終章 第5話





時間は遡る。

「悪いな、もう少し頑張ってもらいたい」

突然声を掛けられた。

ここがどこか分からない。自分が今どういう状況か分からない。

そして、この突然声を掛けてきた人物に心当たりが無い。

春の空の色の髪がふわふわと緩くウェーブしている。それを頭の高いところにひとつに結んでいた。目つきは悪く、眉の端や耳に多くピアスをつけていて鋭い眼をしていた。

「どちら様ですか?」

そう聞くと

「お前の、妹の上司だよ。俺のミスでこうなった。お前がここに来るのは予定されていなかった。だから、帰さないと。許可も下りたしな」

『妹』。

空色の髪をした、あまり笑わない顔を思い出す。笑ったら可愛いのに、自ら大変な道を選んだ妹は、たくさん自分を戒めていた。

あからさまに心配すると嫌がられるので、ひっそりと皆で心配をしていた。

「俺たちの都合でこんな行き来させて悪いとは思うけど。でも、飛翔が泣くとどうも弱い」

「同感です」

間をおくことなく同意する。

「てなわけで、もう少し頑張ってもらうぞ」


「悪かったな。俺らが不甲斐なかったがために」

そう声を掛けられた。

最後に見たのは瞳に色が無い下の息子だった。

でも、自分が傷つけずに済んで良かった、と安心する。

いつも厳しく育てていた。

末の娘が大変だから、子供の誰も甘やかさないように心掛けていた。

それに応えようと必死に修行をした下の息子。

苦手なことが多かったが、何より、人に慕われるという天賦の才に恵まれていた。

「誰、ですか?」

「お前の甥っ子の上司。ガラ、悪いけどな」

本人の言うとおり、彼はガラが悪かった。

赤い髪は立ててあり、目も鋭い獣のような目だ。耳に簡易ピアスをしており整った顔ではあるが、威圧感もある。

「もう少し、ガキのお守りしてもらわないと。てか、ホント俺らが悪かっただけだし」


目が覚めたときは暗くて狭い空間の中に居た。

すぐ隣にも誰かが居るようだ。

扉を押し開けると目に光が眩しい。

鳥の羽ばたきが聞こえた。

「炎勇、さま?翼さま?」

自分たちを知っているしゃべる鳥はこの世に1人だけ。

「風真、か?」

そういいながら起き上がる。

体中がミシミシ音を立てる。まるで、長い間動かしていないようだ。

隣で同じような動きをしているのは上の息子の翼だった。

「体が、固まってるな」

「そう、ですね。体って軋むんですね。成長期以来です」

苦笑しながら幾分自分よりは体が動く息子が応えた。

パタパタと足音がして、入って来たのは

「炎勇さん!!」

「お父さん、お兄ちゃん!!」

妻と娘だった。

二人に抱きつかれ、またしても体が軋む。

「悪いが、この状況がよく分からん。教えてくれないか?」

炎勇は抱きついてきた妻に、そう尋ねた。

彼女は泣きながら話す。

末の娘がまたしても大変な道を歩んでいるらしい。

「でも、このこおり。氷君が死ぬか、解くかしないと溶けないって聞いたけど。それって、つまり...」

青ざめる。

「分からんぞ。俺たちがここに戻ってきたんだ。何か他の要因があったのかもしれない。...ちょっと軍に行ってみる」

「俺も、行きます」

そう言って二人は立ち上がった。

軍服を着替え、車を出す。

「翼、何を覚えている?」

「時の国に、行ったはずですが...あとは、空也が...」

「ああ、俺も同じだ。何がどうなってるんだ?夢、見たのが原因か?」

「父さんも、ですか?」

「ということは、翼も、か...炎狼の上司と言っていた」

「俺は、飛翔の上司です。...なんとなく、非現実的な考えだと思うのですが...」

「同じコトを思っているんだろうな。まあ、それでもいいさ。飛翔に泣かれるのは非常に弱い」

「同感です」

そう言って庁舎に向けてスピードを出す。


「白の大将、壱番を見てきてくれ。俺は先に行く」

「はい」

