炎の章 第6話
| 「さて、お主たちは何を見たいかの?」 屋敷から外に出て炎陽は三人に聞いた。三人が顔を見合わせて答えが出なかったので、雷が、 「何といわれましても。何があるかよく分かりませんから、お勧めの場所に連れて行ってくださいませんか?」 と言った。 「はっはっは。そうじゃな、お主たちはこの国は初めてじゃったな。すまん、すまん。そうじゃな、夕食まで余り時間は無いから、近場がよいな。 まあ、今日のところは、街並みを見て歩くだけにするかの?あの馬鹿孫が戻らん限り、お主らも暇じゃろうて。」 そう言うと炎陽は街の方へ足を向けた。 炎陽は高齢であるにも拘らず足が速かった。 そのため一番背の低い沙羅は、街から外れている屋敷から街まで小走りで移動するハメになった。 少しすると活気のある街の中心部へ着く。 「すまん。歩くの早かったか、沙羅さん。」 「いえ...大じょ...夫です。」 沙羅の呼吸が整うのを待って、歩き出した。 街の建物は、さっきも思ったが、何やら目が痛くなるカラーリングだった。 この国の色なのか、鮮やかな赤が多く、それが緑色と組み合わせて合ったりと、とにかく派手だった。 「...目が痛くなってきた。何だか派手ですね。これだけ目立つ建物ばかりだと店とか困らないんですか? 周りと同化してどこに店があるか分からなくなりません?」 「まあ、地元の人間しか買い物せんから、店が目立たずとも困らんよ。おお、ここじゃ。しかし、女性が見ても面白くないかもしれんな。此処は鍛冶屋なんじゃが。」 歩きながら話をしていた炎陽が一軒の店の前で足を止める。 「鍛冶屋って刀を打ったり鍛えたりするところですよね?アタシ興味ある。入ってみよう?」 店の中はひとつの大きなかまどがあり、火が勢い良く燃えている。 職人が三人ほど居たが、その内の一人が炎陽の姿を見つけて近づいてきた。 「先代、ご無沙汰ですな。今日はどんなご用事ですか?―――そちらの三人は...。敵国の民とご一緒とは、一体どういう事です、先代。早く捕縛されてはいかがです。どういうつもりですか、武器を作るところにつれてくるなんて、何をお考えなのです。」 この職人に睨まれた沙羅は大地の後ろに隠れる。 炎陽は困った顔をして、 「捕縛せんでも大丈夫な人たちなんじゃ。信用するに値する、儂が保障する。...まだ納得いかんか?なら、飛翔と炎狼の友人じゃ。炎狼が客人じゃからそのような待遇をしろと言っておる。これなら納得できるじゃろ?」 と宥めた。 「炎狼様と、飛翔さんの...。飛翔さんだけならともかく、炎狼様も太鼓判を押されているのでありましたら、信用できます。先ほどは失礼しました。私はこの工房の主人をしております。まぁ、親方ってやつですよ。」 「俺は、大地といいます。こっちが雷で、後ろに隠れたのが、沙羅です。...炎狼の事をとても信頼なさっているようですね。」 「え?ええ、そうですな。炎狼様と飛翔さんの事はお小さいときから存じていますからね。まぁ、飛翔さんは、数年に一度くらいしか会いませんでしたから、知っているとは言わないかもしれませんね。 炎狼様と飛翔さんは十年位前にこの工房に遊びにいらした時、突然ここにあった真剣でちゃんばらを始められたことがありましたね。あの年で、あれだけの剣捌きをなさる二人だ、将来はどんな剣士になるかと期待しましたよ。 途中で先代に見つかって拳骨を食らった後、『剣は遊びの道具じゃない、人の命を奪う物だ。覚悟の無い者が手にしていい物ではない。』と言われて、夕飯も抜きで屋敷の蔵に閉じ込められていましたね。 しかし、そんな小僧だった炎狼様は今では小太刀の二刀流を得意とされていますね。飛翔さんは、結局剣の道は選ばれなかったみたいですが、拳銃の腕前が素晴らしいみたいです。何でも、一発必中。百メートル先の豆粒にも正確に当てることができるらしいですよ。まぁ、あの二人の勝負の行方を見届けられなかったのが残念ですよ。」 店主は豪快に笑いながら、話をしていた。その話を聞いていた沙羅は首をひねりながら、 「あの、小さいときの炎狼を知っているから、信頼できるって言うことなんですか?」 