炎の章   第5話





「やーっぱ、風に乗って空を飛んで移動するって早いし、楽だよな。あ?大地、お前顔色悪いぜ。...もしかしなくても、高所恐怖症?」

炎狼は、しゃがみ込んでいる大地の顔を覗きながら言った。

図星を指された大地は、俯いたまま「うるせ」と呟いた。

「炎狼、ここを見てみろ。」

遺跡の紋章辺りを調べていた飛翔が炎狼を呼ぶ。

「ん?なんだこりゃ。もしかしておれらのエンブレムをこの型に嵌め込むのか?六つ穴があるもんな。っていうか、この黒い石って何だ?飛翔が見つけたときにはあったんだよな。」

「ああ。おそらく、時の国勇者の物じゃないか?何故此処に在るかは知らないけど...。私たちの紋章も嵌める所が決まっているみたいだな。中央が炎。残りはそれを囲むようになっているな。
しかし、どうすればいいんだ?私と炎狼そして氷のはペンダント、雷はブレスレット、大地はリストバント。まあ、沙羅のはイヤリングだから何とかなるかもしれないが、嵌めることが出来るのか?」

飛翔が口に手を当てながら呟いている。

「もしかしたら、この金具とか一緒に穴の上に置いたらそれらが消えて綺麗に嵌るんじゃないのか?」

そういって、炎狼は自分の首にかけている炎のエンブレムを外す。

「そんな都合のいい話があるわけ......なんて都合のいい仕組みなんだ。なんだか納得できない。」

「諦めろって。おれらの常識は、これには当てはまんないんだろ?」

ぴったりと穴に嵌った炎のエンブレムを見つめて呟く飛翔の肩をぽんと叩きながら炎狼が声を掛けた。

炎狼は皆を呼び、説明をしてそれぞれの紋章を嵌めてもらった。


すると、地鳴りが起こり、炎の紋章の刻んであった壁は扉となり、ゆっくりと開く。

扉の向こうには、人が何とか一人通れる幅の道が一本あるだけで、その周りには炎が赤々と燃え盛っていた。

それを目にした氷は、皆に気付かれないよう、息を飲んだ。

「あれ、これ、もう取れないよ?」

エンブレムを手元に戻そうとした沙羅は声を出した。

「一度嵌めると試練とやらが終わるまで返してもらえないみたいだな。...炎狼早く行こうぜ?」

大地に促された炎狼は、燃え盛る炎の遺跡の中に足を踏み入れた。

「...この中を進めと?いくらおれでも結構きついぜ。...分かってるって、飛翔。文句言わずに進みます。そう睨むなよ、ちょっと言ってみただけじゃないか。」

ぶつぶつと文句を言いながら炎狼は足を進めた。中は既に空気が高温で、蒸し焼き状態だった。

ふと振り返ってみると、残りの五人が遺跡の前で立ち尽くしていた。

「何でお前ら入ってこないんだよ。炎が怖いとか?まあ、蒸し焼きにされる魚の気持ちが分かる程度の熱さだけど。...飛翔?」

「私たちは入れないみたいなんだ。エデンの神殿みたいにこの入り口に結界らしき壁がある。きっと炎狼も神器を手にするまで戻れないんじゃないかな?」

飛翔は入り口の見えない壁を叩いて見せた。炎狼は一瞬表情が凍ったが、笑顔で、

「そっか、じゃあおれ行ってくるわ。お前らそこに居ても仕方ないから屋敷に帰ってろ。事情が分かってるからジジィやオヤジは、お前らに危害は加えねえよ。おれは、煌(きら)か焔(ほのお)で帰るからよ。じゃあな。」

と言って奥へ足を進めていった。


「そうか、あの馬鹿独りで行くことになったか。飛翔がおるから安心しておったのだが...」

炎陽がしみじみと言う。飛翔は深々と頭を下げ、

「申し訳ございません。お世継ぎを独り危ない目に遭わせることとなってしまいました。」

「いや、お前のせいではないだろう、飛翔。顔を上げなさい。炎狼が自分で選んだ道だ。これで命を落とすことがあれば、それこそ神の意思ということになるだろう?お前が気に病むことは無い。お前たちもこれから試練を受けることになるのだろう?たまたまあれが最初だっただけのこと。それに、そんなにヤワではないよ、私の息子は。まぁ、炎狼が戻るまでゆっくりしていなさい。部屋は各自に用意してある。」

「あの、さっき炎狼が言っていたのですが、『煌』とか、『焔』とかって何ですか?」

ずっと気になっていたらしく、沙羅が口を開く。

「あぁ。『煌』、『焔』、そして『U(いく)』は炎狼の守護獣なのですよ。守護獣というのは、われわれ炎の一族の中に稀に現れる一種の炎の精霊ですかね。『煌』は狼、『焔』は龍、『U』は隼で、複数の守護獣が付くことは今まであったかどうか...。
能力が高いほど守護獣が付きやすいといわれています。
『煌』は元々飛翔の父親つまり、私の兄上に付いていた守護獣だったのですが、兄がこの国を去るとき、世継ぎに付くようにと置いて行ってくださったのです。
一度姿を消したのでもう現れないかと思っていたのですが、炎狼が生まれたときあの子を守護すべく現れたのです。炎狼の名は、『炎の狼に守られし子』という意味で付けたのです。
残りの二体は、炎狼が成長するにしたがって現れました。」

「へえ、炎狼って実は凄い能力者だったのね。...あの、これから街に出て行ったりしたらダメですか?此処に来る途中、色々街並みが楽しくて...」

「そうか。よかろう、儂が案内してやろう。他の者はどうする?」

雷の言葉に炎陽が応え、皆に話を振る。

「頭領、私は船を調べてみたいので軍の港への立ち入り許可を頂きたいのですが。」

「ああ、構わない。作業着も貸そう。まぁ、一応港に連絡は入れておくが、お前なら私が口添えしなくとも大丈夫だろうがな。」

「俺も行っていいか?」

突然の氷のこの言葉に、飛翔は少し驚いたが、微笑んで「構わないよ」と答えた。

そんな経緯で、夕飯までの時間を、雷、大地、沙羅は炎陽と共に街で、飛翔、氷は港で過ごすこととなった。









桜風
 04.9.12


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