森の章 最終話





その日の夜。

沙羅は寝付けずに庭を散歩する。

明日出発することはもう決めていた。

エンブレムが返ってくるまでに2日半かかったらしい。

雷のときは3日前後だった。

段々魔族の侵攻の間隔が縮まっている。

飛翔は向こうが本拠地にしている国に近づいているのだから、慌てているか、移動に時間が掛からなくなったかだろうと言うが、それなら尚更早く移動をした方がいい。

城の者たちは惜しんでくれたが、明日出発することを決めた。

しかし、今日の夕飯に父の姿が無かった。

父は怒っているだろう。

言いつけを守らなかった自分を。心配してくれていたのは分かっていた。

しかし、それでも行かなければならなかった。

ふと、庭にあるお気に入りの木を目指した。

木の下に人影がある。

「お父さま...」

それは沙羅の父だった。

「沙羅、か。どうだ、お前も」

そう言ってグラスを軽く上げる。

沙羅は父と並んで座り、空を見上げる。

「蓮に、会ったか?」

そう声を掛けられて驚いた沙羅は父を見る。

「蓮がな、私の元に来たよ。『沙羅をとてもステキな子に育ててくれてありがとう』と言われた。私と過ごした数年が一番幸せな時間だったと言ってくれたよ」

「はい。わたしに試練を出してくださったのがお母さまでした。でも、お母さまに会えてとても幸せでした」

「綺麗だっただろう?」

「はい、話に聞いていたよりもずっとずっと綺麗でした」

「それに、蓮は優しかった。だから、あんなにも召喚獣に好かれたんだろうな」

「はい」

「沙羅、しっかりやりなさい」

「はい。...ねえお父さま。この木」

そう言って沙羅が木を見上げる。

「夢幻六花か?我が国のシンボルだ。だが、もう随分昔から花をつけていない。それがどうかしたか?」

「はい。きっと、近々花を咲かすと思いますよ。やっと分かりました。この木は私たちの七国を表しているんです。いつも緑色の葉が茂り、花の色は六色。赤、橙、黄、青、白、そして、黒。ね?七国なんです。だから、国同士がいがみ合う今の状況が終わって、平和になって国同士が仲良くなったらきっと花を咲かせます。この木は平和の象徴なんです」

強い意志を宿した瞳で沙羅は父にそう言った。

父はその視線を受けて一度目を伏せ、

「...そうか。では、我が国も剣を置かねばな」

と言って沙羅の瞳をまっすぐ見据えた。



翌朝、出発する時刻となった。

港に行くと近衛隊長と国主が居た。

「お父さま。行って参ります」

「ああ、国のことは私と近衛隊長に任せなさい。だから、お前は夢幻六花の花を咲かせておくれ」

そう言って沙羅を抱き締め、そして皆に深々と頭を下げた。





夢幻六花の花言葉:光り輝く未来











桜風
06.10.8


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