終章 第3話





「兄貴、ここらで降りよう」

炎狼に言われて空也はゆっくり降りる。

「此処が、最後の地でした」

「皆が何処に立っていたか覚えているか?」

空也に言われて皆は記憶を辿る。

「確か、俺はここらへんでした」

「あ、じゃあ、わたしはここで...」

ふと、霞が小さく反応する。

「どうした?」

偶然そんな霞を見た空也が声を掛けると。

「少し、神気があります」

そう言って足を動かす。ゆっくりと慎重に。

「...ここが、一番強く感じるわ。と、言っても微弱だけど」

そう言って瓦礫の散乱するあたりを見渡す。

大地の視界に光る何かが目に入った。

「雷...?」

瓦礫の隅間から金色の髪が見える。

長さと色から考えて、

「ヒカリ?!」

ホムラが声を掛ける。

「ちょっと下がってろ」

ホムラを下がらせ、大地が落ちてきていた大きな天井の欠片を持ち上げる。

「無理すんな」

と、言って空也が手伝い始めた。

大きな瓦礫をどけたその下には雷の姿も見える。

「ヒカリが守ってたんだ...」

沙羅が呟く。その隣でホムラも頷く。

瓦礫の下から雷を助け出し、胸に耳を当てる。

弱々しいながらも鼓動が聞こえた。

「すぐに城で手当てをしないと。セツナ、雷を城まで移動させて」

霞の指示に、セツナは頷いて雷を抱えて消えた。

城へ時空移動したのだろう。

「炎狼様。あの...」

「ああ、ヒカリをお前らの世界に連れて帰ってやれ」

炎狼の許可を貰ったホムラは一礼をし、ヒカリを抱えて消えた。

「あとは、飛翔か」

「外、じゃないのか?」

外壁を刳り貫いたようなあとがある。きっと最後の波動を受けた影響だろう。

魔族は退く寸前に大きな波動を迸らせた。もう当分こちらに来ることはできない高位魔族。そのプライドを傷つけた人の子を許せなかったのだろう。その波動はとても大きく、速く、避けることは殆ど不可能だった。

ただ、それでも波動の弱いところ強いところと言ったムラがあったため、その弱いところに居た彼らは何とかこうしてまた戻って来られるくらいの傷で済んだのだ。


穴から外へ出て少し歩くと大きな空色の塊があった。

「...ハヤテ!」

カハクは走り出した。

ハヤテの周りにはまだ下位魔族が群がっており、ハヤテに剣や槍を突き刺していた。

傷つけられるたびに小さく悲鳴のような声を上げていたハヤテは翼を広げて何かを抱えて守っているようだった。

射程距離まで近づくと、カハクは自身の武器である銃を撃ち始めた。

全て外すことなく、ハヤテの周りの魔族に当てていく。

ハヤテの周りの魔族が居なくなって皆が走り寄った。

「ハヤテ、大丈夫か?」

リョクが声を掛ける。

ハヤテの返事は無い。

「おい、ハヤテ!返事をしろ!!」

カハクが声を掛ける。

小さく、息を吸う音が聞こえる。

カハクもリョクも安堵の息を吐いた。

「か、ハク...」

「ああ、俺だ。お前、ずっと守ってたのか」

「飛翔様、が...」

「分かってる。助けに来たんだ。もう大丈夫だ」

空也が優しく声を掛けるとハヤテの瞳が空也に向く。

「ああ、そうか。空也さんか...なら、大丈夫だな」

そう言ってハヤテが倒れた。ハヤテが翼で囲っていた中からは傷だらけの飛翔が現れた。

「飛翔!」

皆が駆け寄る。

「飛翔?!」

「雷よりも酷いかも...わたくしが連れて帰るわ」

飛翔を抱えようとしたが、霞には持ち上げれない。

「私にお手伝いさせてください」

後方から声がした。

「涼!?」

「先ほど、セツナさんが戻ってきましたので。雷さんの容態を見てもしかしたら私も参った方が良いかと思い、独断で参りました」

ディース一の長身の涼だ。飛翔を持ち上げる。

「先に、戻っておきます。霞様」

「ええ、分かったわ。わたくしも先に戻っておきます」

そう言って2人は消えた。

「ちょっとよけて」

沙羅がカハクたちに声を掛ける。

ハヤテの傍にいたカハクと、リョク、リクが下がると、

「水の精霊、ウンディーネ!」

そう沙羅が言うと光る水がハヤテを包んだ。

しかし、以前見たときのような回復力は無い。

それどころか、沙羅もその場に崩れる。

「バカ!その状態で召喚するやつがあるか!!」

駆け寄ってきたリョクに叱られる。

「うん、でも。見てるだけなんて出来なかったの」

「バカだな、お前」

「放っておいて」

「カハク。ハヤテを連れて帰ってやれ」

氷にそう命じられた。

「俺が、ですか?...了解しました」

気まずそうにそう答え、カハクはハヤテの傍に行き、一緒に消えた。

「喧嘩するほど、仲がいいってね」

リクがそうからかうように呟いた。

それを聞いてリョクは吹き出す。

「で、問題です。竜がとことん居なくなりました。炎狼と、氷。俺の風で帰ってもいいんだけど、俺は飛翔みたく上手に他人を乗せれない。いいか?」

「ま、覚悟してるよ」

「お願いします」

空也は苦笑をして「覚悟しろよ?」と言いながら風を呼ぶ。

こちらに来る時の空也は風に乗っていても安定していたように見えたが、帰るときは不安定だった。

後で氷は飛翔に聞く。

「ああ、風に他人を乗せるのは難しいんだよ。能力者でもそれが出来ない人だって結構居るよ。その場で浮かせるならともかく空を移動するとなると、バランスが取りにくい。空也兄様?うん、あの人はそういう細かいのが苦手だから」

笑いながら答える飛翔を見て、もっと早く聞いておけばよかたっと少し後悔した瞬間だった。









桜風
09.7.5


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