炎の章   第9話





「ん...ここは?」

目を明けると見覚えのある天井が目に入る。

思い体を起こし部屋の中を見渡す。

ガタンと何かが落ちる音がした。

そちらの方に顔を向けると、目の前に何かが迫ってきて、衝撃を受けて再び布団に背を着ける。

「炎狼ちゃん!...良かった。―――頭領と先代に報告してきて、迅速にね。あと、何か消化のいいものを用意してあげて。」

炎狼を押し潰すように抱きついてきたその女性が側近の者に言いつける。

炎狼の頭もはっきりしてきてこの女性が誰かが分かり、自分から引き剥がす。

「母上!?ってことは、此処は...屋敷ですか?でも、おれどうやって帰ってきたんですか?」

「んー?煌が気絶した貴方を背中に乗せて帰ってきたわよ。あ、皆様のエンブレムはいつの間にか戻ってきたみたい。それよりも、炎狼ちゃん三日も寝込んでいたのよ、心配したでしょ!?」

いつもなら、自分の名前に『ちゃん』 付けする母親に文句を言うのだが母の泣きそうな表情を見て、それが口に出来なくなった。

やがて、こちらに向かってくる足音が聞こえる。六人は早足で、一人だけ悠々と歩いている。

(...珍しいな。ジジィとオヤジ気配殺してねぇよ。っつうか飛翔、お前も慌てろ。)

耳を澄ませながら炎狼が思っていると、勢いよくドアが開けられる。

「何じゃ、まだ生きとったか、しぶといの。」

「...全くです。」

言葉とは裏腹に、炎陽、秀炎共に安堵した表情だった。

あとも四人も笑顔で声を掛ける。

遅れて部屋に入ってきた飛翔が、

「ほら、炎狼。料理に少し時間が掛かるだろう。果物貰ってきたぞ。」

と言ってそれを炎狼に渡す。

炎狼は「サンキュ」と言ってそれに齧り付いた。

傍で母親が「私が皮を剥いてあげるわよ。」と世話を焼きたがる。

そんな炎狼とその母の様子を皆は目を細めて見守った。

「申し上げます。」

突然入り口で緊迫した声がした。

「ただいま、時の国の者たちが侵攻してきたという報告が入りました。先代、如何いたしましょう。」

ドアを開け、片膝をついた伝令が炎陽に報告をする。

それを聞いた飛翔が近くの窓から飛び出し、文字通り飛んで市街地に向かって行った。

「待て、飛翔!!...もうあんなに遠くへ。まぁ、飛翔なら心配ないじゃろ。
儂は、すぐに軍本部へ言って指揮を執る。皆は客人、頭領、その妻の炯Y(けいよう)、炎狼を守れ。
おい、炎狼、どこへ行く!そんな体で無茶するな、戻って来い馬鹿者!!」

炎狼は、炎陽が指示を与えている者を飛び越えて部屋から飛び出し、煌の背中に乗って屋敷の外へ向かって行った。

「炎陽殿、オレも微力ながら力になります。一応、能力者ですから。」

そう言った大地に続き、氷、雷、沙羅も屋敷から出て行った。

「炎の民...他愛も無いな。太古の昔は『戦の民』と称されたらしいが、時が経つにつれてその血も薄れていったか。」

覆面の黒装束の男が上空で嘲笑する。

その隣には、腰までのおさげを覗かせた、同じく覆面の子が腕を組んで市街地を見下ろしている。

市街地は負傷した兵や、一般人で混乱していた。

「いい加減にしておけ。」

そう言ったのは、いち早く市街地に着いた飛翔だった。

飛翔は眼下の市街地に視線を遣り、黒装束の二人を睨みつけた。

そんな飛翔をおさげの子が嗤った。

「正義の味方登場!ははははは。武器も持たずにあたし達に勝とうって言うの?凄い自信じゃない。...ちょっと、少しは反応を返しなさいよ!!」

飛翔は不敵な笑みを浮かべ、

「いや、申し訳ありません。余りにも貴方が高度な事を仰るものでしたから言葉を失くしていたのですよ。失礼しました。こちらといたしましても、貴方たちは招かざる客というところですので、早急にお引取り願います。
余り長居をされると、迷惑この上ない。」

と慇懃無礼な態度をとった。

それを腹立たしく思ったおさげの子が飛翔に殴りかかろうとして、もう一人の覆面に止められる。

「何で止めるのよ!?」

「こいつは俺がやろう。お前は下の炎の戦士にしろ。空中戦はお前には向かないだろう?それと、『七勇』って言うのが復活したらしい。それにも気をつけておけ。」

そう言われたその子は、不満そうに覆面の男を見た後、降下して行った。

「それじゃあ、始めようか。...本当に素手なんだな、凄い自信だ?それとも、武器を忘れて来た、ただの馬鹿か?どちらにしても、お前は此処で消える。風の戦士さん、だろ?」

言い終わった途端、男は手に持っていた刀で切りつけてきた。

飛翔は、男の連続に仕掛けてくる攻撃を余裕でかわす。

それを見た男は、にやり、と笑い、風を操る攻撃も加えてきた。

「な?!この風は!!」

飛翔は自身の風でそれを防ぎながら、何かに驚いたように呟いた。

それから先、飛翔は攻撃をせずに防御に徹して市街地に被害が及ばないようにするだけだった。










桜風
04.11.14


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