炎の章 第7話
| 「お帰り、飛翔、氷殿。食事の用意は整っている。」 「お待たせして申し訳ありません。」 飛翔たちが屋敷に戻ると全員が揃っていた。 食事も済み、皆で食後のお茶を飲んでいるときに、大地が口を開く。 「そういえば、船の方はどうだったんだ?」 「何も新しいことは分からなかったな。」 「風の国へ行ったら何か分かるんじゃないの?」 と雷が言う。 「...皆、楽しく分解してくれるだろうから足止め食らうのがオチだな。納得いくまで手放さないだろうから、ウチは別の意味で危険だよ。」 「ふうん、風も変わってるのね。あ、そうだ。頭領、さっき街で『飛翔は炎勇って人の子供だからイマイチ信用できない』って聞いたんですけど、炎勇さんって何した人なんですか?」 沙羅がそんなことを言うので大地はむせた。 既に席を外していて炎陽はいなかったので、雷は秀炎と飛翔を交互に見て慌てて弁解する。 「いえ、あの子には悪気があるわけじゃないんです。申し訳ありません。飛翔も、ごめんなさい。ちょっと、沙羅、いきなり何を言うのよ。もう少し考えてものを言いなさいよ。」 飛翔が秀炎を窺うと、秀炎は微笑み、頷いた。 それを受けて飛翔は自分の背に手を回し、一本の懐刀を取り出し、皆に見えるように置く。 いつもは服に隠れていたそれを見た大地が驚き、飛翔を見る。 「これ、炎狼が持っている護身刀?頭領のところの嫡子しか持たないと伺ったのですが。何で飛翔、お前が持っているんだ?炎狼から預かったのか?」 「いいえ、それは飛翔の、というより、飛翔の父親で私の兄の、炎勇のものです。本来なら、兄である炎勇が『頭領』と呼ばれるはずでした。 ...少し長くなりますが、昔話をお聞きになりますか?」 飛翔以外の者は互いに顔を見合わせ、そして頷いた。 「では、お話しましょう。私、炎狼、先代、そして兄の名前には『炎』と言う字が付いています。この字は、この国を治める一族の男子で、しかも能力者のみに許されています。嫡子は名前の先頭に。庶子は二文字目以降に。 今まで炎の能力を持って生まれた者は一世代に一人でした。ですから何の問題も無く、世継ぎが決まっていたのです。 しかし、我々の代は違った。私が炎の力を備え持って生まれてしまったのです。兄と比べれば足元にも及ばない程度の物でしたが、家臣を二分させるのには十分でした。私が能力者であったがために、私を頭領にしてしまおうと考える者が出てきてしまったのです。本来、頭領は政治、そして軍を指揮するものなのです。 兄は文武両道で近年稀に見ない高い炎の力を持つ能力者でした。一方、私は並の能力者で、軍才が無いときている。どう考えてもこの国の後継者は兄でした。私を担いでいた者たちもそれは分かっていたはずです。 しかし、兄はそれを辞退したのです。兄は、私にこの国を任せて出て行きました。 既に我々に力で訴えてくる者たちが出てきていたので、父も早くこの問題に決着をつけるために頭領の地位を譲ろうと考えておられたようです。 兄は、 『 私はこの国の民を戦争の中なら、武力で守る自信はある。しかし、戦争が終結したあと、武力以外の力を以って国を、民を守るのであれば、私よりお前の方が適任だ。軍の方は父上に任せれば良い。頭領は国民を想い、まとめられる者である、それだけが条件だ。』 と言って、兄がこの国を私に託しました。 そのときご自分の守護獣、煌を置いていきました。本当は、今飛翔の持っている護身刀まで置いていこうとされたのですが、それは、父が持たせました。 私には父のものを譲るから、兄の物は兄の子にでも託せと言って送り出しました。実は殆どの民はこの政権争いを知りません。政府内の事でしたし、その争いが漏れないうちに決着をつけましたから。 ですから、風の噂程度には耳にしていますが、それ以上の情報は無いのです。 しかし、この詳しい事情を知らない国民たちは、兄は国を捨てて他国に与したと思っているものが多いようです。私は真実を告げようとしましたが、父と、兄に止められました。 『国民の信心有っての国の頭だ。真実を知った国民の中には、お前が国を乗っ取った、と思うものが出てくるかもしれない。お前がこの国を守ろうと思っている、それだけだ十分だ。告げないほうが良い真実はある。』と。 それで、今のまだ、兄は誤解されたままなのです。 だから、兄の子である、飛翔にも兄の不信が及んでいるのです。すまないな、飛翔。」 飛翔は穏やかに首を左右に振って 「いいえ。私のことはどうぞお気になさらないでください。」 と答えた。 |
桜風
04.10.10
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