終章 第8話
| 「失礼いたします」 ノックの後に澄んだ声が聞こえた。 「ああ、どうぞ」 そう言って翼は久遠に椅子を譲り、空也も霞に座るように促す。 「ありがとうございます。それで、お聞かせ願えるのですわよね?」 久遠の言葉に翼は頷き、自分がここまで来た道のりを話した。 「なるほど。それで、炎勇様は『神のお導きのようなもの』と仰ったのですね」 「じゃあ、兄貴は神さんと会ったってことか?」 「ああ、恐らくそうだろう。春の空の色をした柔らかい髪を持っている人だったよ」 それはきっとセルスだと思った。 「ごめんな、飛翔。飛翔は最初から俺たちが国を出るのを反対してたのにな。心配してた飛翔の忠告聞かなかったから。寂しい思いをさせたよな。悲しい思いをさせたよな。飛翔にだけ頑張らせて、ごめんな?」 そう言って翼が飛翔の髪を梳く。 微笑ましい光景に久遠は目を細めていたが、飛翔を見て少なからず驚く。 そんな久遠と目が合った飛翔は慌てて布団に潜る。 久遠は苦笑をした。 「こーら、飛翔。久遠様に失礼だろう?」 からかうように空也が言う。 「空也。お前はこれからうちに帰れ」 「は?!」 兄の無情な通告に驚く空也。 「大総統の命令だ」 「ぇえ?!」 既に回避不可能な命令をも下されていると来た。 「長い間こちらにお世話になったことだし、そろそろ母さんたちにも顔を見せろってことだ。部下も放っときっぱなしだろう?」 「いや、ほら。あいつらしっかりしてるから...」 「いいから!飛翔の隊だって色々あるし。お前が自分の口でここのことを報告しろ!」 「そんなの。飛翔と一緒に戻れば...」 「空也兄様は親孝行をしに家に戻ってください」 「飛翔って、兄貴には優しいのに、俺には冷たいよな...」 「バカ言ってないで早く戻られては如何ですか?」 「......炎狼ぉ!飛翔が泣ぃ..」 外に向かって大声で叫んでいた空也だが、翼の拳骨によって言葉が途中で切れる。 「兄貴ぃ〜!!」 頭を抑えながら涙目で翼を見上げる空也に 「妹をいじめるな!お前は子供か!?」 目を細めて空也を見下ろす翼。 傍のベッドでは飛翔が得意げに笑っている。 「可愛くねー!!まあ、そこまで言うなら帰るよ。仕方ない...じゃあ、な。ちゃんと休養を取って帰って来いよ。あと、久遠さんたちに迷惑掛けんなよ」 優しく布団をぽんぽんと叩く。 「空也兄様じゃありません!」 飛翔は再び布団に潜ってそう言った。 「そりゃそうだ。じゃあ、悪いけど兄貴。少し引継ぎらしきものをしたいからちょいいいか?」 そう言った空也に続いて翼が出て行く。 「では、私たちも下がりましょう。飛翔さん。何かありましたらお呼びくださいね」 そう言って久遠たちも部屋を後にした。 「あれ?もしかしてタイムオーバー?」 「そうね。休んだ方がいいと思うの。もう少し時間を開けてまたいらっしゃい」 病室から出てきた久遠たちと鉢合わせになった炎狼は苦笑した。 「ちょっと遅かったってよ」 隣に並び、あからさまに肩を落としている颯希の肩をぽん、と叩いた。 「はい...」 「ところで、兄貴たちは中?」 「いいえ。空也さんたちは何やら引継ぎをされるとか。空也さんがお帰りになって翼さんが残られるそうです」 「え?!僕は?」 「さあ?指示があるとは思いますけど...」 きっと帰るように命じられるのだろう... そう予感した颯希はがっくりと肩を落とした。 飛翔の病室の前である意味門前払いを受けた炎狼と颯希は宮殿内を見て回り、炎狼は久しぶりに見る人物の背中を見つけた。 「兄さん!?」 炎狼が駆け出した。炎狼も、冷たくなった翼の姿を目にしている。 驚いて振り返った翼は苦笑して軽く手を上げた。 「うわー、どういうマジック?!」 その言葉にまたしても苦笑して「あとで種明かししてやる」と答えた。 そして、炎狼と共にいた颯希に目を向ける。 「まあ、想像ついていると思うが...」 「飛翔様にご挨拶させていただきたいです」 「...空也、少し待ってろ?」 「俺は帰りたくない」 弟のわがままを黙殺した翼は颯希を連れて飛翔の病室へと向かった。 |
桜風
09.9.22
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