終章 第6話
| 大総統に命じられてすぐに発った翼と颯希は可能な限り早く飛んでいた。 「間に合うのでしょうか?」 「さあ、な。だが、何とか行くんじゃないのか?それより、俺が居なかった間に何があった?」 国を空けていた間に起こったことを聞く。 飛翔が女だと公表され、戻ったら軍を引退することになっているらしい。 「...どうして飛翔のことがバレたんだ?」 「帝が公表されたそうです。その後、騒ぎ立てた赤の中将たちのお陰で国中の皆が知っています」 そのときの状況を聞き、翼は溜息を吐く。 バカな軍人が多いことだ... ふと空気が変わる。 「そろそろ時の国だ。風が変わるぞ、気をつけろ」 そういった途端乱気流に入る。 まだ風たちが馴染んでいないようだ。 何とか乱気流を抜けると知らない風が強くなる。 「さて、後ちょっとだな。颯希、少し睡眠をとれ。はぐれないように気をつけておいてやるから」 そう言って颯希の後方に下がった。 上官が起きているのに自分が寝てしまうのはどうかと思っていたのだが、結局いつの間にか寝てしまったらしい。 気がつくと朝日が目に入った。 「起きたか?もう少しだ、気をひきしめてけよ。魔族が残っているんだからな」 城が見えてきた。 その周りには、なにやら羽の生えた者などがうろついている。 その先には見慣れた姿が空にある。 「さて、援護するぞ」 「はい!」 風が吹いてきた。何だか懐かしい。風の方を見ると自然と笑みがこぼれる 「兄貴!颯希!!待ちくたびれたぞ」 「これでも急いだんだがな...」 「飛翔様は!?」 口々に返す。 そして、そのまま魔族の間を翔け抜け、空也の傍についた。 「飛翔は、まあ..あとでな。久しぶり、兄貴」 「後どれくらい居るのか分かるのか?」 「全然。ただ、だいぶ減ってきてるよ。あいつらの拠点に行ったけど殆ど残ってなかったし」 空也が答える。 「そういえば、炎狼たちは?」 「休ませてる。そろそろ大丈夫だとか言ってるけど、無理だっつうの!」 「まあ、体を動かすのが好きだからな。とにかく、こいつら蹴散らして腰を落ち着けて状況把握をしたい」 「だな。俺も聞きたいことだあるし」 言ったとおり、3人はあっという間に魔族を退けた。 後ろに控えていた軍人たちは、ただただ感心した。 短時間で戦闘を終えたあと、空也の案内で飛翔の居る病室に向かう。 ドアを開けるとそこには飛翔が静かに眠っていた。 「飛翔様!」 走りよった颯希だったが、ゴンッという派手な音と共におでこを抑えて飛翔の元に辿りつく前に立ち止まる。 「ああ、結界が張ってあるんだ」 しれっと、ちょっと楽しそうに笑いながら空也が遅い忠告をする。 「先に、言ってください...」 「言う前に走り出したのはお前だろう?しかも病室で」 呆れた様に翼も追い討ちをかける。 「ううう...」と尚もおでこを抑えてうずくまっている颯希は反論できない。 「ほら、こっちだ」 そう言って空也はすんなり入っていく。続く翼も何の障害も無いようだ。 「どうしてぶつからないんですか?!」 「なんで、そう不満そうに言うんだよ」 苦笑しながら空也が聞き返す。 何だか理不尽だと思ってしまう颯希だった。 「寝ている、のか?」 「ああ、峠は越えたし。少しずつだけど、沙羅ちゃんが何度か治癒を掛けに来てくれたからな」 「そうか...」 翼はそう言って目を細める。心から安心したようだった。 自分にはかなり厳しい兄も、末の妹には密かに甘い。あからさまな甘さは嫌われるからその加減が難しいと皆で話していた。 そして、そのさじ加減が一番上手かったのがこの兄だった。 空也は何でも器用にこなす兄を羨ましく思っていた。 「ん...」と飛翔の喉から声が漏れる。 ゆっくりと目を開ける。空色の瞳が久しぶりに光を受ける。 一度、眩しそうに目を瞑り、またゆっくりと目を開いていった。 飛翔が目覚めたら、見慣れた顔が並んでいる。 「兄、さま?」 「飛翔、大丈夫か?」 「翼兄様...ああ、そうか。終わったんですね。えーと、失敗したんですか?」 「いや。ちゃんとお前たちは任務を全うしたんだ」 「そうですか。あー、そうか。終わって死んだのなら、まあいいかな」 「何を仰ってるんですか、飛翔様!」 「あれ?颯希...ダメだろう、こんなところに来ては」 翼の姿を目にした飛翔は自分が死んだと思い込んでしまっているらしい。 翼と空也は顔を見合す。 意外と思い込みが激しいようだ。 「颯希、済まないが久遠様と総司教様を呼んで来てくれ」 「僕がですか?!」 「ああ、頼んだぞ。外に出て聞けば教えてくれる。皆親切だ」 空也にもそう言われ、颯希は渋々部屋から出て行った。 廊下を歩いていると、先日モニタ越しで見た人が歩いてきている。 「あ、あの。久遠様、ですよね。私は風の国からこちらに遣わされた颯希と申します。あの、飛翔さ..風の勇者の病室にいらしてくださいと、上司からことずかってお探ししておりました。あと、総司教様もと言われたのですが」 「分かりました。貴国の援軍には感謝いたします。総司教はこの子ですよ」 そう言って並んでいる女性に顔を向けた。 2人とも顔が似ている。 「初めまして、霞と申します。颯希さんの遠征はわたくしからもお礼を申し上げます」 颯希は慌てて頭を下げたがどう返していいか分からず、顔を赤くして頭を下げたまま2人を見送った。 |
桜風
09.8.16
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