と聞いてみた。店主は笑を止めてぺチンと額を叩き、また豪快に笑った。 「ああ、すみません。話が脱線してしまいましたな。炎狼様は嘘がつけないお方なのだ。どうしてもばれてしまうんです。あ、でも秘密が守れないと言うことではないし、自分から言い出した約束も必ず守ってくださる方だ。不器用で、正直な方なんだ。 逆に飛翔さんは、器用な方だ。たぶん、秘密や約束は守れるだろうが、嘘も上手いだろうな。あ、これは悪口じゃないぞ。人を陥れる人じゃないのは分かっている。しかし、心から信頼できる人ではない。炎勇(えんゆう)様の子だからか、この国の人間ではないからかは、分からないがな。 でも気を付けた方がいいですよ?炎狼様ご自分が嘘をつけない代わりに、他の人の嘘を見抜くのがお得意だ。直感でこいつは嘘をついているって分かると一度伺ったことがある。 だから、炎狼様、飛翔さんのお二人を敵に回さない方がよろしいですよ。ところで、先代。何かご用事があったのではありませんか?」 「いや、別に。夕飯までの空き時間で案内できるところと言ったらここしか思い浮かばなんだからの。ここは、我が一族の嫡子に持たせる護身刀を打ってもらう鍛冶屋じゃからの。」 「護身刀?『我が一族の嫡子』と仰ると頭領になる人のことですよね?」 雷は、刀に興味があるらしく、聞いてくる。 「ああ、そうじゃ。炎狼もいつも身に着けておろう?懐に入れておるからよく分からんかの?刃先から柄の先まで約一尺。三十センチの短い物じゃが、炎の力が込められておる。その力を込めるのは、父親か、祖父の役目じゃ。大抵は、力の強い方がそれを行う。 そのどちらも欠けているときは、近しい物が代理になるんじゃ。一族以外のものが手にしても普通の懐刀じゃが、儂等にとっては特別な刀じゃな。しかし、観光には向かんかったようじゃな。儂がついとれば、不快な思いをさせずにすむと思っておったが、どうもこの国のものは血の気が多い。では、親方。儂等はもう帰ることにする。時間も丁度良い。」 大地たちは職人たちに挨拶をして店を後にした。 一方、港に向かった飛翔と氷は、自分たちの宇宙船の中にいた。 「どうだ?何か新しいことは分かったか?」 エンジンルームでエンジンを弄っている飛翔の手伝いをしながら、氷が口を開いた。 「少しだけ」と船の心臓部であるエンジンを分解し始めて一時間近く経つ。 「...全然。もうこれ以上分解するのは自信無いな。これについて解析するのは、今の段階では諦めた方が良いだろう。『船が動かなくなりました』、なんてシャレにならないし。」 そういった飛翔が分解したエンジンを戻し始めた。 「殆ど解っていない船に乗るのって何か気持ち悪いな。食糧も尽きないし、服もいつの間にかクローゼットの中に増えているんだぞ。水なんかどこから来ているんだ?」 「さあね。私もどちらかと言えば理屈屋と言うか現実主義的なところあるから正直、この船は気持ち悪いな。でも、今まで見ていたのはエンジンだから、他の仕組みとかは分からない。それに、この船は、一応神界製ということになるんだろ?私たちの常識で図れるものの方が少ないだろうな。」 エンジンを復元する手を休めることなく、飛翔は淡々と答えた。 「...炎狼、大丈夫だろうか。」 氷が誰に言うことなく呟く。 黙々と手を動かしていた飛翔が手を止め、氷の目を見据えて、 「炎狼なら、大丈夫だ。あいつは今まで自分から言い出した約束を破ったことは無い。言い付けはよく破って先代や頭領の拳骨食らっていたけど。それに、今のあいつには譲れないものがあるから。」 と話す。 「『譲れないもの』?」 氷が問い返してきたが、 「そう、譲れないもの。でも私が答えていいものだとは思えないし、この先、きっと炎狼の口から言うと思う。だから、それまで待ってやってくれないか?」 飛翔は氷に背を向けて手を止めたまま口を開いた。 「...分かった。」 「感謝する。」 氷の答えを聞いて飛翔は作業を再開した。 |
桜風
04.9.26
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