終章 第7話





不意に「青いな」と、聞きなれた声がした。

颯希が振り返ると炎狼がこちらを見ながらニヤニヤしていた。その後ろで大地と氷が呆れながら炎狼を見ている。

「何ですか、そのしまりの無い顔は!」

「いやいやいやいや。...青いな!」

もう1度同じことを嬉しそうな顔で言われて颯希もムキになる。

「だから、何のことですか!そうやって僕をからかって楽しいですか?」

「勿論、楽しいよ」

「何ですか。もう!」

「そうそう。精鋭で来るって言ってたよな。もしかして、精鋭って颯希だけ?お前は飛翔に次ぐ能力者だって聞いてるけど」

炎狼がムキになっている颯希を気にも留めずに続ける。

「誰がそんなことを言ってたんですか?」

「飛翔」

その返事を聞くと嬉しそうに颯希の頬は緩む。

「...お前、ほんっとに飛翔が好きなんだな」

呆れたように言う炎狼に

「勿論です!飛翔様は僕を救ってくれた人なんです!!」

語気を強めて颯希が言い、その今までに無い迫力に炎狼が怯む。

「どういうコトだ?」

大地が話を促す。

「僕、さっき炎狼様が仰ったように能力者です。でも、小さいときはその力を抑えられなかったし、だから、余計怖かったんです。僕の両親も僕を怖がって小さいときから距離を置かれてて。一度、風の力が暴走したときがあるんです。街中で。そのとき、たまたま飛翔様が近くにいらして。それで、僕の暴走を止めてくれたんです。一緒に炎狼様もいらっしゃいました」

「...ぁあ!!あんときの!!」

炎狼が思い出し、大きく納得する。

「そうです。そのとき、飛翔様が『君が風を嫌ってたら風にも嫌われるよ。受け入れることから始めるといい。ゆっくりで良いんだ。君の思うように風と仲良くなったら、そのときには力を貸してくれるよ』って言ってくださいました。両親は真っ先に僕から逃げていたのに、飛翔様と、一緒に居たのが炎狼様だと気付いたときにすぐに軍に入るように勧めて勝手に僕を士官学校に入学させたんです。
でも、僕、体が小さいじゃないですか。学校に馴染めなかったんです。そして、また僕は飛翔様に会ったんです。何故か分からないけど、僕を自分の隊に入れたいと言ってくださって。僕、射撃も苦手だったし、体力も無いんです。でも、僕がいいって...」

「しかし、射撃の腕は大したものだったじゃないか?」

「それは、このお陰です。たぶん、持たれたら分かりますよ」

そう言って懐に入れていた銃を取り出す。

氷が受け取り、握ってみて

「軽いし、少し小さくないか?」

と呟いて大地に渡す。大地も「あー、そうだな」と同意し、颯希に返す。

「そうです、既製品とは大きさも重さも違います。これは、飛翔様のお母さんが僕のために作ってくれたんです。というか、改造品なんですけど。弾は既製品と同じでいいから補充の心配も無いですし。僕、銃を撃つと反動で体が動いてしまうんです。それで、定まらないというか...だから、飛翔様が、僕のためにお母さんに頼んで作ってくださったんです。
飛翔様が言うには、僕はその反動が無ければちゃんと的に当てれているし、実際、これを使えば的に当たるようになりました。飛翔様は、僕に場所をくださったんです。能力の制御は教えてくださったし、射撃も東風さんや、空人さんたちが一緒になって練習してくれたから頑張れたんです。それなのに、飛翔様は国に戻ってきても、軍には戻れないなんて...」

落ち込む颯希をどうしていいか分からない。もっと威勢良く反発してくる颯希なら炎狼も何とか出来そうな気もするが...

颯希にとって飛翔はとても大きな存在で、目標だったのだろう。

「あれ、炎狼お兄ちゃん?」

ふと、廊下の角から声を掛けられた。

「ああ、どうした?」

「炎狼様、下がってください!」

炎狼に声を掛けた少年を見て颯希は炎狼を庇うように前に出て銃を構える。

「ちょ、タンマ」

「いいから、僕に任せてください。狙撃の腕も、軍で上位です」

そう言って弾を装填するが、それは氷に取り上げられる。

「何をするんですか!?」

「あの子は、敵じゃない」

「でも、飛翔様を殺そ..」

口を炎狼に押さえられて颯希の言葉が止まる。

「いいから。もうそんなんじゃないんだって!...氷、あいつ任せた。おれはちょっと颯希と話するわ」

そう言って炎狼は氷から颯希の銃を受け取り、そのまま颯希を抱えてその場を去った。


任された氷はどうして良いか分からず、固まる。

そんな氷に苦笑して大地が相手をすることになった。子供の相手はもう慣れっこだ。

「どうした?」

「今の、何?僕が、飛翔お兄ちゃんを?」

「さあ?オレには聞こえなかったけど?」

「でも!」

「俺にも聞こえなかった...」

氷がそう言うと反論はしないまでも、落ち込んでしまった。

「で?お前は何でここまで来たんだ?」

「あ。飛翔お兄ちゃんが目を覚ましたって聞いたから。これから、雷お兄ちゃんにも知らせてあげようって思ったんだ。凄く心配してたでしょ?」

それを聞いて2人は顔を見合わせる。

飛翔の病室に駆け出そうとしたが、それはやめた。

せっかくの久しぶりの兄妹水入らずだ。

大地たちは少年と一緒に雷の病室に向かうことにした。









桜風
09.9.6


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