を守っていた。


翌朝。

驚いたことに、炎狼はかなり回復し、遅いながらも歩けるようにまでなっていた。

「空也さん、俺たちも行きます」

既に炎狼の部屋に待機していた氷と大地、そして、沙羅が空也を見つめる。

「あのな。俺は自慢じゃないが、弱いぞ?飛翔が俺を連れて行かなかったのは足手纏いになるからだ。それに、飛翔みたいに機転が利かない。はっきり言って俺に策なんてものは無い。お前ら連れて行ってもフォローは出来ないぞ?炎狼ひとりなら何とかなると思って連れて行く約束したんだし」

「大丈夫です」

大地がそう言う。

もう何を言っても無駄だと思わせるくらい強い意思がこもった瞳で。

「...分かった。でも、お前らの竜は?」

「カハク」「リク」「リョク」「セツナ」

全員が自分の竜を呼ぶ。傷が治りきっていないとは言え、主人である氷たちよりは比べものにならないくらい回復している。

「主を乗せて飛べるのか?」

空也が問うと、

「主が望めば」

とカハクが答え、皆が頷く。

「お前ら、皆揃って強情だな...もう1回言うぞ。何が起こってもフォローしきれないからな」

再び、皆は強く頷いた。

空也は振り返り、久遠に向き直る。

「と言うわけで、これから出発します」

「ええ、こちらのことはご心配なく。私が結界を張っておきますから。と、言ってもあまり長持ちしませんけど」

「一応、軍の人たちには指示を出してますから。大した策もありませんが...」

「いいえ、私は空也さんがこの国をわが国の軍と共に守ってくださっていた姿を見ております。とても的確な指示でこちらの被害も少なく、感謝しておりますわ」

「...じゃあ、行ってきます」

そう言って空也は空に上がる。

皆もそれぞれの竜に乗って空に上がった。

「空也さん、時空の歪はもう消えています。そのまままっすぐ彼らの拠点に進まれても大丈夫です」

霞に言われて「分かった」、と手を上げて空也が少し前を行く。

迎え撃つ魔族を蹴散らしながらそのままわき目も振らずに目的地に向かった。









桜風
09.6.21


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