炎の章   第1話





炎狼は喉の渇きを覚え、それを潤すために操縦室に来た。

この船の構造は乗り込んだ時に一応確認している。

それぞれの部屋に小さなキッチンはついているが、何故か食堂というか、船の大きなキッチンは操縦室の中にあった。

「あれ、飛翔。どうしたんだよ、こんな所にいるなんてよ。お前も何か飲むか?」

「ああ、そこにコーヒーを淹れてある。」

「おう。」

炎狼は二人分のコーヒーを用意して、中央のテーブルに着いた。

「ここ置いておくぞ。なあ、この部屋って、おれ達の居間兼台所になるよな。隣の部屋は食料庫になってるし酒もあったぜ、用意良いよな。
ところでさあ、お前何やってるんだ?それ自動操縦になってるって言ってたじゃないか、聞いてなかったのか?」

「一応マニュアル操縦の確認。何が起こるかわからないし。」

飛翔は顔も上げずに言葉を返す。

そんな飛翔に慣れている炎狼は気にすることもなく数回頷く。

「マニュアルの確認って、取説なんて置いてあったのか?」

「いや、あの人たちがそこまで親切なものを置いてると思うか?一応、機械の基本はどれも同じだから、見ておけるかと思って。」

「あー、伯母上に色々仕込まれているからな、お前。」

コーヒーに口をつけながら炎狼が呟く。

「まあな。ところで、一つ聞きたいんだけど、いいか?」

「んあ?何だよ。」

「さっきエデンの神殿の中で突然やる気を出しただろ?お前のことだから気分が乗らないとやらないと思っていたのに、俄然やる気になった理由が気になっているんだが。」

飛翔は顔を上げ、ガラスに映る炎狼を見た。炎狼もガラスに映る飛翔を見ていた。

数秒経っても口を開かない炎狼に、答えを待っていた飛翔はそれを諦め、作業を再開した。

炎狼はコップの中に視線を落とし、ゆっくりと話し出した。

「なあ。爛(らん)、覚えているか?」

「爛さん?炎狼の乳母の娘で、お前の乳姉弟のあの人か?確か私たちと同じ年で綺麗な人だよな。彼女がどうかしたのか?」

飛翔は作業の手を休めずに答えた。

「二週間くらい前に時の国の奴らが攻めてきたんだ。爛もかなりの能力者だろ?だから一緒に戦っていたんだ。でも、あいつらに連れて行かれた。おれの目の前で。
あのときのことを思い出すと、おれ、すげー悔しいし、何より、あいつを守れなかった自分が許せないんだ。
だから、今度こそは救いたい、守りたい。そのためには力が必要だ。今のおれじゃあ、あいつらには勝てない、力の差がありすぎる。
だから、おれは炎の勇者になることを選んだ。...飛翔、聞いてんのか?おれの話。」

飛翔の反応が全くなかったので、炎狼は顔を上げて飛翔に声を掛けた。飛翔は相変わらず作業を続けていた。

「ああ、聞いている。
―トラブルが起こると警報が鳴るのか。隕石、その他の船が近づいても同様だな。爛さんを救うことが出来るかもしれないからやる気が出たんだな。
−多少の攻撃手段も備えてあるみたいだな、まあ、使わないで済むことを祈ろう。とりあえず、見張りも必要ないだろうな。回線は...これで開ける。
よし、こんなものだな。現在地がここなら、この船の速度でいくとあと一日位で炎の国の領域になるな。」

そういって飛翔は中央のテーブルの炎狼の正面に座り、炎狼が用意してくれていたコーヒーを口にした。

 炎狼の後方のドアが開き、大地と氷が入ってきた。大地は炎狼に声を掛け、隣に座った。

氷は、二人分のコーヒーを淹れる。

「お前ら、ここで何をしていたんだ?操縦は自動なんだろう?お、サンキュ。」

大地は氷に礼を言い、コーヒーを口にした。

「飛翔は、一応マニュアルの確認。で、おれは、そんな飛翔が寂しくならないように、話し相手をしてやっていたってワケ。おれって優しい!な、飛翔。」

飛翔は、炎狼を一瞥してコーヒーを飲んだ。

「さすが、科学技術が優れている風の国の人間なだけあるな。それで、何か問題はあったか?」

1つ席を空けて飛翔の隣に座った氷は、頬杖をつきながら聞いた。

「システム上の問題は今のところ見つかっていない。分からないことが多すぎるし時間が無い。とりあえず、分かっていることと言えば、動力、つまり燃料は光だから不足することは無いだろうし、集光機能が高いから時の国まで辿り着くことは可能だ。見張りの必要もなさそうだ。しかし、船の構造上の問題はあるな。」

「構造上の問題?」

「ああ。どう考えても、こんな水場の近くに、メインコンピューターで、しかも一番重要な操縦席があること自体が間違っている。
何かあったら漂流することになるな、普通。だから、船の構造上の問題だ。」

「盲点だった。」

「...でも、それはもう、どうしようもない事だよな。」

「ああ、どうしようもないな。このメインコンピューターが水に強いことを願うしかない。まあ、私たちの常識が通じるものではないだろうから、大丈夫だとは思うが。」

「そんな事より、」

「そんな事...」

炎狼の一言に飛翔は絶句する。

「何で氷は、飛翔が風の人間だって分かったんだ?飛翔、自己紹介のとき言ったっけ?」

心底不思議そうな顔をしている炎狼に三人は「何言ってんだ」と言いたそうな冷たい視線を送った。

そして飛翔が溜息を吐き、面倒くさそうに答えた。

「能力を見れば一目瞭然だろ。」

「いや、だって氷はお前が飛んでたところなんて見てないんだぜ?そんなのおかしいだろ。」

炎狼は納得できずに食い下がる。が、隣に座っている大地があっさりと、

「あ、オレ氷に話したぜ。話題が無くてさ。悪いな飛翔、まずかったか?」

「いや、別に。この先どうせ能力を使うことになるだろうし。それに炎狼、瞳の色を見れば何の属性を持っているかが分かるだろう?
私としては、二人が仲良くしていることに疑問を抱いているのだが。」

大地と氷の瞳の色を無遠慮にも覗き込んで確認し、納得している炎狼をよそに飛翔が言うと、

「あ?だって喧嘩したって仕方がないだろ、こんな状況で。一人でも欠けたらマズイって話しだし。それに、俺もいい加減戦争に飽きたし。
だって戦争で得する奴なんて武器商人くらいで、後はそれと癒着している一部の人間とか、王族とかだろ?
それで国民は多大な迷惑を被ってるだけだぜ。他国との戦争なんて無くなる方がいいさ。」

「...そうだな。それじゃあ、私は部屋に戻るよ。おやすみ。」

飛翔は席を立ち、自室に帰っていった。

その後ろ姿を見ていた大地は、飛翔の出て行った後の閉まったドアを見ながら、

「飛翔って付き合い悪いのか?」

と呟いた。それを耳にした炎狼は、随分と冷めてしまったコーヒーに口を付け、

「まあ、付き合いは良くないかもな。でも、面倒見はいい方だと思うぜ?末っ子だけどな。大地も面倒見よさそうだよな、氷も。」

「オレ?どうだろうな。でも氷が面倒見が良さそうってのは賛成だな。あまり口は出さないけど周囲に気を配って気疲れするタイプだよな。」

話を振られた氷は二人を見ながら首を捻った。

その後、三人は少し会話をして解散した。









桜風
04.7.11

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