通信室に向かった。そこが一番情報が入っているはずだ。

扉を開けると、弟と息子の会話がモニタリングされていた。

2人の会話である程度の状況を把握する。

「大総統」

「ああ、暫くぶりだな。技術部に連絡を。黒の中将が言っていたことを指示しておけ。それと、時の国とわが国の位置関係も把握したい。...状況は?」

白の少尉に説明を求める。

一通り説明を聞き終わったとき、通信が戻ってきた。

モニタの前に立ち、会話をする。

呆ける息子を見て、あれは夢ではないと確信した。

時の国の状況を確認し、援軍を送ることを申し出た。

ひとつの星なら、空は何処にでも繋がっている。

通信を終わらせて、飛翔を慕っている部下に視線を遣る。

「いいな?」

「はい!」

遅れて部屋に入ってきた翼に

「これから時の国に行け。内容は颯希が把握している。道すがら聞いておけ」

「は!大総統。壱番、ありました」

「分かった。ご苦労」

2人が出て行った後、ある人物を探す。

「ああ、確かお前だったな」

そう言ってその隊で一番幼い軍人を見つけて声をかける。

「ボク?」

「嵐!敬語!!」

傍にいた者が注意をするが、嵐も炎勇も気にしない。飛翔から聞いていたことだ。

「ちょっと、頼みがある」

そう言って別室に向かった。

「大総統たちが昨日くらいに帰ってきたってことにしておけばいいんだろ?簡単だよ、記録を書き込むことくらい」

「本当か?相当複雑だと聞いたことがあるが」

「複雑だから出来ないって言うんだったら、ボクはここに居ないよ。大丈夫。昨日、でいいの?」

「あ、ああ...」

「ボクら、裏工作が得意になっちゃてさ。困っちゃうよね〜」

「そう困っているようには見えんがな。では、任せたぞ」

そう言って炎勇は部屋を出た。

続いて謁見を申込み、すぐに承諾された。

「セルス様から伺っていたからね。よく、戻ってきたね」

「あれが、セルス様なのでしょうか?赤い髪の...」

「赤い?じゃあ、違うな。でも、うん。本当によく戻ってきてくれた」

そう言う帝は本当に嬉しそうな表情をしていた。

表の情勢の話をすると少しくらい顔をして、

「そうか。飛翔は...戻ってくるとは思うがまた大変な思いをしているのだな。一宮が、必ず帰ってくるように言ったのだが、返事をしなかったのだよ」

「そう、ですか。守れるか分からないことは軽々しく約束しないようにしているみたいなので」

「そのようだね。一宮もそう言っていたよ」

帝への報告も終わり、技術部に話をつけてもう一度通信室へ向かう。


「頭領との回線を開け」

炎勇の指示に従い、再び頭領の船との回線が開かれる。

『兄上?!』

「お久しぶりです、頭領」

『そんな他人行儀な言い方...私に何か御用ですか?』

「...ああ。頼みがある。そのまま風に帰ってこずに浮かんでいてほしい」

『は?どういう...』

「これから、こちらの護衛船を付ける。その前にお前の船にプログラムを嵌め込みたい」

『つまり、兄上はこの船に衛星の役割をするように、と仰っているのですか?』

「察しが良いな。流石だ。何でも言って良いのだろう?」

炎勇はにやりと笑う。それを見て秀炎は苦笑をした。昔からこうやって笑う兄に頼み事をされていた。

『聞いておられたのですか?全く...良いですよ。兄上には敵いません。ただし、これが落ち着いたらウチの国に遊びにいらしてくださいよ。先代や妻が会いたがっています』

「時間が取れればな」

そう言って後ろに控えている嵐に声を掛けた。

「確か、得意だったよな?」

「まあ...頭領、これから貴船をハッキングします。あまり周りのものに触れないでくださいね」

そう言って目の前の端末に自身のパソコンを挿した。









桜風
09.8.2


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